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そんなこと言わないでよ

作者: 神楽坂神楽

「思うに」


 彼女が図書室の机の上に座りながら口にする。黒く背中まである綺麗な髪。長いまつげ。校内で美女と評されている。美少女ではなく、美女。僕も同じように思っていた。


「子供は親の欲求を満たすための道具ではないのよ。親の理想を叶えるためでもない、親が持っていた夢を見るためでもない。子供は子供のために生きるべき。そうは思わないかしら?」


 彼女はいつも、こうして自分の考えを話してくれる。突拍子もなく。多分いつも何か考えているんだろう。それを誰かに話をしたいのかもしれない。その誰かが、おそらく僕なのだろう。


「それはそうじゃない?自分が自分らしく生きるための人生。誰かの、ましてや親のために生きてるなんておかしいでしょ」


 返答をする。普段であれば、「この人は何を求めているんだろう?」と気にして答えを出すが、彼女、芳野ゆめにはそのままの答えを出した方が良かった。彼女は相手の求める答えではなく、自分の答えを求めているのだから。


「えぇ、えぇ。その通りね。私たち子どもは、私たちのために生きるべき。親の理想を押し付けられるなんてまっぴらごめんだわ」


 予想通り彼女は肯定する。彼女の意見を肯定して、自分の考えを付け加えたときは大抵こういう反応をする。逆に反論した際は詳しくその理由を聞いてくる。それが彼女の性格だった。


「そもそも、生まれてきたこと自体私たち子どもに選択権はなかったわ。勝手に生まれさせられて、勝手に理想を押し付けられる。溜まったものじゃないわ。本当に子供のためを思っているなら、子供が将来例え働かなくて引きこもりのニートになったとしても、養ってみせるだけの覚悟と責任をもって欲しいものよね」

「それはまた、極端な話だね」


 苦笑する。だが彼女は真顔だ。真面目に話しているのだろう。


「桜内君は、現状に満足しているの?」


 まっすぐな目で聞いてくる。校内で美女と評判の彼女に。少しだけ恥ずかしくなった。目をそらした。


「それこそ、まさかという話だよ。現状に満足なんてしているわけはない。そして、現状に満足している人間だったら、芳野さんは僕になんて話しかけてこないでしょ」

「そうね。愚問だったわ」


 そう言って彼女は視線を本に落とした。心理学について書かれていた本だった。

 チャイムが鳴り、下校時間が知らされる。僕も彼女も帰宅の準備をする。

 「また明日」なんて言わないけれど、きっと明日もこうして図書室で話をすることだろう。少なくとも、ここ3か月は毎日そうだったのだから。



 彼女、芳野ゆめと出会ったのは夏休みのことだった。今から3か月ちょっと前の、夏休み。正確に言うと出会ったのは1年半以上前の入学式だったが、話すようになったのが、3か月前だった。

 家にいると親がうるさかった。勉強しろ、家事を手伝え、将来を考えろ。あれこれ言われた。めんどくさくなった。親と話すのが嫌で高校の図書室に訪れた。親には「課題の資料が必要だから」と言った。満足げに頷いていた。何が嬉しいのか、よくわからなかった。

 高校の図書室。基本的に人が少なかった。今時本を読まなくても調べられることは山ほどある。勉強だってスマホがあれば、意外と答えが見つかる。図書室を利用する人はほぼゼロといってもよかった。ましてや、夏休みの図書室なんて。

 そう思っていたが、先客がいた。芳野ゆめだった。1年半、クラスは同じだったが一度も話をしたことはなかった。そして彼女が人と話をしているのもほとんど見たことなかった。

 彼女は所謂秀才で、優等生だった。学内テストでは大抵1位か、悪くても5位以内。全教科総合ではなく、全ての教科単独で、だ。当然総合では1位だった。彼女以外が1位になったことはまだない。

 眉目秀麗、才色兼備。そんな言葉が似合う女性だと、認識していた。

 図書室に入り、適当に資料を探していた。彼女も僕のことを認識したらしい。手には本。数年前に何か賞を取っていたと話題になっていた気がする。

 資料を探し終えて、席に着く。課題をする。口実ではあったが、実際にすることもなかったので課題を行う。つもりだった。

 そこに、彼女が話しかけてきた。


「あなた、真面目なのね」


 まさか話しかけられるとは思ってなかったので驚いた。正直、動揺したとも言える。人と会話する機能が付いていたのかとさえ思った。最後のは嘘だけど。


「そんなこと、ないよ」


 答える。しどろもどろになってしまった。返答出来ただけでもほめて欲しいとすら思った。


「でも、課題をしているわ。夏休みに入って間もなく、わざわざ学校の図書室で。それを真面目と言わずなんというのかしら」


 意外と、喋る。そのこと自体に驚く。彼女が喋っているのなんて、授業で当てられたときくらいだ。それ以外は僕の知る限り「えぇ」「そうね」くらいしか聞いたことなかった。

「別に。することがないだけ。家にいたくなくて、外に出て、でもすることがなかったから課題をする。それだけのことだよ」

 答える。彼女の顔を見て、目を丸くする、とはこういう表情を言うんだなと思った。

 そして、笑った。初めて見る笑顔だった。


「あなた、面白いわね。名前は?」


 1年半一緒のクラスにいて、名前を憶えてられなかったことをここで知った。



 次の日。また図書室へ向かう。深い意味はなかった。今思うと、また彼女に会えることを期待していたのかもしれない。その時は特に考えていなかった。

 だが、彼女はいた。今日も図書室に。

 なんとなく近くの席に座った。案の定話しかけられた。

 どうやら、彼女も家族が苦手らしい。家にいるのが嫌でここに来ているのだとか。ただ、僕と違って課題はもう終わっているらしい。夏休みの課題を夏休みに入る前に終わらせたのだという。流石は学年主席と思った。でも口には出さなかった。なんとなく、嫌がられる気がして。


「いい子だね、ってみんな言うの。便利な言葉よね。いい子。その言葉の前には『自分にとって都合の』が付くのでしょう。都合のいい子。それが私。親や教師にとって都合のいい存在」


 彼女は成績優秀だ。それを褒める言葉だったのだろう。だが、彼女にとっては誉め言葉ではなかったらしい。


「誰も私を見ない。見ているのは、成績だけ。親も教師も、私が何をされて喜んで、何をされて嫌がるかなんて知らないのに、なのに知ったかぶって話をする。苦痛以外の何物でもないわ」


 どうやら彼女は大人が嫌いなようだ。そして、子供も。自分を理解しない人間すべてが嫌いなのだろうなと思った。


「勉強は嫌いなの?」


 問いかける。


「別に、好きでも嫌いでもないわ。私は、一般より少しだけ、勉強が得意らしいから。出来るけど、好きではないし、やりたいわけでもない。ただ、やらされている、それだけのことよ」


 そう口にして、彼女は本を読むのに戻った。僕も、課題の片づけを行った。



 そうして毎日、本当に毎日図書室に通った。

 毎日彼女と話をした。親の愚痴を聞くこともあれば、本について語られることもあった。彼女は読書が、というか創作物全般が好きらしい。

 音楽も、読書も、映画も。違う世界に浸れることが好きなようだった。


「本はいいわ。素晴らしいものよ。本に限らないけれど。自分以外の考えを知る。自分以外の世界を知る。自分と違う価値観を知る。とても幸せな時間を与えてくれるわ」


 そう言っていたこともあった。

 彼女は本については雑食だった。太宰治を読むこともあれば、アニメ化されたライトノベルを読み、はたまたドフトエフスキーやニーチェを読むこともあった。偶に、心理学の本を読んでいる。僕も課題が終わったので読書をすることにした。彼女お勧めの本を渡され、感想を求められた。

 本の感想を言うと彼女は「そうよ!きっとこう考えていたのよね!」と肯定することもあれば、「そういう言う考え方も出来るのね、なるほど」と納得することもあった。

 本を読んで、感想を求められる。偶に、自分の考えを僕に話す。最初こそどう答えたらと思ったが、次第に彼女は他人の意見を知りたいだけだと分かり、ありのまま答えるようになった。仲良くなれたのかはよく分からなかった。




 夏休みが終わった。課題を提出し、休み明けのテストをこなす。夏休みの最後の方にはテスト勉強をしていた。彼女が教えてくれたのでいつもより出来は良かった気がする。

 しかし。と思った。

 しかし、しかしなのだ。

 夏休みが終わってしまったら、彼女と話す機会はなくなるんじゃないか。心配になった。正直、彼女といる時間は至福といえた。恋愛感情と言えるかはわからないけど、彼女と会話することは僕にとってとても楽しいと思わせてくれた。少なくとも、家族と会話するよりは、何倍も。

 放課後になり、図書室に向かう。相変わらず人がいない。

 だが、彼女はいた。芳野ゆめはそこにいた。少しだけ安心した。

 他愛もない話をする。人が来ると読書に戻る。人がいなくなるとまた話す。試験のこと、夏休みにイメチェンをした男子のこと、本のこと。


「それにしてもあなた、同じクラスだったのね」


 そう言われた時はさすがに笑ってしまった。

 1か月間毎日話していたのに、それすらも知られてなかったんだなと。夏休みなのでクラスのことなど知る由はなかっただろうが。


「そんなに影、薄いかな」


 ちょっと皮肉を込めて返してみる。彼女は笑う。


「いいえ、私が、他人に興味がなかったのでしょうね。正直、未だにクラスメートの顔と名前が一致してないもの。流石に何人かは、分かるでしょうけれど。私、ぼっちだから」


 ぼっちというべきなのかどうなのか。クラスの輪に入りたいのに入れない人がぼっちというのであって、入る気がない人をぼっちと呼んでいいのかと思った。少なくとも僕は前者だった。芳野ゆめと話すまでは。




 そうして時が過ぎ。高校2年生の12月。もうすぐ10日程度の冬休みが始まる。そして進学校を自称する我が校は受験勉強を始める時期と言われていた。


「桜内君、あなた、進路はどうするの?」


 問われる。珍しく、固まってしまった。進路。正直、何をしたいでもない。漠然としていた。親からは国立大学に行けと言われていた。


「何も、考えてない」


 正直に答える。彼女の問いに対して「考えてない」と返したことは初めてだった。どんな反応されるのか、少し不安だった。

 だが、彼女は笑っていた。予想外だった。


「そう。実は私もそうなの」


 彼女の笑みは、仲間を見つけた笑みだったのかもしれない。そう思った。だからもう少し話をした。


「親には国立大に行けと言われる。教師もそれを望んでいる。でも、僕にはやりたいことなんか特にない。国立大に行って、いい仕事先を見つけたら将来が安泰という理屈は分かる。でも、やりたくもないことをしたくはない。何がやりたいかわからない今、進路なんてまだまだ考え付かないよ」


 そう答えると彼女は笑った。目に見えて機嫌がよくなった。


「えぇ、えぇ。その通りだわ。やっぱりあなたと話すのは楽しいわね。これを心が躍るというのかしら。創作で表現された言葉を身をもって味わえる。初めての経験だわ」


 とそこで一呼吸。自分でも取り乱しているのが分かったらしい。


「私も、決まってないの。親には国立か、有名私立に行けと言われるわ。教師には推薦の話があるといわれる。でも、私にやりたいことなんてないのに、どうしてこの大学はどう?なんて勧めてくるのかしら。学歴の高い娘、生徒が欲しいという気持ちしか伝わってこなかったわ」


 芳野の家は、学業に厳しい家庭らしい。両親ともに国立大学を卒業し、父親は有名企業の偉い人、母親は現在塾を経営しているらしい。所謂お金持ちの家庭だった。だが、その分だけ子供に対する理想も高いようで、親の理想と自分の現実のギャップに苦しんでいた。


「ただ、一つだけ決めていることがあるの。一人暮らしをすること。一人暮らしをするためなら、勉強して県外の国立大でも何でも行ったっていいし、親と縁を切って高卒フリーターになるというのも、悪くはないかもしれないわね」


 余程親のことが嫌いなのだろうということはよく伝わった。僕もあまり好きではないので、気持ちが分からないでもなかった。彼女ほど極端ではなかったが。

 そこでふと、彼女が考え込む。どうしたのだろうと思った。

 しばらくして、口を開く。そして唐突な提案をされた。


「ねぇ、高校卒業したら、一緒にフリーターでもして暮らすのはどうかしら?」


 衝撃的な発言だった。色々な意味で。

 芳野と暮らす?僕が?どうして?

 どういう思考でその結論に至ったのか理解出来なかった。硬直した。


「あ、いえ、深い意味はないのよ?ただ、自分で言っておいて、フリーターになるというのは名案だと思ったの。えぇ、親の庇護から離れて自力で暮らす。フリーターじゃなくたっていいわ。高卒で正社員というのだって出来る。就活は難しいかもしれないけどしれないけど、親に隠れながら出来るかもしれない、今からなら」


 そこじゃない、と思った。高卒で働く。そこ自体は別に問題ではなかった。


「なんで、僕、と?」


 口に出来たのはそれだけだった。すると彼女は目を見開いた。驚いている、という表情だった。驚いているのはこっちの方だ。


「そうね。そう、よね。どうしてかしら。将来のことを考えたとき、あなたが側にいたの。そう思ったのだけど、どうしてなのかしら」


 何やら彼女自身もわかっていないようだった。そして沈黙が支配した。互いに、言葉を発することが出来なかった。

 チャイムが鳴る。下校時間。

 僕たちは何を話すでもなく帰宅した。




 3年生になった。あれ以来、芳野ゆめと話すことはなくなった。

 会わなくなったわけではない。図書室にも通った。彼女もいた。だが、会話することがなくなった。互いに本を読むか、勉強するだけ。それでも僕は図書室に通い続けた。彼女も通っていた。

 それからしばらく経って、また夏が来た。夏休みまであと2週間。芳野ゆめと話すようになってから1年、話さなくなってから半年ちょっと。話してない期間の方が長くなっていた。元通りのはずなのになんだか不思議な気持ちになった。

 図書室に担任が来た。進路希望を出してないのが僕と芳野だけだったらしい。二人同時に進路相談をさせられた。図書室で。いい加減な教師だと思った。

 芳野ゆめには推薦の話をされた。都内の有名私立大学。学歴としては十分高いところだろう。

 僕には無難な国立大一覧を渡された。合格圏内の大学。もう少し頑張れば入れるところ。一応、私大の推薦の話も貰えた。芳野に比べると、ランクは低かった。


「どうだ?先生としてはここなんか結構いいと思うんだが」

 

 本人としては相手のためを思ってなんだろうが、芳野に関しては、いい迷惑と思ったに違いない。横で話を聞きながらそう感じた。

 芳野は一度僕の方を見て、そして、ため息をついた。一度視線を下に向けてから教師に返事をする。


「そうですね。ここなら特待生として成績を維持していれば学費はかかりません。家も寮があるので、そこで暮らせば奨学金もあるから生活も出来るでしょう」


 胸が締め付けられた。何故だろうか。苦しくなった。


「そうだろう、そうだろう。芳野にはここが合うと思うぞ。ご両親もきっと喜ぶぞ」


 その言葉に、芳野は少し不機嫌になった。親を喜ばせたいなんて思ってないとでも言いたげだった。


「それで桜内、お前はどうだ?」


 担任は僕に話を振る。

 一度、芳野を見る。芳野は、窓を見ていた。心の中でため息ばかりついているのが容易に想像出来た。


「僕は、」


 言いかけて、ひと呼吸。少しだけ、間を置いた。


「僕は、就職しようと思います。正社員か、フリーターかはまだ決めていませんが、就職しようと、思います」


 芳野がこちらを見るのが分かる。僕は担任の顔を見ているから実際には見えてないが、おそらく前のように目を見開いているのだろう。もしくはそれは、願望かもしれない。


「そ、そりゃお前、勿体ないぞ?」


 勿体ない?勿体ないってなんだ?大学に行かないことが勿体ない?

 ここでなんとなく、芳野が親を嫌っている理由が分かった気がした。なるほど。理解されてない人間にとやかく言われるのは不快だな。親とは最近会話をしてなかったから、久しい感じだった。


「学歴はあった方がいいぞ。お前には大学に行く力がある。その気になれば特待生だって難しくない。だから、」

「それでも僕は、就職したいと思います。将来的に大学に通っていた方が良かったとしても、僕は就職を選びます」


 担任は困った顔をした。しばらくして「まぁまだ時間はある。もう少し考えろ」と言って席を立った。

 そこで。

 そこで、芳野も口を開いた。


「すみません、先ほどの話はなかったことにしてください。私も就職を希望します」


 担任は僕らを見比べ、ため息をついた。

 そしてもう一度、「もう少し、考えろ」と言って図書室を去っていった。

 担任がいなくなって、僕たちもため息をつく。そして、笑う。


「桜内君、あなた意外と思い切りがいいのね。もっと流される人間だと思っていたわ」


 芳野が言う。久しぶりに話しかけられた。胸が温かくなった。


「そういう芳野こそ、推薦行くって言ってたじゃないか」


 少しだけムッとしながら口にする。拗ねている、自覚があった。


「えぇ、さっきまではそのつもりだったわよ?」

「だったらどうして」

「あなたが、桜内君が就職すると言ったからよ。前言った話、受けてくれるってことで良かったのかしら?」


 うっと、顔をしかめてしまった。勢いで言ってしまったが、つまりそういうことだったからだ。なんだか恥ずかしくなった。


「もしかして、早とちり、だったかしら」


 芳野が不安そうな顔をする。初めて見る顔だった。僕は慌てた。


「違う!いや、違わない、えっと、その、早とちりというのが、違うという意味で、その」


「ぷっ」と噴き出して笑った。何が面白いというのだ。こちらは大真面目だぞ。


「いえ、ごめんなさい。あまりにも、慌てているあなたが面白くて」


 そのままツボに入ったのか大声で笑いだした。なんなんだ。


「はーーーー。あなたはいつも予想外ね。初めて出会った人種だわ。本当に、面白い」


 ひとしきり笑い終わったのか、やっと言葉を発する。どんな気分でいろというのだろうか。


「バイトを始めましょう?これからの生活に必要だわ。出来れば一緒のところがいいわね。うん。少し知り合いの伝手を使って探してみるわ」


 彼女の中では話がトントン進んでいる。僕は置いてかれて、いや引っ張られているのか。話に置いて行かれ、行動に引っ張られる。不思議な気持ちになった。


「あら?何が面白いのかしら?これから大変よ?お金をためて、家を借りる準備をする。なるべく離れたいから、とりあえず県外ね。出来れば田舎がいいわ。自給自足出来るような所。働きつつ、畑で野菜を育てて過ごすの。あー、出来れば車の免許も必要ね。つまりお金がたくさん必要なわけね。ところでこれ、世間では駆け落ちというのかしら?」


 矢継ぎ早に話す彼女が面白くて、親と教師が敷こうとしていたレールから外れるのも悪くはないなと思った。

 ただ、一つ確認することがあった。


「駆け落ちというのは、僕たちが結婚する、ということなの?」


 するときょとんとした顔で返される。


「あら?私はそのつもりで話していたのだけど、違ったのかしら?」


 そうか。そうだよな、うん。


「何も違わないよ。ただ、君は大事なことを言葉にしていなかったからね」


 やはりきょとんとされた。その顔が僕はすごく気に入っていた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 子供でもなく、大人でもない高校生の葛藤のような物や、主人公の気持ちの変化がとても上手く描かれていると思いました!主人公のセリフには私も「高校生の頃、こんなこと思っていたなぁ」と共感できると…
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