「怨」第二十八話
じゃらじゃらと音を鳴らしながら、正義の為の金が入った袋を引きずる。
回収したのは少量のつもりだったがやはり重い、宝石や貴金属を取りすぎた。
袋の中身が有益なものではなかったら、今頃は袋ごとずたずたにしていたことだろう、行き場の無い不満と、我慢しなければ正義は執行できないという事実が自分の中で拮抗する。
結果、僕は仕方なく袋を引きずり続ける選択をし、換金所がありそうな村へ向かうべく足を進めた。
「おい、落とし物だぞ」
ふと、背後から声が聞こえて来た。同時に自分の目の前に何かが飛んできた。
反射的に片手に持っていた機械剣を振るう、飛んできた何かは真っ二つに…直後、跡形も無く肺になって消え去って行った。
何かが飛んできた方向を見ると、そこには見覚えのある大きな腹が見えた。
もみあげを覆う黒い髭、中年太りの、名前は確か―――
「……ああ、シルドさんじゃん」
僕は見慣れた「元」隣人の腹を軽蔑するように見下しながら、金品の入った袋をその場に置いて、機械剣を握りしめる。
「ここで何してんの? 仕事は? タバコは止めれた? 太った汚ねぇ奥さんは元気?」
一歩、また一歩と近づき、距離を詰める。
「何だよその顔、ただでさえ中年臭い顔が辛気臭くなってどうすんの、僕勇者だよ? 土産どころか会釈も何もない、挙句僕の正義の為のお宝を投げつける? ――笑わせんなよ中年が、死ね」
体に叩き込まれた剣術を使う、名前は確か…『流』だっただろうか? 正直どうでもいいが。とにかく距離を詰めた僕の輝かしい漆黒の太刀は、中年の臭い首に突き刺
「んな訳ねぇだろ、大人を舐めてんじゃねぇよ」
次の瞬間、見える世界がぐるりと一回転し、右顎に鈍い衝撃が走った。




