クリスマスプレゼントの理由。
「さて、史郎君、手伝ってもらうよー」
「はいはい」
場所、俺の家。とりあえずツリーは置いた。ショッピングセンターで買った小さなやつ。
「ツリーはオッケーみたいだね。じゃあ、あとは座ってて」
「ん?」
そんなわけで、クリスマスパーティーの準備、与えられたのは待機命令だった。
奏は、基本的に優秀だ。
そして、優秀にも、何通りかある。
人を上手く使い、場を効率的に回す優秀さとか。個人プレイでガンガン事を進めていく優秀さとか。
世の中が求めるのは、前者だろう。後者は、前者の下について上手く使ってもらうのが良いだろう。
奏はどうだろう。
奏は、自分でガンガン場を回しながら指示を出していくタイプ。
多くのやるべきことを抱え込み、自分で回しながら、間に合わなさそうなところに人を投入するタイプ。
つまり、ある程度、一人でこなす前提で人を使うのだ。
そして、周りの人からすれば、気がついたら事が進んでいて、終わっているのである。
奏の本気は凄いのである。
「本格的な飾りつけは別にしなくて良いだろ」
「うん。よしよし、朝のうちに仕込みしておいたからねぇ。あっという間だねぇ」
良い匂いだ。食用がそそられる。
「史郎兄ちゃん、お邪魔しまーす」
「おう、花音ちゃん。音葉ちゃんは?」
「すぐ来るよー」
花音ちゃんはそのまま台所に向かう。
「おっ、美味そう」
「丁度良いところに花音。運んじゃってー」
「はーい」
配膳が始まる。音葉ちゃんが静かにリビングに入ってくる。
「……その、お兄さん。玄関まで来てる。綺麗な人」
「あぁ、志保か」
「綺麗な人と言われて真っ先に志保さんが出てくるあたり、史郎さんですね」
結愛の声が聞こえた。だが、足音は二人分、志保が来ているのはその通りの筈。
そしてやはり、リビングに二人追加。
「やっほー。お招きありがとね」
学校とは違い、眼鏡を外し、本来の姿の結愛。そして、志保はもうここに居る面々は存在すら忘れているだろう、クールな性格の仮面は当然の如く外している。
「正直、明日のはそこまで楽しいとは思わないんだ。楽しくなくてもニコニコしてなきゃだもん」
耳元でこそこそと、そんなことを囁かれる。
「そうかい」
「……よろしくね、史郎」
「はいはい」
俺はやるべきことをやるだけだ。
あんなところ侵入して目的に手をかけられる人なんて、相当手強い奴だろうけど。それでも。
俺は、守るんだ。
「それじゃあね」
「あぁ」
微かに聞こえるエンジン音は、志保と結愛を迎えに来たものだ。そこの角を曲がったところに、こっそりと待っている。
二時間くらい飯食って少し遊んだだけ。それでも、そんな時間が楽しかった。
「……また明日ね」
「……会えるかわからねぇよ」
「会えるよ」
こそこそと囁き合って、志保は離れる。
輝く月や星よりも眩しい笑顔を見せて、志保は背を向けた。
「先輩、デレデレし過ぎでは?」
「そうか?」
「全くもう……」
結愛も、それに続いた。
さて、片付けだ。
リビングに戻ると、既にテーブルは片付けられ、奏が食器を洗っている。
あっ、そうだ。
「ほれ、花音ちゃん、音葉ちゃん、小遣いだ」
「クリスマスプレゼントに金かぁ」
「花音姉さん。プレゼントに文句は良くない」
「わかってるけど」
「万能の交換券だぞ。金は」
中学生、高校生に喜ばれるプレゼントランキング上位だった気がするが。二人にはそこまでのようだ。
「史郎君、プレゼントというのは、その人が自分のために何を贈るか、考えてくれるのも嬉しいんだよ」
「そういうもんか」
「うん。だから史郎君が私にくれたヘアピンは大事に使うし。志保さんに贈ったキーホルダーはきっとスマホあたりに付けてくれるだろうし、結愛ちゃんに贈った枕はきっと今日からベッドのレギュラーメンバーだよ」
……結愛は基本、ソファーで寝るんだよ。
思い出すのは、この間のこと。
結愛の家に泊まった日のこと。
別に結愛と泊まるのは初めてのことではない。俺はソファーで優雅に紅茶のお替りを楽しんで、シャワーの音を聞いていた。
別に結愛がシャワーを浴びている様子なんて想像していない。
スタイルだけで言うなら奏や志保の方が良い。
……別に、夏休みに見た結愛のバスローブ姿なんて思い出していない。綺麗だったからって、初めて結愛を女性として意識したからって、鮮明に覚えていたりしない。
「ふん」
立ち上がって、構えて正拳突き一発。煩悩なんてこの一撃で打ち払える。
「よし」
クールに紅茶を一口。鼻を抜ける香りを楽しむ。
「上がりましたー。先輩もどうぞー」
「おう……おう?」
「何か?」
「……いや」
ペンギンの、着ぐるみパジャマ? って奴だろうか。
それを着込んだ結愛が風呂場から出てくる。
フードから覗く火照った頬。
一度結愛の家に侵入した覚えはあるが、着ていただろうか、暗闇で見逃していたのか。
いや。そうか。このフードのせいでぬいぐるみだと思ったのか。寝言で存在に気づき、寝返りでフードが取れて視認ができたと。
数か月越しにわかる。結愛がソファーで寝ていたのに気づかなかった理由。
「うぅむ」
「……変ですか? そんなにまじまじと見て」
「いや。良いと思うぞ。可愛らしい」
これ以上話していたら余計な地雷を踏みぬきそうなので、さっさとシャワーを浴びることにする。
くっ、なんかスゲー良い匂いする。結愛から漂う良い匂いの正体の一つはこれか。
「はぁ」
考えるのはやめてシャワーの蛇口を捻る。
何故かある、俺が普段使っているシャンプーとか洗顔ソープ。ボディソープ。
だからいつも通りの気分で……とは行かない。
湯船を見る。これにさっきまで結愛が……。
「ふん」
気にする方が気持ち悪いだろ。
なんて思いながらしっかりと温まり風呂場を出た。
「先輩どうぞ、お布団です」
「あ、あぁ」
リビングに敷かれた一枚の布団。そう。一枚だ。
「えへへ」
結愛はソファーに横になってニコニコと、布団に横になる俺を見下ろす。
あの時、結愛がソファーで寝ていたのは寝落ちとかそういうのでなく、習慣的にソファーで寝ていたのか。
そう言いながら、ソファーに横になり、肘掛けを枕にする。
……どうなんだ、それ。凄く首とかに負担がかかりそうだけど。
それから、朝、少し早めに起きて、奏にバレないように部屋に戻り寝直した。
起きたら何故か結愛が隣に寝ていたけど。起こさないようにこっそり腕の中から抜け出すのには少し苦労した。
そう。この夜のことが頭に残っていたから俺は結愛に枕を贈ったのだ。




