表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
失恋した俺の高校生活は、守りたい人が少し多い。  作者: 神無桂花
√奏 大切な人へ。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

83/223

そして冬休みへ。

 雪が見たいな、なんて思った次の日の朝。俺はスコップ片手に玄関前の雪を片付ける。

 奏は今、きっと温かい朝食を作ってくれている。


「ねみぃ」


 そして、雪が少し重い。上空の気温が温かい方が雪は重くて、寒いと、サラサラの、片付けるのが楽な雪というもの、究極の選択を迫られている気がする。


「史郎君、コーヒーとココア、どっちが良い?」

「コーヒー」

「りょうかーい」


 窓から顔を覗かせた奏が親指を立てて戻っていくのを見送って、作業に戻る。

 かまくらを作るにも雪は少ない。遊び心すら許さない、中途半端な雪の量。


「やはり、眠い」 


 トレーニングだと言い聞かせて作業を続ける。こういう地域にいると、スコップの扱いが成長するというものだ。

 



 そんな朝でも電車は止まらず、しっかりと頼もしく俺達を運んでいく。スピードが少し遅いというだけで、動いてくれるありがたみ。


「史郎、旅行行くんだって」


 電車内の人混みの中で、志保はこそこそと囁いてくる。


「急にどうした?」


 そういうと、志保はにんまりと笑みを作る。その後ろに隠れるように佇む結愛からの視線も感じる。それは、『これで詰みですよ』と、組織時代、結愛とチェスをした時に、とどめの一手を指される時と同じ雰囲気が込められている気がする。


「んー。楽しんできてねって」

「……どういう」

「そう言っておけば、私は行かないよって意思表示になるじゃん。結愛ちゃんが駄目でも、私が来るとなれば、ついて来なきゃいけないからね」


 お見通しだぞ、とでも言いたげに、志保は片目を瞑る。

 確かにそうだな。俺の中に考えとして無かったわけでもないこと。それは当然、結愛にはお見通しだし、志保も俺がそう考えると、予想することは、多分、可能だ。


「でも……」

「でも?」

「俺は、その……」

「まぁ、実は忙しいんだけどね。流石に遠出は参加できないからさ」

「あ、あぁ」


 少しだけ、呆れ混じりの声。

 しょうがないなぁと、志保は俺に、わかりやすい言い訳をくれる。

 親戚とかお偉いさんとかのクリスマスパーティーがあるのだろう。

 俺は、何を言おうとしたのだろう。

 志保と結愛を誘いたい気持ちは、無かったわけでは無い。だが、迷っていた。だから、志保に決断を委ねようとした。そして、志保が行かないという意思表示をした。

 だから、誘うための気勢が削がれたのは間違いない。

 でも。それでも俺は、何かを言おうとした。


「だから、お土産のリクエストだけはしたくてね、楽しい話、期待しているよって」


 クイっと首を傾げ、俺が好きだった笑みを見せて、志保は話を打ち切る。

 しかしまあ。

 何も具体的なこと決まっていないのに、旅行をするという部分だけが決まっていく。外堀が埋められていく感じがするが、俺が行きたいと思ってしまったのも事実。

 ちょっと、真面目に考えなければな。

 



 「姉ちゃんが行きたいところかぁ……なんで直接聞かないんだよ」


 そう言って、麦茶を一気に煽る花音ちゃん。


「いやまぁ。なんだ、何も考えてませんでしたってのは避けたいからな。ある程度仮案を考えた上で相談したい」

「姉さんはどこでも喜ぶ」


 眠たげに目を細めて、音葉ちゃんはそう言って、欠伸を一つした。当たり前のことをわざわざ言わせるなと言いたげだ。

 とまぁ、そんなわけで、放課後。こっそり妹たちに来てもらった。


「どこでも喜ぶかもしれないけど、やっぱり、奏が好きなところに連れて行きたいじゃん」

「姉さんが好きなのは、お兄さんで、お兄さんと一緒に行くことに意味がある」


 なるほど確かに。

 音葉ちゃんの淡々とした言い分は、そう頷かせるだけのことはあった。


「でも、それでも」

「まぁ、どうしてもってなら、ほら、兄ちゃんの好きなところ選びなよ」

「……遠出したことねぇから、どこが良いとか、わからねぇ」


 一応、来年の修学旅行は京都に行くことになっているが。中学の頃と同じだ。

 それでは芸がない。かと言って、沖縄まで足を延ばすのはキツイ。有り余った給料を活用するにしても、贅を尽くすのは、何か違う気がする。

 等身大で行きたい。

 げんなりとした二人分の視線に晒されて、物凄く居心地が悪い。自分の家なのに。


「なら、色々調べて、兄ちゃんが魅力を感じたところにすりゃ良いじゃん」

「魅力か……」


 傍らに用意しておいたノートパソコンを開く。

 近場の良さげなところを探すためだ。

 妹二人も後ろから覗きこんでくる。

 ……忘れていたが、この二人も、結構綺麗な女の子なんだよな。いくら近所のお兄ちゃん的な存在になっていても、流石に距離感、無頓着過ぎやしないか?

 思いついた地名を入力して、宿を検索してみる。


「電車ですぐ行けるところじゃねぇか」

「近場で済ませた方が、移動費もかからず、宿や飯に回せるな」

「おぉ、兄ちゃん頭良い」

「わりと普通の発想だと思うぞ。……お前らは、来ないのか?」

「行かない。部活ある」


 音葉ちゃんが即答する。吹奏楽部、午前中から夕方まで、結構活動時間が長い部という印象だ。文化部だが、実態は体育会系というイメージだ。


「あたしも。スポーツ推薦だから、ちゃんと練習しとかなきゃだし」

「そうか……土産は何が良い?」


 海沿いの、恐らく今は人が少なくて、ゆっくりできそうな温泉街。

 そこの小さな宿の予約ページを開きながら、聞いてみる。


「んー。姉ちゃんと楽しんでくることかな」

「そこは、年下らしく何か強請っとけ。良い子ぶるな」

「ううん。お兄さん。音葉たちのことを気にする暇があったら、姉さんとちゃんと楽しんできて。音葉たちのことが頭から抜けるくらいが望ましい」


 ……そう、なのか。

 でもどうだろう。

 俺は思う。奏にとって、妹二人はとても大切で。

 そして、大切な人のことを、頭から抜くというのは、無理だということ。

 でなければ、中一から今まで、友達との付き合いよりも、妹を優先して、なるべく早く帰るなんて無理だった。

 最近になってようやく、家の外の関係を優先する機会が増えてきたくらいだ。

 でもそれは、妹二人の成長に伴う対応であって。


「善処するよ」


 それでも、音葉ちゃんの言うことは、一理ある、なんて思うんだ。

 俺は、不安なんだ。

 奏を、ちゃんと楽しませられるか。

 だから、志保や結愛に頼りたいし、心配事は傍に、いつでも解決できるところに置いておくのが一番安心するから、妹達を連れて行きたいとも思った。

 奏が俺のことを知っているように、俺も、奏のことをある程度知っている。


「お兄さん。ファイト、オー。ですよ」

「ありがとな」 


 二人の頭を撫でながら、旅行の行程を頭の中で練っていく。

 そうだな。妹二人に頼るのもそうだが。

 ちゃんと、奏とも話し合おう。予約完了寸前のところで、俺はそう思いなおした。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ