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第十六話

ブレイバさんの言葉を、僕はたっぷり10秒は吟味した。


勇者、ゲームや漫画に出てくる、悪い魔王や魔物を倒す正義の味方。


僕はその言葉に、少し遅れて感情を爆発させた。


「という事は、僕は選ばれし勇者ってこと⁉」


僕はその場で飛び上がり、抑えきれない感情を体で表現した。


「凄いよブレイバさん!僕なんかが勇者だなんて!それに何なのさあの剣!すんごいカッコいいじゃんか!しかも強いし!」


はしゃぐリグレットとは対照的に、ブレイバはそこまで喜んではいなかった。

むしろ、嘆いているような悲しい顔をしていた。


「もしかしてさ、ブレイバさんが剣の稽古を付けてくれてたのってさ、俺が勇者だって知ってたか


「そんな訳ないだろう!?」


机を勢い良く叩き、ブレイバさんは叫んだ。


「お前が勇者な訳がない!私が君に稽古をつけたのはな、君が君らしく生きるためにやったんだ!勇者なんていうくだらない事の為にやったんじゃない!」


荒い息を吐きながら、ブレイバさんはハッとした顔をした。

手をこまねき始め、たじろぐ僕と目を合わせないようにしながら、ブレイバさんは席に座り直した。


「・・・・・・すまない、カッとなってしまった」


目元を抑えながら、ブレイバさんは僕の目を見た。


「まぁまずは座ってくれ、私がしたい話は、これだけじゃないから」


僕はとりあえず席に戻った、何やらブレイバさんは疲れてるみたいだ。

ブレイバさんは申し訳なさそうに薄く笑うと、持っていたバックから何かを取り出した。


それは、何かの契約書だった。


「これは?」


「よくぞ聞いてくれた、これはな、私たちの家の契約書だ」


思わず声が出た、待ってましたと言わんばかりにブレイバさんは笑った。


「前に住んでた家より広いし、庭に畑もある、農作業をしながら収入を得て、静かに暮らそうと思うんだ」


「素敵だね、でも」


「あとあんまり喜んじゃあいけないんだけどな、ホープちゃんのご両親が無くなったらしい、そこでだ、ホープちゃんもこの家に住まないかって聞いたらOKしてくれたんだよ、君たち付き合ってるんだろ?この際結婚すればいい」


「ブレイバさん」


「楽しくなるだろうなぁ、子供部屋を作るスペースもあるんだ、まだまだ元気でいなきゃいけないね、君たちの子供の事だから、きっと・・・・・・」


「・・・・・・」


僕は黙り込んだ、それが正しいのか分からないまま、ブレイバさんの目を見つめた。

ブレイバさんは目をぱちぱちさせながら、変な風に笑った。


「あははっ・・・・・どうしたのかな?あ、もしかしてサプライズにするつもりだった?」


「正直に言います、僕はあなた達とは暮らせません」


ブレイバさんの目が少し開いた。

でもこれを逃せば何も言えなくなる、だから、僕は続けた。


「僕は勇者です、悪い魔物を倒して、世界を救う勇者なんです」


「ははっ、もう冗談を言う年になったか、そりゃそうか、もう10年


「ホープをよろしくお願いします、あいつ意外と寂しがり屋なので」


僕は立ち上がって、面会室の天井を見上げた。


「すみません、どなたか知りませんがここから出してもらえませんでしょうか?」


「待ってくれ、何をしているんだ」


ガラス越しのブレイバさんを優しい目で見つめながら、僕は頭を下げた。


「今までありがとうございました、これから僕は旅に出ます」


「何を馬鹿なことを・・・・・そんな事しなくても君は十分幸せだろう?」


引きつった笑みだった、明らかに笑っていない。


「はい、貴方のおかげで幸せでした、でも僕は勇者です、皆の希望なんですよ」


口を開きかけたブレイバさんに、僕は畳みかけた。


「凄いと思いませんか⁉こんな僕が、皆が大好きな勇者様ですよ!?これでやっと恩返しができるんです、これでやっと胸を張って貴方の前にいることができるんですよ!?」


その言葉を聞いて、再びブレイバさんは立ち上がった。


「そんなことしなくていい、君は君の人生を生きればいいんだ、勇者なんてほんとはやりたくないんだろ⁉頼むからそんなクソみたいな使命感に溢れた顔を向けるなリグレットォ!」


ガラスをバンバン叩くブレイバさんは、まるで駄々をこねる子供のようだった。

僕は何故この人がこんなことをするのか分からなかった。


「魔王を倒して帰ってきます、次に会う時、僕はたくさんのお宝を持って帰ってきますよ」


背を向けるリグレット、ブレイバは首を横に振りながらガラスを殴った。


「いらない、そんなものいらない!なぁ聞いてくれリグレット、魔王なんていない!魔物たちは平和に暮らしたいだけなんだ、だから君は間違ってる、勇者なんて言うのは人間が生み出した都合の良い絵空事なんだ!」


ガラスを思いっきり殴るブレイバさん、僕の名前を叫びながら、部屋から出ていく彼の背中に手を伸ばした。

見えているのに届かない、たった一枚のガラスによって、ブレイバの願いは踏み潰された。


がちゃん、リグレットのいない面会室に、ドアの閉まる音が響いた。


「―――――あ」


涙を流しながら、ブレイバはその場で泣き崩れた。


「うわぁぁぁぁぁあああぁあぁぁぁあぁぁぁぁああぁあぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」


こうして、少年は勇者として、自らを火の海に投げうった。

先駆者の警告、嘆きが届くことは、無かった。


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