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「怨」第三十五話

 気持ちいい。

 気持ち悪い。

 でもやっぱり気持ちいい?

 いいや、それでも気持ち悪い。


「……」


 何故そんな顔で僕を見る? 今の僕は、正義そのものである。仮に目の前の義父が勇者であろうが、僕はそれを超えている……この美しい鎧を、さらに美しい勇者の剣の黒い輝きを! たとえこの世界に神という絶対存在が在ったとしても、僕はその席に座る権利を有しているに違いない!


「仮に、『無の魔術師』が存在しなかったとして……お前は『憤怒』だけではなく、『傲慢』の席に座る事も出来ていたかもしれないな」

「そう、そうだ! 全ての力は、正義は僕のもの! それは例え、元勇者のあんたでも例外じゃない!」


 ――この一撃で仕留める。『流』!!


「遅い」


 急接近したはずなのに、後ろに回り込まれている……? 防御を、いいやこのままカウンターを狙って――。しかし僕の思考が巡る前に、『鎧』を貫通するほどの衝撃が横腹に突き刺さる。剣ではない、ただの拳による一撃だった。


「がっ」


 吹き飛び、転がり、削れる。岩を何個砕いた? 骨は何本折れた? 回復までにどれぐらいかかる? なんだよ、おい。この力を、この尊い美しい力を、ただの人間の努力なんかで乗り越えられてたまるかよ。ふざっけんなよ!


「がぁあああああああっ!」

「獣め」


 殴られる、また殴られる。最大出力で魔力をまき散らしても当たる訳なく、最後まで殴られ、殴られ……とにかく屈辱と怒りに心が焼け焦げる思いだった。


「――出て逝け」


 顔面に強い一撃。意識を一瞬失って、また元に戻る。噛みつくような勢いの接近を繰り返して殴り飛ばされて、また近づいては殴られ続ける。朦朧とする蝋燭のような意識の中で、僕はある事に気づいた。


「なぁあああんで剣を使わねぇんだよ」

「……」


 そうか、そうか! こいつは僕の父親だった! 「僕」を、聖剣に侵された「僕」を殺したくないんだ! そうか、こいつに「僕」は殺せない……だったら、勝ち目があるかもねぇ?


「おーとーうーさ~~~ん」

「っ」

「何だ剣使わないの? やろーよチャンバラチャンバラ! 元勇者様とのチャンバラやりたいなーやりたいなー!」


 そうだ、そもそも近づくから殴られるんだ。剣を使えば確実に僕が死ぬ……拳でしか相手は戦えない。拳の間合いは限られている、それはつまり離れて戦えばいいのだ。


「【燃えろ】!【燃えろ】……【燃えろ】【燃えろ】【燃えろ】【燃えろ】!!!!」


 火の玉が、美しき黒刀から現れた黒い火球がいくつも飛ぶ! ようやく腰の剣を抜いた糞爺は、余りの手数の多さに、ようやく血を流した! いいぞ、苦しめ……もっと苦しめ糞爺! これだ、これこそが勇者の、いいや絶対的正義の持つべき力であるべきだったんだ! まともに戦うなんてばかばかしい事はしない、「魔法」という間合いを支配できる万能の攻撃方法で圧倒するだけ! 素晴らしい!


「死ねー! 死ねぇええええええっ!」



 楽しかった。狂っていた。分かっているさそんな事。


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