第十一話
大半が予想通りだった。
黒焦げになった死体が地面を埋め尽くし、崩れた屋台の商品が腐っていた。
二つの腐敗臭が鼻に付き、喉の奥から酸っぱい何かが溢れ出した。
剣を抱えながら吐いた、昨日食べた朝食を、幸せな最後の晩餐を。
吐く物を吐き、僕はまず口の中の汚物を全て吐き捨てた。
「はぁ・・・・・・・・はぁ・・・・・」
荒い息を吐きながら、僕は辺りを見渡す。
ここで自分が発狂しなかったのは、まだ卑しく希望を捨てていなかったからだろう、弱弱しい足取りで、僕は死体の山を歩き始めた。
誰でもいい、話がしたい。
焼け焦げていない人間がいて駆け寄っても、魚のような目でこちらを見つめるので、僕はその度に吐いた、吐いて吐いて吐きまくって、遂には吐く物が無くなってしまった。
そんな事を何回か続けていると、僕は察した。
ああ、もうこの街で、生きているのは僕だけなんだな。
その場に膝を突き、僕は天を仰いだ。
普段なら星が見えるはずなのに、炎の明るさで星の光が消されてしまっている。
「は、はは」
最早涙さえ乾いてしまう、泣いても泣いても、それに気づく人は皆逝ってしまった。
「・・・・・・・・?」
気のせいだろうか、うめき声が聞こえた。
反射的に僕の体に活力が戻る、放り出した剣を握り、走り出す。
生きているだろうか、生きていてくれ、頼む。
「ホープ!」
声の聞こえた方向に走ると、瓦礫の下敷きになっている恋人がいた。
「・・・・・・・・・」
いっそのことここで死んでしまおうか、そんな事さえ思った。
この人さえ生きていてくれればまだ笑えた、もうだめだ、今すぐ火の海にでも飛び込もう。
そう思った、矢先に。
「ゴほっ!げほっ・・・・・がはっ!」
背を向けた彼女の口から、真っ赤な血が溢れたのだ。
僕が振り返ってもまだ咳き込んでいる、内臓か何か傷ついているのだろうか?
・・・・・・・・・いや。
そこじゃ、無いだろ!
「今助ける!」
彼女に圧し掛かる瓦礫を、一つ一つ放り投げていく。
生きていた、生きていた!でも安心はできない、内臓が傷ついているという事は、早く適切な処置をしなければ意味が無い。
必死に、それでいて一握りの幸せに手を伸ばしながら、僕は瓦礫を放り投げ続けた。
でも。
「・・・・・・・・なんで」
無理だ、これ以上は。
瓦礫の量は大したことない、少し頑張れば救えるのだ。
見る限りでしか分からないが、ホープの傷も絶望的ではない。
でも、それでも無理なのだ。
「なんで、こんなところに火竜がいるんだよ・・・・・・・!」
こちらを睨みながら、火を噴く竜が迫ってきていた。




