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「怨」第十九話

今の状況は、十分分かっている。


僕は勇者、世界を救う正しいことをする者。

だからこの行動は正しいし、少しも間違っているとは思わない。


何故なら僕は勇者だ、正しいことをするのが、最善で最優先の役目なのだから。

だからみんなが正しいと思う事をしなければいけないし、何より自分が笑わなければいけない。


「‥‥‥‥‥」


だから僕は最善の選択を選び、今こうして人を殺した。

身動きの取れない育ての親の肌は意外と硬く、思ったようには切れなかった。


少しは悲しくなるかな、そんな事を思っていたがやはり自分は勇者だ、100%この行為は正しいと思えた。

僕は首から剣を抜き取り、付着した血を剣を振るう事で払った。


「まだお名前聞いてませんでしたね、教えてくださいよ」


気楽そうに老人の事を指差し、帰り血まみれのリグレットは笑った。

老人は戦慄せずにはいられなかった、怖い、とさえ感じた。


「………それが、お前の覚悟か?」

「ええ、勇者は正しいことをしないと」


即答、無意識かわざとなのか、リグレットは地に伏した男の頭を踏みつけていた。

まるで自分の力で狩った獲物を見せびらかすように、一切の躊躇なく。


「一つ聞く、お前にとって勇者とは、何だ?」


心底不機嫌そうな顔をしながらこちらを見る老人の問いに、リグレットは笑った。


「みんなのヒーロー、殺すだけで人気になれる楽な職業、ですかね」

「‥‥‥‥」


答えないまま、老人は大剣を担いで背を向けた。


「魔物を殺したいなら、北に行け」


まるで目を合わせたくないような素振りだった、リグレットは笑いながら、反対側の咆哮へと歩いて行った。


「…………」

そう言って老人は瞼を閉じた、深いため息をついて、それから振り返った。


「凄いな、お前、あんなので変わりが務まると思ってたのか」

「すまない」


むくりと起き上がった血まみれの男は、軽く老人に頭を下げた。

その表情には何本もの血管が浮かび上がっており、今も尚再生を続ける傷口から血が噴き出していた。


「どうするんだよ、あれ」

「決まっているさ、私が殺す」


そう言った男は、落ちていた自分の丸メガネを踏み潰した。

何度も何度も踏みつけ、粉々になるまで、ぐしゃぐしゃになっても、まだ。


「‥‥‥‥」


老人は、男を憐れみの目で眺めながら、ゆっくりと尋ねた。


「なぁソラ、お前はもう自由だ、ただの一般人なんだ、お前が責任を取る事は無いんだ」

「ありがとうよ相棒、でもな、私はあいつの家族なんだ、最後の別れぐらい、私に独り占めさせてくれないか?」


頭を下げるブレイバ、老人は何も言わないまま、ブレイバに背を向けた。


「殺されるなよ」


「当たり前だ」


振り返らないまま、老人は階段を下りて行った。


急に静かになった扉の前で、一人残された男は自分のうなじに手を当てた。

べっとりとした自分の血が付着した自分の手を、男はしっかりと握りしめた。


「久しぶりに遊ぶか、俺のリグレット(後悔)、俺のたった一つの家族()よ」


そのまま男は当たり前のように王の間の扉を開き、中に入って行った。


既に運命は、ボロボロに燃え尽きていた。


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