第五章☆午後9時
茜が自室でくつろいでいると、夜空を何かが飛行している重低音が響いてきた。
なんとはなしに時計を見る。昼間青年が言っていたことが頭をよぎる。
茜の部屋の屋根に着陸?!
風に吹かれながらベランダに出て上を見る。
「茜!来い!」
誰かが呼んでる。
茜は躊躇した。
「いやよ!」
1階の両親が何事かと庭に出ている。
「そのままで死にたいのか?」
「なんで?!」
「時間がないぞ」
「でも……」
昼間の青年がロープ伝いに降りてくる。
「さあ、行こう」
グラグラグラグラ……。
揺れ始める。
午後9時過ぎ。
茜は青年にしがみついて飛行機に乗せられた。
「お父さんとお母さんが!」
「大丈夫。二人は無事だから」
「あのままだったら、この時空ではきみが死んでいたはずだったから」
「えっ?」
青年と同じ制服姿の操縦士も話に加わった。
「じくう……?」
「時間と空間。無限にある。その一つにきみはいた」
「単調な毎日に嫌気がさしていたんだろう?きみを違う世界に連れて行くよ」
「でも!でも……」
「いつか本当の大人になったら帰ることもできるから」
「でも……」
茜は涙を流した。
青年は地震の影響で停電した眼下の町並みを窓から見下ろした。
こんなときなのに、彼……翼は夜空を堪能していた。