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救出戦 part3

 俺が呟くと、ララが今更ながらセリアさんを地面に下ろして身構える。


「正しくは、アースドラゴン。カピドゥスが魔力で従えている魔物よ。……まさか、こんな所で出してくるとはね」

「だーっはっはっはっはっはっ!」


 屋敷の三階――アースドラゴンの頭とほぼ同じ高さからこちらを見下ろしながら、カピドゥスが高らかに笑う。


「ワシをただの貴族だと思うなよ! なんの力もなくこの地位に来られる程、この国は甘くないのだ!」


 それに、とカピドゥスはぜぇぜぇ肩で息をしながらまくし立てる。


「ワ、ワシは騙されんぞ! 何が『ブレイクは生きている』だ! どうせそんなもの嘘に決まっておる! 生きているなら、なぜ十年以上も娘のもとに帰らぬのだ!」


 まあ、そう思うのが当然だろうな。俺も正直、そう思う。だが、ここは大人しく騙されていればよかったものを……。


「もしお前が本当にブレイクの魔道具だというのなら、アースドラゴンの炎に耐えて見せるがよい! もし偽物であるなら、全員まとめて死んでしまえ! このワシに恥を掻かせた罪でな!」


 アースドラゴンが、その大きな口をこちらへ向けて開く。と、そのグロテスクに長い舌の上で炎が渦巻き始める。


「っ! セリア姉!」


 ララがセリアさんの腕を掴み、門のほうへと駆け出そうとするが、


「慌てるな、ララ。っていうか、下手に動かないでくれ」


これもまた信頼が足りないが故のことか。ならば、やはりここは力の見せ所だ。


 ゴォゥッ!


 空気の震えるような音を立てて、その大きく開かれた口から炎が吐き出された。


 それは俺たちを瞬く間に呑み込み、骨まで焼き尽くそうというように長く執拗に纏わりつく。


 炎の向こうから、カピドゥスの高笑いが聞こえてくる。


「だーっははははっ! どうだ、見たかっ! これがワシの力だ! 思い知ったか、この間抜け共め! だーっはっはっはっ……は……は……はへ……?」


 その哄笑が、炎が消えるのと同時に萎んでいく。


 口は笑った形のまま、その表情は凍りついていた。


 ララは何度も瞬きしながら、無傷である自分とセリアさんの身体を交互に見回す。


その眼前には、炎の眩さで見えていなかった火の《属性紋》が浮かんでいる。


 その盾によって、炎は指一本もララとセリアさんに触れることができなかったのだ。


「言っただろ。慌てなくても大丈夫だって。むしろ、お前が転んで俺だけがどこかに飛んでいったりしたほうが心配だった」


さて、こんな美少女二人を不安にさせる目障りな魔物には消えてもらうことにしようか。


 が、魔法を発動させる前に、俺は言う。


「ララ、これから放つ魔法は威力を発揮するまでに数秒かかる。それまではヤツの爪と牙に注意しろよ!」

「っ!?」


言った先から横薙ぎに振られたアースドラゴンの右手を、ララは反応よく後方に跳躍して躱す。


「《ダーク・ゲヘナ》」


名もなき戦士から《学習》したそれを、俺はアースドラゴンへ向けて放つ。


瞬間、眩い閃光が柱のように地面から放たれた。


アースドラゴンはその閃光に目を細めながらも、反射的にのたうったように身体を反転させ、その長く太い尻尾をこちらへ叩きつける。


「っと……!」


斜め上方から襲い来たそれを、ララはむしろアースドラゴンのほうへと突っ込みながら跳んで躱す。まるで軽く大縄飛びでもするかのように。


やはりララの持つ身体能力と、戦いに対する経験値は常人を遥かに超えている。


 鞭は先端部ほど軌道が読みにくく、威力も強い。だから、飛び込んでしまうほうがむしろ安全だ。頭でそう解ったとしても、瞬時にそれを実行できる者などそういない。しかも人ひとりを抱えながら、だ。


――ララ、やっぱり俺とお前が組めば最強だ、間違いない。


時間はララが充分、稼いでくれた。


「ララ、距離を取れ!」


 地面から生じた光はアースドラゴンを呑み込みながら、遥か上空の厚い雲までも突き破っている。


 その光柱には禍々しい大蛇のように雷が纏わりつき、中に捕らえた標的を外へは逃がさない。ララは既に充分な距離まで待避している。


――行ける。


確信して、俺は流し込むマナの圧力を上昇させる。と、


 ッッッドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンンンンンンンンンンンンンンンンンンンッッッッ!


灼熱の豪炎が、光の内部を空へと向かって噴出した。


その火炎に巻き込まれる空気が、砂塵を巻き込んだ突風となって俺の背後から吹きつける。


 その空気を新たな燃料としてどこまでも伸び上がった火炎の竜巻は、空を覆った雲さえ焼いて消し去ってしまう。


そして、やがてその炎柱が満点の星空へ吸い込まれていくように消えていくと――そこにはドラゴンの姿など塵一つも残っていない。


「す、すげえ……!」


そう思わず呟いたのは、俺自身。


 強力な魔法であることは予感として解っていて、これでもかなり手加減したのだが、それでもここまでの威力とは……。


我ながら、自分で自分の力が怖いくらいだ。


が、そうだ、ぼんやりしてる場合じゃない。まだ何も終わってないんだった。


 ――さて、もうひと働きだ。


「《ギガ・フレイム》」


唱えて、俺は屋敷の上空へ向かって炎を噴き出す。


 それは庭園の上空で蛇のように渦巻き、渦巻きながら形を変え――上空からこちらを見下ろす巨大な『目』を形作る。


 真っ赤に血走った目が、青火の瞳でカピドゥスを睨み下ろす。


「カピドゥス……これでもまだ、俺に抗うか」

「ヒッ……! ハッ、ヒッ……!」


 カピドゥスは窓から俺を見上げながら、喉を締められたような声を上げる。そして、まるで祈りを捧げるように胸の前で手を組み、首をぶんぶんと横に振る。


「もしこれ以上、この二人に――いや、無辜の女性に理不尽な行いをするならば、お前をこの業火で焼き殺す。


 どれだけ兵で身の周りを固めようが、どれだけ地の底へ身を隠そうが、全ては無駄だ。俺はいつでも、どこにいてもお前を見ているぞ、解ったか」


「は、はは、はい……! に、ににに、二度と、こここ、このような……!」


カピドゥスは最早ほとんど言葉も失って、ただ首をガクガクと縦に振る。


――まあ、ここまでやれば充分だろ。


 ララとセリアさんを見ると、どうやら二人もこれ以上のことは望んでいないらしい。


 俺は夜空に出現させていた『炎の目』を消し去り、ほっと一息をつく。


ああ、疲れた。

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