第六章☆時空渡り
「……この人のように、一番強い個体が自分に有利な時空の状態へと渡ってゆく現象がたまに見られる」
「一番強い個体?」
「時空渡りとしての強さだね」
「その点、ぼくらはどの程度の強さなんですか?」
翼は疑問を相手にぶつけた。
「弱いよ」
「えっ?」
「時空パトロール隊員が時空渡りだったら、仕事が成り立たんじゃないか」
「そりゃそうか」
茜があっけらかんと言った。
「この……星野☆明美というペンネームの女性、最強の個体が時空渡りで頻繁に移動していて、我々も目が離せなくてね」
「実害があるんですか?」
「今のところないよ」
「じゃあ、ほっといていいんじゃないですか?」
「そーゆーわけにいかんのだよ」
「なんで?」
「あるきっかけで時空のズレを引きずり出したり、他の時空渡りとニアミスしたり、様々な可能性がある」
翼と茜は顔を見合わせた。二人とも時空パトロール隊員としての心得を学んでいる最中だった。
「こういう個体には専門の隊員たちが交代で見張りについている」
「いいなー」
茜が唇に人差し指を当てて言った。
「なんで?」
翼が聞くと、
「VIP扱いだから」
と茜が答えた。
「良くないよ。なにかことが起こったら粛正されるんだ」
「殺されるの?」
「存在そのものが抹消されるんだ」
「どういうふうに?」
「時空に存在する全ての当人が消滅される」
「こっわー」
茜が顔をしかめた。
『ついでに作者の星野☆明美も顔をしかめた』
新米の時空パトロール隊員たちは時間を忘れて学習していた。