「怨」第三十三話
拳が突き刺さり痛みを感じるまでの一瞬で、僕の体には大きな変化があった。
美しい刀身からにじみ出た黒い何かが皮膚を突き破り、僕の体の中に入ってきたのだ。
それは僕の破れた肉を縫うように繋ぎ止め、ひしゃげた骨の代わりに固まった。
自分の体に入ってきた異物、本能的に体が拒絶反応を起こし、体が痙攣を始めた。直後、殴られた顔面の衝撃が体全体に伝わり、僕の体は原形を留めないまま地面にめり込んだ。
「……!?」
ああ、ようやく見せてくれたねクソ野郎、僕は、その表情が見たかったんだ。
「『どういうことだ、確実に頭蓋骨ごと脳を粉砕したはず!』ってとこかな?」
いつもより調子のよい四肢を使い、全身で目の前の存在に皮肉を贈る。僕が口を開くよりも先に拳が目の前にあったが、避けようとは思わない。また直せばいい話なのだから。
「ー、ー、っあー」
脳味噌と一緒に意識まで吹っ飛ばされたらしい、目覚めた次の瞬間、僕は仕方なく目の前の中年の拳を掴んだ。
「そう簡単にやられるわけ、ねぇだろ!」
攻撃よりも先に僕の腕が右に二回転、関節が嫌な音を立て、中年が力任せに引っ張るだけで千切れた。血の色が赤から黒色に変わっていたことに驚いた、美しい、勇者の自分に流れる血に相応しい色だった。このまま見ていたい気持ちもあったがそこは堪え、腕を直した。
「……」
黒い刀身がさらに美しく、機械剣からにじみ出る黒い何かは、まるで鎧のように体を包んでいた。
「……」
思わず、笑った。




