プロローグ~燻る炎怨~
太陽がまだ眩しい時間帯、リグレットは井戸に写る自分を見ていた。
血が滲んだような赤い目、やせ細った顔に白い肌。
不健康そのものとも言える自分の容姿にコンプレックスを抱くのはこれで何度目か、これだから朝は嫌いだ。
だが水は好きだ、飲めば喉を潤し、家を燃やす火を消してくれる。
だから今日も僕は水を汲む、生活に必要な水を、生きるために必要な命の源を。
紐で繋がれた木の桶を、冷たい水が入った井戸の中に投げる、ちゃぽぉん、水の心地よい音が響く、自分が嫌になった後はこの音が一番だった。
「リグレット」
声に振り返ると、そこには狼パジャマ姿の丸メガネ白髪おじさんが立っていた。
「おはよう、今日もいい天気だね」
にこやかに笑うこの人の名前はブレイバ、可愛らしいパジャマを着てはいるが、これでも昔は名のある戦士だったらしい、たまに手合わせしてもらう時もあるが、一撃入れられたことはまだない。
ちなみに年齢は知らない、いや本人は20歳とか言っているが、守護霊の如くまとわりついている加齢臭がそれを嘘だと決定づけていた。
「おはようブレイバおじさん、朝食作るから着替えて待ってて」
「ああ、でも気を付けてくれよ?昨日は目玉焼きが哀れな姿で私の目の前に現れたからね」
「ははっ、そんなこと言ってると、甘い卵にするよ?」
「おおっと!それは勘弁!」
明るい声と同時に、おじさんは小走りで家の中に入って行った。
「…………」
井戸からすくい上げる水の重さ、それが重ければ重いほど、自分が今幸せだという事実に磨きがかかる。
すくい上げた桶を片手に抱え、リグレットは片手でドアノブを掴む。
今日もまた、新しい一日が始まるのだ。