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「炎」第三十話
「ホープ!」
割れた窓ガラスの前に仰向けになっている自分の恋人の下に、僕は慌てて膝を突いた。
ひどく驚いている彼女の事なんて気づきもせず、華奢で美しい手を、しっかりと握りしめた。
「ごめん、こんなところに置いてっちゃって。怖かったよね、外にブレイバさんがいるから、また僕の背中に…」
「謝るところは、そこじゃねぇだろ」
強く掴んだ手を、さらに強く握られて、次に頬を平手打ちされた。
「怖かった? ああ怖かったよ、いきなり私を降ろしたお前の背中がな。ここから地面までどれぐらい高さがあると思ってんだよ、しかも下にはおっさんと大剣爺の戦いの真っ最中だったんだぞ?」
怒鳴るように僕の顔面に浴びせられる言葉一つ一つが、震えていた。僕の手を握る手が、信じられない程、頼りなかった。
「頼むからさ、危ないことしないでよ…」
「……ごめん」
そう言うと、ホープは僕の肩に手を置き、ぐるりと回してきた。――背中に乗せろ、との事らしい。
僕は黙ってホープを背負い、顔を上げた。
「行こう」
廊下を、走った。




