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「怨」第二十七話
炎が、村を包み込む。
血と肉が焼け付く匂いだ、あの時と同じだった。炎に包まれた人々が地に伏せている、人の形を保ってはいるが、丸焦げだ。
「へぇ、酒に火を付けると良く燃えるっていうのは聞いてたけど、まさかここまで燃えるとは思わなんだ」
空になったジン酒瓶を投げ捨てる、粉々に砕け散った破片の一つ一つが、炎に彩られ輝いていた。綺麗だなぁと思った、同時に、横で転がっている黒焦げの人型を、汚いと思った。
「……」
炎を見ると気分が悪い、如何に頭に血が上っていたとはいえ、思い留まればよかった。
「ま、僕勇者だからね、我慢しないと」
ずっしりと重い袋を肩に担ぎ、僕は村に背を向けた。叫び声が聞こえようが、助けを求める声が聞こえようが、罪人の声など自分の耳に入らない。
燃えていく、何の罪もない村が、勇者の象徴たる炎により。空に向かって、黒い煙が昇っていった。




