「炎」第三十四話
「さて、これからどうする?」
久しぶりに背筋が凍った。たまにブレイバさんはこうやって、老人とは思えないような貫録と覇気を出して喋る事があるのだ……町が燃えたあの日もそうだった。何やら気が張り詰めていて、とても……怖かった。もしかして、何か知っていたのではないかと思ってしまうほどだった。
「この国にはもういられない、かといってホープちゃんを連れて行くのは危険すぎる……そこでだ、私から提案があるんだ」
「提案?」
「ここから少し歩くと村がある。リグレットは知っていると思うが、そこには俺の知り合いのシルドがいる。普段は酔っ払いだが悪いことはしないし実力もあるから、安心だと思うんだ」
なるほど、確かに信用できる。前にこっそりシルドさんに稽古を付けてもらったことがあるが……一度も勝てたことは無い。拳は正確に急所に当たり、実力はブレイバさんにも匹敵するかもしれない程だ。
「もちろんこれはホープちゃんが良ければの話だ。もし嫌ならリグレット、お前が背負ってあげなさい」
「構いませんブレイバさん……いいえ、お義父さん!」
顔から火が出るかと思った。不意打ちにしては強力過ぎる……まずい、ブレイバさんからなんて言われるか……。
「……ありがとう」
でも、ブレイバさんは何も言わなかった。ただただ少し下を向き、心底安心したような……なんだか、とても不安になるぐらい穏やかな表情だった。
「さて、そうと決まれば早速行こう! 十分休んだ、魔物が出やすい夜になる前に、シルドの家にお邪魔しようじゃないか」
そう言ってブレイバさんは歩き始めた。僕は慌ててホープを背負い、その悲しげな背中を追いかけた。




