プロローグ☆翼
翼は、まだ見ぬ未来を思い描いていた。
草原に寝転んで眩しい太陽に目を細め、希望に満ちた未来を思い描いていた。
1980年。まだ昭和のいい時代だった。
人々は己の両手でモノを創り出す喜びを知っていたし、初々しい時代だった。
「ぼくは、いつか空を飛ぼう。あの鳥のように空高く舞い上がって、自由に生きるんだ」
夢は果てなかった。
「おおーい!翼」
友人が翼を探しに来た。
「バンドのメンバーが足りないんだ。おたく、ベース弾けただろう?」
「まだまだだよ。でも練習すればなんとかなるかな?」
「オッケーオッケー。すぐ来いよみんな待ってる」
「ああ」
思っても見ないスカウト。まんざらでもない翼。
この頃の人たちは手先を使うことが多く、器用だった。翼も例外ではない。
手先を使うと、脳も活発になり、みんな生き生きしていた。
「ワン、ツー、ワンツースリーフォー」
手書きの譜面を見ながら音合わせ。
繰り返し繰り返しねばり強くうまく弾けるようになるまで時間を惜しむことなくセッションが続く。
うねるようなビート。ボーカルの美声。キーボードの和音。腹の底に響くドラム。何もかもが心地よく響いた。
夕日が沈み、辺りが薄暗くなる頃解散。あとは各自、やれるところまでやってくること。
学生の翼は、締切が近いレポートの情報収集に図書館に顔を出す。
充実した毎日。
いつか遠い未来で、こんな時代があったことを思い出すのだろうか?
その時と今とで、果たしてどちらが幸せだろう?
「ぼくが、ぼくでいる限り、きっとずっと幸せだ」
翼はそう思っていた。