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失恋した俺の高校生活は、守りたい人が少し多い。  作者: 神無桂花
√奏 大切な人へ。

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(分岐)冬休みの予定。

 「寒いねぇ。暖房、偉大だねぇ」

「そうだな」


 目の前の奏の席に志保が座る。持ち主は他のクラスメイトとお話し中だ。

 俺達についての噂は噂として、気にしないことにした。

 変にこそこそするから、面白がる奴がいる。堂々としていれば、すぐに飽きるだろうという結論だ。あちらが欲しい反応を、こちらから見せる必要はない。

 校舎の窓から見えるグラウンドは、すっかり雪景色。ホイップクリームでもぶちまけたような景色だ。

 十二月になった。

 期末試験が終われば、すぐに冬休み。

 教室の雰囲気も、少しだけ浮かれている。


「ところでさ、史郎」


 身を乗り出し、耳元に顔を寄せてこそこそと、志保は囁く。


「誰誘うの。クリスマス?」


 座り直した志保の顔には、どこかワクワクしている様子が見えた。


「誰って?」

「クリスマスだよ。クリスマスと言えば、やっぱり恋人じゃん?」

「わけがわからん。本来は……」

「そんなのどうでも良いよ。家族と過ごそうが、恋人と過ごそうが、友人と過ごそうが。今、クリスマスは好きな人と過ごす時代だからね」


 一理あるな。好きな人と言われるとその象徴は恋人であって。でもその本質は確かに、好きな人と過ごすことにある。

 ちらりと見ると、結愛は本を開きながらも、目線はこちらに向いていた。


「まぁ、史郎。たまには役割とか忘れなよ」

「んぐっ」


 はっきりとは言わない。けれどもう気づかない振りをそこまでする気は無い。

 志保の新しいスタンスが見えた気がした。


「やはは。それじゃっ」


 見事なウインクを見せて、志保は結愛のところに行く。

 入れ替わりに奏が戻ってくる。


「どうかした?」

「いや。何つーか」


 役割を忘れろ。か。 


「クリスマスに旅行ってありなのかな」

「急にどうしたの?」

「いや、俺、あんまり遠出とかしたことないからな。修学旅行くらいだから」

「あー」


 任務で遠出もあったが、それはあくまで仕事で。

 だから、少しだけ憧れる気持ちが無いわけでも無い。


「史郎君、温泉は好き?」

「それなりに」


 宿泊体験学習の温泉は、匂いはあれだが、気持ちよかったのは確かだ。


「行く?」

「……マジで?」

「父さんも許可出してくれるだろうし。ありかなーって」


 奏からの予想外の言葉。

 いやだって。奏も遠出はあまり積極的では無い。

 だから、なんというか。その。

 どうしよう。

 花音ちゃんや音葉ちゃんのことを考えると。でも、本人も、一日二日くらい、どうにでもするって。


「……じゃあ、行くか」

「いいね」


 それはもう、奏は嬉しそうに笑ってくれた。





 「う、うそ」


 黒板に貼られた順位表、特に興味は無かったが、奏が、そんな声を漏らした。

 期末試験の結果にひと騒動あった。

 奏が二位に陥落したのだ。


「なん、だと」


 霧島も驚愕している。だが、彼が勝ったわけでも無い。彼も一つ落ちた。三位に。

 一位に、見慣れない名前が輝いたのだ。


「えっ、だって、不登校の子だよね」

「うん。神代さん。別室で受けてたらしいよ」

「カンニング?」

「ううん。先生がずっと監視してたって」


 漏れ聞こえる噂話。

 自宅学習で一位まで成績を上げたというのか。凄いな。


「あーあ。残念」

「あー、その。まぁ、気にすんな」

「うん」


 右からは、いつも通りの奏の声。

「クッ」


 左から悔しさをこれでもかとにじませた、霧島の声。


「僕に倒される前に倒されないでくれよ。久遠さん」

「うーん。別に勝負してたつもりないからなぁ」

「んなっ」


 あー。奏はそう言っているつもりは無いだろうが、眼中に無い、と言われたようなものだ。


「気にするな。奏に悪意は無いぞ」

「わかって、いるさ」


 慰めにはならないが、ポンと肩に手を置く。


「強く生きろ」

「あぁ」


 霧島はニヤリと笑う。


「強く生きるさ」




 「というわけなんだが、一緒に来るか?」

「は? なにを言っているのですか? 先輩」


 帰って来た反応は、予想外にも冷たい反応だった。

 夜中、結愛の部屋を訪れ、奏と旅行に行く旨を伝え、それなら志保と結愛も一緒にどうだろうか、なんて思ったのだ。


「誘ったのは奏さんですよね。奏さんから私たちに話題が来ていないということは、史郎先輩と二人で行く想定だと思いますよ」

「そ、そうか。なら、やめておくか。旅行」

「旅行をやめるのですか。わけわからないです」


 なにやら憤慨した様子の結愛。

 駄目だ、何を怒っているのだ。


「いやだって、護衛に穴を空けるのは……」

「先輩から、奏さんに旅行の話題を振った時は、おっ、良いぞーって思ったのに。はぁ。女の子との約束は、何よりも優先してください。今の先輩、家庭よりも仕事を優先して、奥さんがため息を吐きながら愛想を尽かしてく未来が待っていますよ」


「えーっ。いやでも、仕事を優先するのは、別に間違っていない気がするぞ」

「間違っています。とても間違っています。奏さん、大切なら、ちゃんと大切にしてください」

「でも、志保は」

「私を信じる。頼ると言いましたよね。行ってきてください!」


 身を乗り出し、至近距離で、強い口調で。

 真剣に真剣を重ねた、強い眼差しで。


「私に頼れというなら、先輩も、頼ってください。私を。わかりましたか?」

「あ、あぁ。わかったよ」

「本部への報告は私からしておきます。柿本さん辺りが助っ人に来てくれるでしょうし。問題ありません」


 確かに。柿本さんが助っ人なら、俺よりも頼りになるだろう。

 しかしそうか。

 とても突発的な休暇をもらってしまった。


「なぁ、本当に、来ないのか?」

「残念ながら、志保さんはクリスマス、正月共に、親戚の方々が来られるそうで。しばらく無理ですよ」

「あぁ、そうか」


 クリスマス、正月。付き合っていた頃、一緒に過ごせたのは、志保にそれなりの苦労をかけていたのだろうか。

 お父さんに、交渉とか。

 俺が知らないところで、俺と過ごすために、色々してもらっていたのだろうか。

 本人に聞くこともできないが。


「どうかしましたか?」

「いや。なんでも」

「なんか嬉しそうですね」

「そうか?」


 でも、確かに頬が緩んでいるのを感じる。

 誤魔化すように、マグカップに口を付けた。


「頼んだよ。結愛」

「お任せを。先輩の相棒ですから。完璧にこなして見せますよ。一日、二日くらい、大げさです」


 右頬に指を添えて、クイっと持ち上げて見せる。


「久々に見たな、それ」

「最近平和でしたからね。私や先輩がやる気を出さなければいけない事態がしょっちゅう来る方が、問題ですよ。志保さんに引っ越しの提案をしなければいけません」

「違いないな」


 夜中のアパートの一室、控えめな笑い声が木霊する。

 行先とか考えないとな、そうなると。

 雪が見たいな。綺麗な雪が。


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