ミニスカート
亡くなった三人の身元はすぐに報道された。
奈良県S市在住の無職 花村ユミ 42才
娘 サリ 3才
奈良県K市在住の無職 渡辺五郎 45才
渡辺は、続報ではA、となっていた。
精神科に通院していた事が判明したからだ。
渡辺が母子を襲った事は早々に発表されたが
渡辺の死因は確認中だと発表された。
被害者と渡辺の接点は不明。
よって、この事件のタイトルは
<奈良大型店舗無差別殺人事件>
に、なった。
2週間が過ぎた。
事件の続報は、ない。
身元が分かった、それで終わっていた。
「どうしてかな? 二人も殺され、犯人も死んでいるのに、扱いが小さすぎる」
「正当防衛で犯人を殺しちゃった、ドクターへの配慮じゃないの」
大きな男は医者だった。
塚本病院の副院長、塚本恭治郎、42才。
結月薫から聞いた。
絶対に他人に言うなと口止めされた。
マユは他人じゃないし、人でも無いので、喋った。
「正当防衛で決まりなのかな」
「決まりでしょ。だってセイが正当防衛だと、証言したんでしょ」
「見たままを証言しただけ。あの人は正気を失って、俺が止めるまで殴り続けていたと」
「じゃあ、正当防衛でしょ」
「そうなんだけど。……てっきり、奥さんと子どもだと、だから、正気を失って当然だと思った」
「今は、正気を失って当然とは、思えない?」
「自信が無い。 俺には、あの二人は夫婦に見えた。つまり、間違えたんだから」
「エレベータ―で数分一緒だっただけ。この3人連れなら、セイでなくても家族と思うわよ。カオルさんにも、そう言われたのよね」
「事実と違っていたのは、それだけじゃ無い。女の人、もっと若いと思っていた。42才と知って驚いた」
裕福そうな男と
年の離れた若い妻に、
見えた。
「顔をしっかり見てないんでしょ。ファッションで若見えしたのよ」
「顔は見てない」
女の顔は頭に描けない。
ありありと描けるのは、
明るい茶髪、
ピンクのセーター
黒いミニスカート
金のピアス
ピンヒールのブーツ。
「頑張っておしゃれしたんだ。あこがれの人と会うんだもの」
「生活も苦しかったとカオルに聞いた。それも意外。服もブーツも上等だよ。子どもの服も」
「そうなの。……ねえ、事件の日、沢山買い物していたのね?」
「うん。……塚本さんが買ってあげたんだろうな」
「一日だけの家族ごっこね。フードコートでランチして、クリスマスプレゼント買って。彼女の夢を叶えてあげた……」
マユはそこで言葉を切って、何か思いついたのか、
<花村ユミ>の画像が見たいと言い出した。
検索すると、数枚出てきた。
「雰囲気が全然違うよ。どうみても40過ぎの……いや、もっと老けて見えるよ」
どの写真も化粧っ気が無い。
白髪が交じった黒髪を無造作に後ろで一つにまとめ
地味な服装だ。
マユは
細い指先を自分の唇に当てた。
推理を始めようとしているのだ。
「セイ、事件の日に着ていた服も塚本さんが買ってあげたのかしら?
やり過ぎよ。普通、そこまでする?」
「母子心中される位なら、要望に応えようと考えたらしい。数時間で済むことだ。金銭的な負担は彼にとっては、小さな金額だろうし」
「母子心中……。そんな言葉で脅すなんて、普通の精神状態ではないわ。狂ってる。夢を叶えてあげたら、それで終わると、思えないでしょ」
「目の前で自殺しそうな人がいたら、とにかく、止めるだろう」
聖は、自分が塚本の立場でも
要求を受け入れたと思う。
「そうしたでしょうね。セイは自由だから。塚本さんが既婚者なら、どうかしら?」
塚本に妻子が居るのか、調べても居なかった。
SNSで塚本病院、副院長で検索する。
副院長夫人、塚本七海が一杯出てきた。
同病院系列の介護施設の事務部長だった。
「華道の先生もしているのね。施設と病院の表玄関に、生けた花の写真が出ているわ」
年齢は34才。(出身大学と卒業年度を公表していた)
子どもは一人。三才の女の子。(有名大学附属幼稚園の受験日の写真があった。)
「セイ……どう思う?」
「多分、マユと同じ事、思っているよ」
沢山出てきた塚本七海の画像を
一枚ずつ見ていくうちに、
予測していなかった不快で怖い感覚に捕らわれていた。
七海は小柄で、顔立ちには、これといった特徴は無い。
だが、どの写真も、ファッションに特徴がある。
明るい茶髪。
大きめの金のピアス。
トップスはオレンジ系かピンク系。
全ての画像がミニスカート。
黒っぽいミニスカート。
「マユ、この人だと、今思った。俺が見たのは、こっちの人だと。エレベーターの中で見たのも、駐車場で首から血を流して横たわっていたのも、この人だと……。絶対、違うのに」




