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冷遇王子の花嫁になりました  作者: 二夜原 霞
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王子妃アントニア

イスへの新婚旅行から帰ってきたアントニアとスーリヤは改修を終えた王子の宮への引っ越しをし、ようやっと王子夫妻に相応しい生活になっていた。

召使の人数が少ない分は奴隷で補われていたが、イェニラでは奴隷といってもあまり召使と変わらないように思えた。

むしろ、王宮の奴隷、となると一般人よりも身分が保証されていて権利が大きいと説明を受けた時にはアントニアは驚かされた。


「奴隷というとどうしても農奴などの印象があったのですが……」

「地域によっては農奴もいるが、宮殿で見る奴隷の大半は使用人や軍人といったところだ」


スーリヤはそう言いながら椅子の上に横たわっていた。

イェニラの椅子は長く、座高が低く、奥行きがあり、そこでひと眠りできるスペースがあった。

アントニアは椅子の前に置いたクッションに座りながら、最近学び始めたイェニラの文化などの本を読み進めていた。

何しろアントニアはまともに王子妃として教育を受ける期間がなかった上に、結婚までも何かと慌ただしく腰を落ち着ける暇がなかった。

そういった事情から今になってアントニアはイェニラのことを改めて勉強することになっていた。

そして調べれば調べるほど、イスとも違う文化にアントニアは関心を深めていった。


「イスでも昔は騎士は奴隷階級でしたが、イェニラでは今でも軍人は奴隷階級出身の方が多いのですね」

「ああ、王の奴隷と呼ばれる禁軍が代表だな。 王直属の奴隷の為、他の誰にも従わん」

「それは、他の王族の方の命令にも背くことがある、ということですか?」

「そうだ」


頷きながらアントニアと共に本に目を通してスーリヤはこたえていた。

よくも悪くもイェニラは実力主義であり、王のワンマン国家になりやすい。

無能な王は親族や自分の部下に殺されてその座を奪われる。

その中で王が唯一信頼をおけるものとして作られたのが禁軍であり、彼らは王直属の奴隷であるため時として王子の命令すら退ける権利を有している。

スーリヤとしては王が本格的に無能であった場合に禁軍が王の命を笠にほしいままに振舞う恐れがある制度に思えたが、現状では禁軍は忠誠心にあつく、士気も高い素晴らしい部隊であるだけに口出しする気はなかった。


「ビンバも、同じでしょうか?」


不意にアントニアは背後にいるスーリヤへと振り返った。

イェニラの文化を学んではいるが、アントニアはビンバについてはまだ知らず、またスーリヤの故郷である場所のために関心を持っていた。

スーリヤは少し考えてから、首を横に振った。


「ビンバは血統が絶対だ。 イェニラでは奴隷女の子でも王子になれるが、ビンバでは奴隷の子は絶対に奴隷だ」


実際にスーリヤの兄弟である王子たちの中でも第四王子を筆頭に後宮の奴隷を母に持つ王子は多い。

また、それは後宮にある王女宮に暮らす妹たちも同じである。

奴隷の子も、貴族の子も、王族の子も、等しく王子王女であり、実力さえあれば高い地位へと上ることはできるのだ。


「では、イスと同じですね」


アントニアはそう言いながら興味深そうにうなずいた。

碧海を隔てて遠く離れているイェニラとイス、そしてビンバ、それぞれに同じように似た部分があり、そして全く異なっている部分がある。

そういったことが面白くてアントニアは微笑みを浮かべていた。

そんなアントニアの様子を眺め、スーリヤもまた穏やかにしていたが、スーリヤには内心穏やかではないことがあった。

イスから帰ってきてから、アントニアが本に夢中なのだ。

何しろ元から娯楽の少ない中で生きてきたアントニアにとって本は最高の娯楽。

ゆえにイェニラの勉強と合わせて様々な本を読んでいるのだが、スーリヤが自分から近寄らないと本に夢中で声をかけてくれないくらい真剣に読んでいるのだ。

邪魔をするのも悪いとスーリヤも最初は遠慮していたのだが、このままでは夫としての立つ瀬がなく、なんとか本にかなう娯楽をアントニアに提供できないかとスーリヤは内心焦っていた。

そして、焦りはスーリヤを変な方向へと押し出していった。


「馬に乗らないか」

「……はい?」


アントニアは思わず無礼であったが言葉を聞き直していた。

馬に? 自分が乗るのだろうか、と思って本を読む手も止めたままアントニアは真顔だった。


「ええと……乗馬の練習ですか?」

「そうだ。 馬は嫌いか」


スーリヤはいたって真面目に真っ直ぐに目を向けており、その黄色い目で見つめられるとアントニアは戸惑いながらも頷くより他に無かった。

何しろアントニアはスーリヤを心から愛している。

彼が言うのならばどんなことでも挑戦してみようという気持ちになってしまう。


「初めてではありますが……頑張ります」

「そうか」


アントニアが不安を感じながらも頑張る、と自分の胸の前で手を組むのを見て、スーリヤは嬉しそうに笑みを浮かべていた。

乗馬であればスーリヤはとても得意だ。 自分がアントニアのために教えられることがある、というのが嬉しくて、スーリヤは椅子から起き上がるとすぐに自ら馬を取りに駆け出していった。

アントニアはそんな姿をみて、本を閉じてすぐにスーリヤを追いかけようとしたが、あまりにスーリヤの脚が早いのでとうとうホールの辺りで置き去りになってしまい、息を切らせながら立ち止まった。


アントニアは改めて修繕を終えたホールを見つめていた。

真っ白な柱と吹き抜け、そして水槽とが目を引くこのホールは初めて来た時とは比べ物にならないほど整っていた。

イェニラの美的感覚に沿った左右対称の造りとなっており、大理石の床石と水槽とが降り注ぐ太陽の光を反射させ、広々とした回廊全体が柔らかな光に包まれている。

ここでアントニアはスーリヤと初めて会ったのだ。

その時はスーリヤのあまりに無表情で冷静な声に義務的な人かと思っていたが、アントニアはすっかりスーリヤの優しい愛情に疑いを持たなくなっていた。

そして、アントニアがそんなことを考えているとスーリヤが馬にまたがり宮へ入ろうとして使用人たちに止められている声が聞こえて、アントニアは苦笑しながら宮の入り口へと向かっていった。

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