「怨」第三十話
「今も燃えているだろう? あの村にはな、俺の実家があったんだよ」
声の輪郭がおぼろげに掴めるたびに、頭の中がおかしくなりそうだった。
何故理解できない? 正義の為に犠牲は必要だ、自分に大人しく支援をしなかった存在など、守る価値が無い。
「――く、そが」
「10年ぶりにブレイバと話して、あの町が燃えるって言われた時は焦ったよ、親父と話をして、嫁と娘をこっちに避難させたんだ、季節外れの里帰りとしてな」
鈍い痛みが鳩尾に突き刺さる、口の中が液体のようなもので埋め尽くされたと同時に、自分が血反吐を吐いたことを知った。
「今日はたくさん贅沢したよ、でっけぇ魚を丸焼きにして、パンも米もたらふく食って、ぐっすり寝てた。でも俺は酒を飲みすぎて、ちょっと遠くに小便に行ってたんだよ」
宙に投げ出され、地面に叩きつけられた。
肺の中の酸素が全部すっ飛んで、突き落とされたみたいに意識がぐるぐる回って……。
「帰ってきたら、村が燃えてんだよ」
落ちて行く意識の中、僕は汚いおっさんの戯言を、しっかり耳に刻んだ。
「いつから勇者なんて云う存在は、ただの大量殺人鬼に成り下がっちまったんだよ」




