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第十話
「は?」
否定も逃避もどうでもいい、あるのは日常を形作る様々なものが無くなっていく、そんな喪失感だった。
朝を彩る緑が灰になった、静かな夜が悲劇に覆われた。
僕はただ、自分の無力さに発狂しそうになる自分を抑えるので精いっぱいだった。
しかし人間とは不思議な生き物だ、自分がその時最も触れてはならないものに、手を伸ばしてしまうのだから。
動かした目線の先には、黒焦げの人形がいくつも転がっていた。
ここから見ただけでも三人、最早原形をとどめていないご近所さんがあった。
初めはそれが人の死体だとは気づけなかった、だが、それに気づいた瞬間、気づいてしまった瞬間、僕の最後の日常は音を立てて崩れ去った。
魂が抜けたような足取りで、僕は後先考えずに歩き始めた。
まだ人がいるかもしれない、そんな淡い希望を抱きながら。
行く先はホープのいる市場だ。




