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失恋した俺の高校生活は、守りたい人が少し多い。  作者: 神無桂花
√奏 大切な人へ。

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息子さんは私が貰います。

 車の中は静かだ。

 奏の妹たちまでいるのに、誰一人として口を開かない。

 なんで車の後部座席がソファーみたいになって、向かい合わせで座れるんだよ。

 そして、その向かい合わせに座る、俺と両親。俺の隣の奏も、静かな目で俺と同じく、俺の親にどこか、冷たい目を向けていた。

 秘書の人から渡された瓶のコーラ。その蓋を親指で弾いて開ける。


「……何さらっと凄い事してるの」

「飲むか?」

「……少し」


 そんな控えめな会話も、こんな静かな車内ではそれなりに通る。。


「……あのさ、兄ちゃんも姉ちゃんも、この状況、何?」

「史郎君の御両親がお食事に誘ってくれたって言ったでしょ」

「いやまぁ、姉ちゃん、兄ちゃんと付き合い始めたし、そういう展開あるかなーとは思ってたけど、もうちょーっと和やかなの想像しててな」 


 花音ちゃんの小声の苦情ももっともなものだし。この雰囲気の原因たる俺としても、申し訳ない思いはあるが。

 それでも。俺は仲良く会話なんて、今更できるとは思えないのだ。

 父親は腕を組んで目を閉じて動かず。母親は膝の上に広げたノートパソコンから顔を上げない。なにやら資料でも作っているのだろう。


「あたし、史郎兄ちゃんの親初めて見たかも」

「だろうな」


 俺だって、認識の中ではもはや他人だ。


「史郎兄さん、隣、行かないの?」

「行かない」


 音葉ちゃんが戸惑っているのも珍しい。

 親が殆ど家にいない同士とはいえ、九重家と久遠家では、天と地ほどの差はあるだろう。

 いや、温度差の話をするなら赤道と極点と言うべきか。

 普通に見るなら同じような状況だが、俺と両親の間に流れる空気感は、彼女たちの理解に遠いもの。そうなれば、戸惑うのも当然だ。

 一件簡単そうな問題が解けない。特に、頭の良い音葉ちゃんにはあまり体験したことが無い状況だろう。

 車が停まる。運転手の人が後部座席の扉を開けた。


「所謂高級フレンチって奴か。なるほど、制服なら入れるわな」

「問題無い。貸し切りだ。私服でも良かったのだが」


 父親がようやく口を開いた。三か月振りくらいに聞いた、低い声。喋るのが面倒だと言わんばかりの、聞かせる気の無い声だ。

 だが、貸し切り。そうだな。父親はあちこち、と言っても、表裏問わず、どちらの側にも結構恨みを買っている。

 それは、厳格な正義感に基づいた行動で不利益を被った奴らが多いから。

 だが、その厳格な正義感に適うなら、協力してくれるという扱いやすさもある。そして、助けてもらったことがある奴もいる。

 敵に回さなければ、得の方が多いから、今も組織は存続できている。

 しかしながら、恨みを買っているという事実が消えるわけでも無い。だから、外食する時は基本的に貸し切りにするのだ。


 こんな不自由な生活をしてまで、俺の親は、何を欲しがったんだ。

 今更ながら、目の前に座る二人に対して、色々な疑問が湧いてくる。 

 なぜ俺を組織に入れたのか。なぜ俺が休職するのを許したのか。なぜ俺を、一人にしたのか。

 ……なぜ俺を、産んだのか。


「史郎君の、お父さん、お母さん」

 予約されたコースの前菜が全員に行き渡ったところで奏は口を開いた。

「お二人と史郎君のやっていることを、私は知っています」

「……あぁ、萩野君を通して、結愛君から連絡があった時点で、予想はついている……それについて何か言うつもりは無いが……続けてくれ」


 母親は、行儀よく背筋を伸ばし、感情の宿らない目で、奏を見ている。


「この晩餐会の目的は、お二人に宣言したいことがあったからです」

「聞こう」


 奏に、視線が集まる。五人分の視線を、奏は正面から受け止めた。たじろぐことなく、揺らぐことなく。

 あぁ、俺は、こんなにも強い子に、支えてもらっているのか。 


「私、久遠奏は、九重史郎君を愛しています。なので、貰います」


 堂々とした声。それは力強く、店内に響いた。

 その声は、悪党と散々渡り合ってきた、百戦錬磨の二人をたじろがせる程に意志が込められていた。

「もう、史郎君に寂しい思いはさせません。

 おはようも、ただいまも、おやすみも。私が、おはようで、おかえりなさいで、おやすみなさいで、応えます。

 明るい家で、温かいご飯で、ちょっとした賑やかさで。

 熱があったら私がちゃんと看病します。寂しい夜は私が傍にいます。落ち込む日は、私が寄り添って、それから励まします。

 なんて、まだまだ言い足りませんが、とりあえず。史郎君は、私が貰います」


 ……娘さんを俺にください、みたいなあれではなく、息子さんを私が貰います、か。


「そうか」


 父親は、一言そう答えた。

 母親は、唇を固く結んでいる。何か、迷っているようにも見える。

 それもそうだ。何年も放っておいたような息子に彼女が出来て、その彼女に今までの自分たちを皮肉られ、貰うと言われて、何が言えようか。

 二人は、静かに、頭を下げた。

 何も言わなかった。それは、彼らなりの気遣いだと、すぐにわかった。

 今、何を言ったところで、俺か奏、どちらかの怒りを買うことしかないから。


「た、食べましょう。美味しそうだなー。フレンチなんてあんまり食べたことないやー」


 花音ちゃんが無理矢理空気を変えにいってくれた。俺達は、それに乗ることを選んだ。





 家の前、車を降りる。


「史郎」

「何?」


 父親は、真っ直ぐに俺を見ていた。

 俺も、ようやく父親の顔を見れた。

 深い目だ。そして、刻まれたしわには、長い苦労を感じさせられる。髪も白髪が混じっていて、結愛の父親、室長とは違い、厳格で、真っ直ぐな人間性を感じた。


「……何かを選ぶ時、何かを掴む時、知恵と力、そして、勇気が必要だ。

 組織の中で、お前にそれを、身に付けさせた。仕事をさせることで、勇気と、選ぶ度胸を、身に付けさせたつもりだ。お前を組織で訓練させ、働かせたことを、間違いだと思っていない」


「そうかよ」

「駄目な両親だと言えるだろう。だが、お前を誰かを守れる人間にすることができたと、思っている」 


 扉が閉じられ、すぐに、車が発進する。


「……なんつーか。凄い親だね」


 花音ちゃんが、しみじみと漏らす。

 組織とか仕事とか言われてもわからないだろうが、花音ちゃんも音葉ちゃんも、突っ込んで聞いてくるよな子ではない。


「お兄さん、今日は姉さんを、連れて行って良いよ。何なら、音葉もついて行く」

「ん? 何を言っているのかな? 音葉ちゃん」

「冗談。姉さんだけ連れて行って良いよ」


 奏はもうついて行く気満々のようで、もう俺の家の扉に手をかけている。

 奏は、いちいち取りに戻るのが面倒だからと、泊りセットを家に置いている。だから特に、準備はいらない。


「そうさせてもらうよ。それじゃあ、二人とも」


 妹二人は、静かに頷いた。

 

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