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冷遇王子の花嫁になりました  作者: 二夜原 霞
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ベルでの宴

ベルの都を去る前日、スーリヤたちは都の周辺に住む名士たちを招いた宴席を設けていた。

今回は大きなホールを借りてイスの形式に近い舞踏会であったが、それでもイェニラの見事な品々が飾られたホールに招かれた人々は口を開けて驚いていた。

だが、やはり以前にアントニアが感じたのと同じように招待された令嬢たちは不自然なほどスーリヤから顔を背けていた。

通常、パーティーというのは主催者が場の中心になり、主賓が次に注目される。

今回の主賓はアントニアの家族ではあるが、主催であるスーリヤはまず間違いなく注目を受ける立場となる。

更には招待客の中でも年若い娘たちだけがスーリヤから顔を背けていることに違和感があった。

スーリヤ本人はそのことにまるで興味を示してはいないが、アントニアは胸がざらつくような感覚を味わった。

歓待を行っていたカリムがスーリヤに話しかけてきたため、アントニアは一人でホールの中に残った。

飲み物を手にホールの壁際へと向かい、少し休もうと思ったところで招かれていた令嬢が声をかけてきた。


「あの、イェニラの王子のお妃様ですよね?」


恐る恐るといったように声をかけてきたのは背の高い令嬢で綺麗な茶色い目をしていた。

彼女のほかにも何人かの令嬢が恐れるように身を寄せ合って、アントニアの側へと近寄っていた。

この何か恐れるような眼差しはアントニアにとって覚えのあるものだった。

スーリヤの邪眼についての噂を教えてくれた侍女たちの視線と同じように、恐ろしいものへの忌避感に満ち満ちていた。


「ええ、私はスーリヤ殿下の妃ですが、どうかしましたか?」

「スーリヤ殿下の目を見ると、死んでしまうのは本当ですか?」


自分に告げられた言葉にやはり、というような気持がアントニアによぎった。

誰がなんの目的でスーリヤの邪眼について話したのかは分からないが、遠巻きにする令嬢たちの理由が分かり、同時にアントニアはしっかりと胸を張った。


「私はスーリヤ殿下の両目をみていますが、このように生きています。 それだけではご不満ですか?」


アントニアが問いかけると令嬢はたじろいだように、でも、と呟いた。

いくらアントニアがスーリヤの目を見た、といっても確証のないことを当てにして恐ろしい相手への評価を改めるのは難しいのだろう。

アントニアがどうしようか、と思った矢先、回廊の方から飛び込んできた黄色い火花……もとい、カーネリアンが顔を真っ赤にしてアントニアと令嬢の間に立ちはだかった。


「スーリヤ殿下はすっごくいい人よ!」


淑女にあるまじき大声で宣言したカーネリアンにアントニアが目を見開いていると妻に置いていかれたガルニエ伯爵がどこどこと大きな足音を立てて追いかけてきていた。

しかし、カーネリアンはアントニアが声をかけるよりもさらに早く声を上げていた。


「大体ね、貴方たち、ちゃんとスーリヤ殿下としゃべったこともないくせに変な噂あてにしてどうするのよ! 気になるっていうんなら本人に聞けばいいでしょ! 私だったら絶対気になるから聞きに行くわよ、そうよ、修道院にいたころだって塀をよじ登って……」


カーネリアンがいつものようにまくしたて始めていると、ごほんと咳払いをする声が聞こえた。

カーネリアンとアントニアがそちらへと顔を向けるとヴィッテンハルト侯爵夫妻が佇んでいた。

侯爵の額には青筋が浮かび、大人しく淑女教育を受けていたはずの娘が何をしでかしていたのか、ということに興味を向けていた。


「カーネリアン、少しこっちに来なさい」

「お、お父様……いやぁああ! 助けて、アントニア~!」


父親にしっかりと腕を掴まれて引きずられていくカーネリアンにアントニアは呆然としていた。

また、周囲の令嬢たちも突っ込んできたかと思えばずるずると退場させられていくカーネリアンにすっかり呆気にとられ、スーリヤに対する怯えで凝り固まっていた空気は弛緩していた。

アントニアははっとしたように顔を上げると、口元に扇子を当てて一度咳ばらいをした。


「と、とにかく、スーリヤ殿下が邪眼の持ち主などというのはただの嘘です。 子供のころにお母様と弟を失くされて、その事件で悪意のある噂を流されて、どれほど傷ついておられるか」


アントニアはそう言いながらも、スーリヤがまったく噂を気にしていないことを理解していた。

なんとなく怖がられているから隠すか、くらいの感覚で彼は仮面をかぶっている。

それでもアントニアは周囲の人の良心に訴えかけることで邪眼などという忌まわしい噂を打ち払おうとしていた。

本人が気にしていないならば何を言ってもいいわけではない。 アントニアにとって何より大切なのはいまやスーリヤであった。

スーリヤの忌まわしい噂など消え去ってほしい。 けれど、人の心は恐怖によって統治することができないと思うからこそ、アントニアは人それぞれの心に託した。


「そ、そうですわね、そんな噂なぜあるのかしら」

「本当に……一体どなたがいい始めたのか」


令嬢たちはアントニアの言葉を真に受けた、というよりも自分が愚かな噂に浮かされて怯えていた事実をごまかしたいというように視線をさまよわせ、口々にそんなことはあり得ないと言っていた。

アントニアは少女たちの翻意を軽薄とは思わなかった。 少なくとも自分にはスーリヤ一人の身の潔白を示すだけのカリスマ性などないのだ。

ならばそれはそれでいい。 今は彼女たちがスーリヤへの勝手な偏見を改めるきっかけとなったなら良いのだとアントニアは微笑んだ。


「もしよろしければお話いたしませんか? イスでは最近何があったか教えてほしいんです」


アントニアがそういうと令嬢たちは先ほどの自分たちの失態を挽回するよい機会とばかりに笑顔を浮かべて話始めた。

いわく、誰が誰と付き合っているだとか、イスの王宮で何が流行っているとか、そんなどうでもよい話が楽しくてたまらなくてアントニアは笑顔で話を聞いていた。

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