表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
56/57

「炎」第三十六話

「……とまぁ、そう言う訳だ」


 アルドは、私から目を背けない。怒っているだろうか、悲しんでいるだろうか? 不甲斐なく、申し訳なく。でも今更、私のような老害にできることなど何もない……ただ、問い詰める眼光は、私の責任を眉間に擦りつけてくる。


「事情は分かった、だから始めに言っておく。――このクソ野郎、いつまで夢を見ていやがる」

「すまない」

「お前一人なら良かった。お前一人だけなら、まだ『みんなの為に死んだ可哀そうな男の話』で済んだ。お前一人で抱え込むんだったら……俺やシルド、アグリメント、ウィッシュなんて……お前があんなことしなけりゃ……!」

「――俺は既婚者だ!」


 怒りが、とっくに権利の無い俺の怒りが、ぎらついた老人を揺るがす。暴力は良くない、仮にも『勇者』を語った人間のとる行動か? これが。笑わせてくれる、元々私はこの程度の人間でしかなかった、所詮、正義の代表なんて人間には務まらない。だからこそ、私は逃げた。命がけであの剣から、責任から……。


「……どうするんだよ」

「考えてるよ」

「具体策を言え! 固まっているか? イメージはあるのか? どうすればお前に拾われた、哀れな哀れな身代わりの少年を、あの地獄の正義ごっこから救い出せるんだ⁉ おい勇者、いいや偽善者! 答えろよ、答えて見ろよ!」


 無論、返す言葉も返せる言葉も無い。足掻く術はもう何もない、私にできる事が無いことを分かっているからこそ、彼は怒りを爆発させることしかできないのだ。――だから。


「すまない」

「――冗談じゃ、ねぇよ」


 深く、深く頭を下げた。アルドは崩れ落ち、私の無責任さと不甲斐なさに涙した。

 あの子も、私が頭を下げれば諦めてくれるだろうか?

 それとも、諦めて許してくれるだろうか?

 もしかしたら、『勇者』とか言う称号の名の下に、無償の笑顔で手を差し伸べるのかもしれない。勿論私にそれを握る資格は、無い。

 必死に抜け出したかった地獄の炎は、収まることなく……私の胸の奥で、罪悪感として燻り続けている。いつか再び、炎になる事を夢に見て……今も私と、あの子を焼き続けていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ