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エピローグ part3

セリアさんはまだ食べ物がたくさん残っている食卓の前にひとり座っていたが、ララが飛び下りるような勢いで階段を下りてくる音に驚いた様子でこちらを見ていた。


その目をさらに丸くして、


「えっ? ハルト君が……?」


 ほら、とララは俺をセリアさんに手渡す。


 改めて何を言えばいいだろう。なぜか気恥ずかしくなってしまう。


「え、えーと……お久しぶりです、セリアさん。相変わらず、お美しいですね。どうやらあれから何もなかったようで……本当によかったです」

「それはこっちのセリフよ」


目を潤ませながらそう言って、セリアさんは俺を強く抱き寄せた。


 むにゅん、と柔らかいふくらみの谷間。


 頭がとろける甘やかな匂いと、身体を包み込む温かさ。そうだ、この感覚だ。ああ、本当に死なないでよかった……。


「よかった、無事で……。もしかしたら、もう目を覚まさないんじゃないかって……」

「ホントよね。目を覚ますなら、もっと早く目を覚ましなさいっての。どれだけアタシたちが心配したと思ってんのよ」

「……ああ、悪かった」


 本当に、悪いことをした。この埋め合わせはちゃんといつかしないとな。


 ララが、不機嫌なその目をつとセリアさんへ向ける。


「っていうか、セリア姉、いつまでそいつと、そんな……ベタベタしてるのよ」


 え? とセリアさんは俺をさらに深くその胸の谷間へといざないながら、


「別にいいでしょう? ララちゃんだけじゃなくて、わたしだってずっとハルト君に会いたかったんだもの」

「そうだぞ、ララ。俺だってセリアさんに会いたかったんだ。少しくらい大目に見ろよ」

「大目にって……何よ、その偉そうな態度は」

「偉そうも何も……お前だって俺のこと抱きしめてただろ」

「はぁ!? 誰もアンタを抱きしめてなんかいないわよ!」

「じゃあ、俺がさっき目を覚ました時のアレはなんだったんだよ」

「あ、あれは、だって……ほ、ほんの一瞬のことじゃない」

「何が一瞬だ。ここ二、三日、寝る前なんてほとんどずっとだったじゃねえか」

「別にずっとなんかじゃないわよ! ま、まあ確かに少しは――」


 ふと、ララが言葉を切る。瞬間、俺も気づく。


「――あっ」

「アンタ、今さっき目を覚ましたのよね? なのに、なんでここ二、三日のことなんて知ってんのよ」

「い、いや、それは……」


 言い訳は虚しく、ガシッと雄々しい手つきで俺はララに掴み上げられる。


「まさか、アンタ……本当はずっと起きてたんじゃないでしょうね」

「ず、ずっとじゃない! 本当に何日か前までは気を失ってたんだ! だけど、確かにそれからは、その……言い出せなくて……」

「何考えてんのよ、バカっ!」


 キーン、と兜の身体に響くような勢いでララが怒鳴った。


「っていうか、ちょっと待ちなさいよ! ずっと起きてたってことは、アタシの着替えとかも、ずっと……!」

「…………」

「今さら寝たふりしてんじゃないわよ!」

「……返事がない。ただの兜のようだ」

「何ワケ解んないこと言ってんのよ!」


ガコン!


「イタッ!?」


 いいツッコミを貰って、その衝撃で思わず声が出る。


「あら」


と、セリアさんが急にイスから立ち上がって玄関のほうへとパタパタ歩いていった。鍵を開けて扉を開き、


「おばさん……ひょっとして声が聞こえていたかしら」

「ええ。それで、もしかしたらと思って」


 そう言ってセリアさん越しにこちらを見たのは――間違いない、ララのお母さんだった。


 顔かたちはそのままに、だが表情と雰囲気だけは午後の木漏れ日のようにふんわりと柔らかくなっている。


 ララが目をパチリと丸くして言う。


「お母さん……どうかしたの?」

「どうかしたの、なんて冷たいわね。こんなに賑やかにしているのに……私たちだけ仲間はずれ?」


 セリアのお母さん――アリアーヌさんはそう言って微笑む。純白のワンピースを纏ったその胸には、産まれたばかりというような赤ちゃんが抱かれている。


「あれから、無事に産まれたんですね」

「ええ、ついこの間。――ありがとう、ハルト君。あなたは私だけじゃなく、この命も救ってくれたのよ」


 俺の傍までやって来て、俺にも赤ちゃんの顔を見せてくれる。


 桃のような肌をした、産まれたての赤ちゃんだ。白い綺麗な布に包まれて、幸せそうに眠っている。


「元気そうでよかったです。この子も、アリアーヌさんも」


 ありがとう、とアリアーヌさんは言って、それから視線をララへとやる。


「ララ……よかったわね。ハルト君が目を覚まして」

「え? べ、別に……心配なんてしてなかったけどね。頑丈なのだけが取り柄みたいなヤツだし」


 ふふっ、とアリアーヌさんは目を細める。


「よかった……。ララが嬉しそうにしているところを見られて。てっきり、あなたはもう二度と笑ってくれないのかもしれないと……」


 そんなわけでないでしょ、とララは照れる子どものような顔で言って、


「ぐっすり寝てるわね」


 と、話題を逸らすように赤ちゃんの頬をつっついた。


「ユイカ、見える? アレが一応、あなたの命の恩人なのよ」

「おい、『アレ』とはなんだ『アレ』とは。――って……え? おい、ララ、今なんて言った?」

「何が?」

「今、その子の名前、『ユイカ』って……」

「ええ、そうよ。私も、その名前をつける時にお母さんから聞いたわ。この子は――アンタの妹。アンタと一緒に、この子もこっちに来ていたのよ」

「そ、そんな……そんなこと知ってて、どうして俺に教えてくれなかったんだ!」

「アンタが死んだと思ってたからに決まってるでしょ!」


確かに。これは全面的に俺が悪い。


アリアーヌさんは、そんな俺たちのやり取りにくすりと笑いながら言う。


「この子がこうして産まれてこられたのは、ハルト君、あなた方のおかげなのよ。本当に……本当にありがとう」

「それは、ええと……」


 なんと言えばいいのか、解らない。


――結花……。


まさかとは思っていたが、本当に会えた。それは嬉しい。嬉しいに決まっている。


でも、だけど……ここにいるのが結花ということは、つまり元々ここにいた――この身体の持ち主だった魂は……。


「気に病まないで、ハルト君」


 俺の沈黙から察したように、アリアーヌさんが優しく言う。


「あなた方がいなければ、私はこの子をこうして抱くことなどできなかった……。責められるべき人がいるとしたら、あなた方のことをどこまでも利用した私だけよ」

「そんな……俺は、俺たちが利用されてるだなんて思ってません。むしろ、あの時すべてが終わるはずだった命が、あなたのおかげでこうして生き永らえることができているんです。こちらこそ、感謝しかありません」

「感謝なんて、そんな……」

「いや、俺は本当に……」

「待って。もうやめましょうよ、二人とも」


 と、ララが俺たちの間に入る。


「まあ、その……アタシがズボラで、細かいこと考えるのが苦手過ぎるだけかもしれないけど……お互いがお互いに感謝してるなら、それでいいじゃない。


 迷惑かけて、かけられて、それでも一緒に生きてくのが『家族』ってやつなんじゃないの?」


「ララ……」


 家族――


 その言葉を聞いた瞬間、胸の中にあった重いものがふわりと解けて軽くなるような感覚がした。


ララは、ハッと顔を赤らめながら続ける。


「見ての通り、アタシらは全員が同じ血が流れてるわけじゃないし、それどころか種族も住んでた世界も違うけど……こうしてお互いのことを思いながら生きてるなら、充分『家族』じゃない。アンタはそう思わないの?」

「……いや、そう、なのかもしれないな」


 俺はしみじみと言う。


 ララ、セリアさん、アリアーヌさん、結花……。


 この四人といま一緒にいられるという幸福を――誰かを大切にする皆の心で掴み取った今のありがたさを、俺は素直に噛み締めるべきなんだろう。


 そして何より、俺にはすべきことがある。


 ――そうだろう、ブレイク?


 今ここにはいない、きっとここにいたくて堪らなかっただろう男に思いを馳せながら、俺は彼と、俺自身、そして俺の持ち主であるララに誓う。


 ――これからも、俺がみんなを守る。


『また軽々しく『守る』なんて言葉を使いやがって』


 ブレイクには、またそう怒られてしまうかもしれない。


 でも、覚悟をしては迷って、それでもまた性懲りもせずに覚悟をして、また迷って……そうやって俺たちは生きていくものなんだろう。


 そしてその繰り返しの中で、少しずつ学んで、賢く、たくましくなっていければ――それでいいんだよな?


――なんて、やっぱり暢気すぎるか、俺?

これにて完結となります。

ここまで読んでくださり、本当にありがとうございました。


近況としましては、だんだんと涼しくなってきて創作も捗る季節となってきたので、

試行錯誤中のアイディアもそろそろまとめにかかりたいな……と思っているところです。

ではまたご縁があれば。

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