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親子の問題

「とりあえず何か食わせろ。風呂に入ってくるから、メシを用意しておけ」


 ブレイクは家に入るなりそう指示して、自分は颯爽と風呂場へと入っていった。


ララがこんな要求に甲斐甲斐しく従うはずがない。


 という予想どおり、ララが食卓に出したのは朝食の残りのパンと果物だけ。


 だが、風呂から上がり、服も新しいもの(風呂上がりに全裸で二階に取りに行った黒い半袖シャツと黒いズボン)に着替えたブレイクは何も文句を言わず、出された物を獣じみた速さでムシャムシャと平らげていく。


 ララは同じテーブルには就かず、壁に背を預けながらその様子を眺めていた。一旦、脱いでいた俺をまた頭に被り、剣も腰に携えている。


 そんな、いつでも戦えるような姿勢で、


「……どうして戻ってきたのよ」

「用があったからに決まっているだろう」

「用って何よ」


 ララの眼差しはあくまで鋭い。


 しかし、ブレイクは満たした腹をさすりながら鷹揚に、


「お前が首につけているそのネックレス……。それはお前の纏うマナを察知して俺に知らせる魔道具なんだが、数日前からそれに反応があった。


 だから、お前が力を開花させた――と思ったんだが、どうやら勘違いだったようだな」


「このネックレスが……?」


水晶のような小さな魔石がついたネックレス。自らの胸元にあるそれをララは見下ろして、


「これは母さんの着けていた物なんじゃ……」

「そう言っておけば肌身離さず持っているだろうと思ったから、そういうことにしておいただけだ。それはアイツの物でもなんでもねえよ」


 ブレイクは悪びれもせずそう笑って、


「そんなことよりだ。別にお前がマナを使いこなせるようになったわけじゃねえらしいが、それでも別に構いはしねえ。お前ら、ちょっと俺についてこい」


と、イスから立ち上がる。ララは慌てたように、


「つ、ついて来いって、どこによ?」

「んなこたぁ後で解る。いいから黙ってついてこい」

「ふ、ふざけるんじゃないわよ! アタシはアンタの下僕でも奴隷でもないの! 何か協力してほしいことがあるなら、ちゃんと説明するのが筋でしょ!」

「そんなに知りてえのか? じゃあ教えてやるよ」


 薄笑いを浮かべ、ララを正面に見据える。


「これから、お前には魔物の『エサ』になってもらう」

「エサ……?」

「ああ。だから、そこの――ララの頭に載ってるお前、お前は俺が持っていてやるよ」


 のしのしとこちらへ歩み寄ってきて、天井に頭がつきそうな巨体でこちらを見下ろすと、俺を掴み上げてその頭に被る。が、


「がッ!?」


なに勝手に被ってんだ。


 俺は軽い電撃をブレイクの脳天にお見舞いして、《レビテーション》を使ってララの頭に戻る。


「テ、テメエ……!」

「悪いな。俺は美少女専用の装備品なんだ」

「ハルト、アンタ……」


 ブレイクはチッと舌打ちして、


「ああそうかよ、そいつと一緒に死にたいなら好きにすりゃいい。俺ぁ別にテメエになんか興味ねえよ」

「アンタは、本気でララを何かのエサにする――娘を殺す気なのか?」

「お前には関係ねえ。これは俺たち親子の問題だ。他人が余計な口を突っ込むんじゃねえよ」


 ララと似たような口ぶりだ。やはり親子は似るものらしい。そう苦笑したくなりつつも、俺は相当、頭に来ていた。


 娘を何か魔物のエサにする?


 そんなこと、許されるはずがあるか。


 俺には娘なんていない。だが、それに近い妹という存在はいた。


 だからこそ、ブレイクの常軌を逸した言葉には、本能的な怒りと嫌悪感を感じずにはいられない。


「ララは俺を拾ってくれた恩人だ。身の危険があるなら、絶対に見過ごせない。たとえ父親だろうと、ララには指一本、触れさせないぞ」

「兜ごときが騎士気取りか? いいぜ。それだけデケえ口叩くなら、やってみろよ。俺がそいつを連れて行くのを止められたら、諦めてやってもいいぜ」

「もういい。もうやめて」


静かな、しかし強い口調でララが言った。


「もういいって……どういうことだよ? 自分が魔物のエサにされてもいいのか」

「よくはないけど、この男がアタシのことをなんとも思ってないことくらいもう知ってるし、別に今さら驚くことでもないわ」


 でも、とララは強い瞳でブレイクを見据える。


「その前に教えて。アンタはいったい何と戦ってるの? アタシをエサにして、一体、何をやり遂げたいわけ?」

「……ついてくれば解る。今はそれ以上のことは言えねえ」


ブレイクはどこか逃げるように視線を逸らし、先程と同様の言葉を繰り返す。しかし、


「ただ一つ言うなら……これは俺の生きる目的だ。俺は今日のために生きてきた」


そう、噛み締めるように言葉をつけ加えた。


 何と戦っているのか、何をしたいのか。その答えには全くなっていない。


 だが、その言葉には不思議な重みがあった。男の信念があった。少なくとも、俺はそう感じた。感じてしまった。


どうやら、それはララも同じだったらしい。


「……あっそ。いいわよ。じゃあ、その『エサ』とやらになってあげる」

「でも、ララ……」

「アタシはもう決めたの。だからアンタは兜らしく黙ってなさい」

「い、いや、だけど……」


解る。きっとララは、ブレイクが本気で自分を殺そうとしているわけではないと思っているのだ。信じているのだ。


 でも、本当に?


 本当にララがそこへ行って、傷つくことにはならないのか? いや、というか、これはそれ以前の問題じゃないのか?


「やっぱりダメだ、そんなのは!」


 俺は動揺に打ち勝ち、ブレイクに言う。


「アンタの言うその『目的』がなんなのかは解らない。でも、それがどんなものだったとしても、自分の娘を利用するのは間違ってるだろ! ララがついていくって言おうと、俺は認めないぞ! 俺はララを守るためにここにいるんだからな!」

「『守る』だ?」


 ブレイクの目に鋭さが宿る。


「笑わせんじゃねえよ。お前にそんな覚悟ができてるわけがねえだろうが」

「なんだと……? 何が言いたい?」

「言ったままのことだ。それ以上でもそれ以下でもねえよ」


ブレイクは俺を睨み下ろし、俺は沈黙でその敵意に応える。


「やめてって言ってるでしょ」


溜息交じりにララが割って入った。


「ハルト、アンタも黙ってなさい。アタシが自分でやるって決めたんだから、横から口出しなんてしないで」

「ララ……」

「大丈夫よ。アタシも別に黙ってエサにされる気はないし。アタシはただ……見極めたいだけだから」


 微笑みながら言って、それから観察するような冷たい目でブレイクを見つめる。


ブレイクはフッと口の端をつり上げ、


「不思議なもんだ。ほとんど会ったこともないってのに、いつの間にか『アイツ』と同じような目をするようになってやがる」

「え?『アイツ』って……?」

「じゃあ、お言葉に甘えて、さっさと行かせてもらうぜ」


ブレイクはそう言ってララの肩に手を置き、本当にさっさとどこかへ《テレポート》したのだった。

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