「怨」第二十四話
「ひっ……ひぃい!」
僕の目の前でゴミが怯える。当然だ、誰にだって正義はある。間違った道に進んだ悪が後ろめたさで正義を恐れる、これは当たり前だ。
ここで慈悲を与えるような生温い正義もあるけど、勇者の僕は完全なる正義でなければいけない、よって。
「ぎゃあ」
ぶしゃあっ! 悪事を働いたゴミの血が、僕の正義の肉体に触れる。
「汚いな」
魔物の血といいゴミの血といい、この世には汚いものが多いと心底思う。
悪いことをした生き物は味を占める、ならば、占めた瞬間に殺せばいいのに、殺さない。
どうして殺さないか、それは許す側も悪だから。
許して許して、自分の味方を増やして自分を「正義」だと思い込みたいから。
「そんなことさせると思う?」
僕は笑う、まだ息のあるゴミを殺しながら、笑って。
「悪は殺す、悪を許す悪も殺す、悪を許す正義も殺す! この世には正義があるべきだ、間違いなんていらない、間違う生き物なんていらない!」
なんて素晴らしい考えだろう、汚い血でまみれた自分の体を抱きしめる。
「……ああ、今日は月が綺麗だなぁ」
暗い夜の空も、この美しい黒刀の純黒には届かない。
僕は剣を抱きしめ、また再び歩き始めた。




