女子会をしよう。
この三人で集まって何かを食べるのは、三回目。
単純に、この三人でお茶をしたくなった。
放課後、駅前から離れて住宅街。
結愛さんお勧めの個室のある喫茶店。会話を楽しむなら丁度良いと。
店員さんは、制服姿の私たちを見て、一瞬だけ戸惑った表情を見せたが、すぐに落ち着いた様子で、私たちを個室席まで案内した。
窓際とかに見えるのは、スーツ姿の男性や、なんか高そうな服を着たマダムたちがお茶会を楽しむ様子。
そして、メニューを見て、一瞬固まることになった。一杯四桁というのは、一般的な高校生の金銭感覚を超越していた。
「奏ちゃんからのお誘い、嬉しいなぁ」
「うん。来てくれてありがとう」
財布の中身を頭の中で計算しながら、笑顔が引きつらないように気をつける。
「何にしますか?」
メニューをペラペラと楽し気にめくっている結愛さん。どうやらケーキセットで迷っているようである。
私が、たまに放課後、クラスメイトと少しだけお茶をする時に寄る、学生もターゲットにしている喫茶店にいる時と同じ感覚で楽しんでいる。
やはり、ちゃんと仕事をしている人は違うなぁ、なんて思う。
これが、経済格差。
私の場合は、親の庇護と引き換えに、将来的に手に入るお金の自由。
高校生のうちに、それを実感する日が来るとは。
史郎君はそこまで贅沢しないし、物を買うこともそんなに無いから、あんまり実感は無かったが、目の前の結愛さんを見ていると、やっぱり結構貯金しているんだろうなぁ。
思えば、史郎君はお金を使う時に躊躇っているのを見たことが無い。
「何か?」
「う、ううん。じゃ、じゃあ、私は、ブルーマウンテンで」
「ケーキは良いのですか?」
「うーん」
どうしよう。こういう時、同じようなものを注文する方が、流れとか場の雰囲気的には良い。
でも、この二人といる時、そういう変な気を使うのは違う気がする。
「じゃあ、奏ちゃんはガトーショコラで、私はモンブランかな、結愛ちゃんは何?」
「では、チーズケーキで」
「はいはーい」
断り文句を考えている間に、話はトントンと進んで、店員さんが現れる。
そしてスラスラと注文してしまう。
仕方ない、腹を括ろう。
「父さんが、友達とお茶するって言ったらお小遣いくれてさ」
そう言ってスマホの画面を見せてくる。電子決済サービスという物だろうか。そこには確かに、その旨を示す履歴があった。
「だから、使っちゃおうって」
「え、えと、流石に……」
「うーん。ほら、あれだよ。友達のお父さんにご馳走してもらうみたいなものだよ。娘が日頃お世話になっております。みたいな」
「で、でも」
一度、泊めてもらってるし。色々貰ってるし。この間の焼き肉だって。色々理由を並べようとしたが。
「ふふん」
そんな可愛らしい笑顔に似つかわしくない、無言の圧力を正面から受けた。
「奏ちゃん、可愛いねぇ」
「急にどうしたの?」
「可愛くて、健気で、真面目で、良い子」
志保さんは指折り、そんなことを言う。
「可愛い子には、御馳走したくなる、そんな病なので」
「そ、そう」
「だからね、頑張ってね、旅行」
「……二人は、どういうスタンスなの?」
それは、最近の疑問。
史郎が、私に旅行の提案をしてから、二人の史郎に対するアプローチが、大人しくなったように感じた。
まるで、手を引いたかのように。
「妨害はしない、史郎が選んだら応援する、ってスタンス」
返ってきたのはわかりやすい答えだ。
「はい。露骨に争うと、史郎さんの心象を落としかねないので」
逆に言えば、結愛さんは、露骨に争わず、史郎君の心象を落とさない範囲なら、何か仕掛けてくるということか。
そして志保さんの場合、口ではそう言っても、無意識のうちに史郎の心を引き寄せてしまう。
相変わらず、どっちも油断ならない。
「お待たせしました」
テーブルに注文した品が並ぶ。
店員さんの美しい所作に、流石お高い店と思いながら、コーヒーを一口。
「……美味しい」
素直に美味しいと思えるコーヒーを飲んだのは、初めてかもしれない。
今まで、まぁ、美味しいかな? と思いながら何となく飲んでいたものとは大違いだ。
「それと、邪魔な噂を鎮静化させたい、ってところかな」
「邪魔な噂?」
「私と史郎が付き合ってる。って奴。あれがある限り、史郎が私以外選んだら、浮気野郎じゃん。だから、否定したいの。その役目は、奏ちゃんがぴったりだから」
……なるほど。私と史郎君が幼馴染なのは、知っている人は知っている。家族ぐるみの付き合いとでも言い訳はしやすいし。
そして、家族ぐるみの付き合いといえど、同い年の女の子と旅行は行くわけが無い。つまり付き合っていない。という構図か。私がはっきりとそう言えば良い。
「そうだね。私としても、その噂は邪魔だし。うん。乗ってあげる、その作戦」
志保さんが手の甲を差し出す。結愛さんがそこに手を乗せる。
二人の視線が、私に向いた。
促されるまま、私も手を乗せる。
「……えいっ」
一番下の志保さんが素早く手を抜いて、振り下ろす。
流石、素早い反応で、結愛さんはすぐに手を引いて、志保さんの手は、私の手の甲を打つ。
「はい、奏ちゃん一番下ね」
悪戯に成功した子どものように目を輝かせて、志保さんはパチリとウインク。
「……そういうことだったの?」
「やはは。まぁ、とりあえず。今度はちゃんと」
手が重なる。
志保さんは、どこかキラキラした目をしていて、結愛さんは不敵に笑っている、目の前の獲物をどう料理するかを考えるように、ギラギラと目を輝かせている。
「それじゃあ、恨みっこなしで」
楽し気な言葉に、頷く。
「うん」
「はい。油断したら、容赦なく掻っ攫いますから」
ルールはただ一つで、とても単純なもの。
そして、とても贅沢で、普通の人が聞けばなんて都合が良い、幻想だ、できるわけが無いと笑ってしまうもの。
恨みっこなし。
私たちは、これからも、誰が選ばれても、友達でいよう。
そんな約束だ。




