第八話
帰りの途中、僕は勇者の事について考えていた。
前回、僕は『勇炎教』が嫌いだと言ったが、別に僕は炎が嫌いなだけであって、勇者という概念は嫌いじゃない、むしろ好きだ。
悪い魔王を正義の勇者が聖剣で倒す、その旅の途中で、頼もしい仲間との絆を深めていく。
ゲームでしか見たことない物語が現実に在るからこそ、此処に来たばかりの僕は心を保っていられたのだ。
そうそう、勇者と言えば条件が必須だ。
聖剣を抜く、体のどこかに痣がある、どれもこれも聞いたことのある条件だが、この世界の条件はまぁ何とも面白みのないものだった。
17歳の白髪の少年。
これが勇者の条件、確かに僕はもうすぐ17歳だが、髪は真っ黒なので条件に当てはまらない。
なので小さい頃、ホープのような同世代の子供は、白い髪の子を中心に勇者ごっこをしていた。
僕はいつも魔物役である、いやまぁ普通は加減を知っている子が多いのだが、どうにもホープだけが木刀でボコボコにしてくるので痛い、冗談抜きで骨が折れた。
そんな訳で楽しい幼少期を過ごしていたことを思い出している僕だが、ひとつ、気がかりがあった。
『またそんな遊びをしたのか、勇者など、くだらない』
このセリフを言う時、ブレイバさんは心底気持ち悪そうにため息をつくのだ。
本人の口から直接聞いたことは無いが、たぶんブレイバさんは勇者が嫌いなのだろう。
みんなの親が自分の子供に戦士になれ魔法使いになれという所を、僕には先生になれと言われた。
勿論、僕は反発した、誰だって勇者になりたい、その気持ちは幼い僕にもあったからだ。
でも、ブレイバさんは珍しく怒った、そして、泣いた。
反発する気も失せてしまった、僕はその場だけの言葉で考えを改めたふりをした。
するとブレイバさんは心底安心したような顔で、小さな僕の事を抱きしめてくれた。
今考えても、何故ブレイバさんがあそこまで反発するのかが、僕には分からなかった。
勇者に恨みでもあるのだろうか?『勇炎教』に聞かれれば殺されるほどの失言を一瞬口に出しそうになり、僕は慌てて口元を抑えた。
そんなこんなしているうちに、僕は自分の家に着いた。
「ブレイバさーん、帰りました……あれ?」
鍵が開きっぱなしのままなのに、ブレイバさんがいない。
不思議に思いながら辺りを見渡すと、テーブルの上に紙が置いてあった。
ブレイバさんの字だ、手紙には綺麗な字でこう書いてある。
『 リグレットへ
急な用事を思い出したので、しばらく家を留守にします。
冷蔵庫の中の物を何でも食べていいので、大人しく待っていてください。
それと二つ、言いたいことがあります。
今日受け取ってもらったそれはプレゼントです、受け取ってください。
それと二つ目、これは絶対に守ってください。
何があっても、私が帰ってくるまでドアを開けない事。
約束を守ってくれると信じています。
ブレイバより 』
これがプレゼント?思わず手の中の剣を見る。
正直言って、こんな歪な剣を貰っても嬉しくない、どうせならもっとカッコいいのがいい。
それと、だ。
『何があっても、私が帰ってくるまでドアを開けない事』
ブレイバさんらしくないなぁ、不思議に首を傾げるも、その真意は分からない。
「……ダメだ疲れた、今日はもう寝よう」
そう言って、僕は買ってきた食材を冷蔵庫にしまった後、倒れ込むようにソファーに寝転がった。
こうして幸せの水は枯れ、人生という乾いた森は運命の炎に蝕まれていく。