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失恋した俺の高校生活は、守りたい人が少し多い。  作者: 神無桂花
私を振って。

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冷えた秋の空気。

 「志保さん。優しいと、臆病は違うよ」

「そりゃそうだよ」


 何を今更、なんて顔をされた。


「ちょっとわかりづらかったかな。優し過ぎて、臆病になっているって言うべきかな。それとも、臆病故に優しくなっていると言うべきかな。

 相手を傷つけないようにする。それは優しいことと言えるけど、でも、それが過ぎると臆病になる。肝心な時に、相手に踏み込めなくなる」


 残酷だ。

 相手を傷つける覚悟を求められるって。

 でも私たちは、きっとどこかで、等しく同じ臆病を抱えている。

 傷つけたくなくて、嫌われたくなくて、踏み込まれたくなくて。

 優しさという一線を引く。


「志保さん、私、酷いかな」

「……これだけは言えるよ。奏ちゃんと友達になって、良かったって」

「……ありがとう。私も、そう思う。だから、躊躇っちゃったんだよ」

「躊躇わないでよ。うん。奏ちゃんと友達でいたいから、私、少しやる気出たんだから」


 今の、史郎との微妙な関係を続けたら、奏ちゃんとも、結愛ちゃんとも、きっと微妙な関係になる。いや、なりかけていた。

 史郎との中途半端だけど、居心地の良い関係と、奏ちゃん達との関係を天秤にかけたら、私だって、少しの勇気は、出るというものだ。


「奏ちゃん。私、覚悟決めるから、史郎のこと、お願い」

「うん。志保さんが大丈夫だって、ちゃんと伝えるから、大丈夫になってね」

「置いてきたつもりだった気持ちと、向き合う」

「うん。頑張れ」


 そうして、どうしてか私たちは、拳をぶつけ合った。





 そんな会話をした次の日。土曜日。


「史郎君、出かける予定、ある?」

「無い」


 史郎君の顔色が良かった。

 どこか鬱々としていた顔が、最後の記憶だから。

 ……結愛さんか。ここまで立ち直らせるとは。手強いな。

 でも、正直、ありがたい。

 史郎君にどんな言葉をかければ良いか、わからなかったから。流石、史郎君が最も頼りにしている人。


「結愛さんは私のこと凄いと言うけどなぁ」

「奏は凄いぞ。結愛も凄いが」

「志保さんは?」

「勿論凄い」


 しみじみと、史郎君は言う。

 その様子に、お世辞では無いとすぐにわかった。


「それで、俺の出かける予定を聞いてどうした?」

「少し、散歩しない?」


 そう言うと、史郎君の目は鋭いものに一瞬だけ変わり、すぐにいつも通りになる。

 でもわかる。史郎君の中で、何かが切り替わったって。


「丁度良いや。俺も、話しがしたいと思っていたし」


 その言葉に、変な力みは無い。だから私は緊張した。

 無理矢理力を抜く。今私が不安になってどうする。

 結愛さんにとっくに気持ちが傾いてしまっている。その可能性は考えられるけど、今、恐れ、考えることではないはずだ。


「じゃあ、朝ご飯食べたら、行こうか」


 ご飯と味噌汁と鮭の塩焼き。だし巻き卵におみ漬け。

 朝食がテーブルに並ぶ。


「サンキュー」


 そう言いながら、史郎君はコーヒーを注いだマグカップを置いてくれる。


「史郎君も。ありがと」

「……食べようぜ」


 そう言って、手を合わせた。






 九重史郎君のことが好きだ。

 ご存知の通りである。

 誰に語りかけているんだ、私は。

 しかしながら、この男は結構面倒だ。

 まず色仕掛けが通用しない。

 親がいない家、たまに妹がいる程度の家にずっと一緒にいて、何も仕掛けてこない。

 見下ろすは、我ながらよく育った二つの丘。別に太ってはいない。スタイルの維持は頑張っている。

 実質一人暮らしの家に、それなりに可愛い(自己分析)の女の子がいるのに、何かする素振りも無い。

 ……その程度では色仕掛けとは言わない? ……マジか。そこは追々考えよう。

 めんどくさいポイントその二。元カノが超絶級の美人。

 朝倉志保さんは間違いなく美人だ。私が男なら狙っていた。

 足細いし長いし。ウエストもキュッとしまって、しかしながら、不健康さは感じない。曲線美脚線美。胸も程よくあり艶のある長い黒髪。

 何をどうしたらこんな風に育つのやら。

 美味しそうな食べ物に目を光らせ、放課後は絶対買い食いしているのを見ていると、世の不条理を感じる。

 でも、一緒にいる時間は、本当に楽しい。もっと早く、出会えていたらと思う。

 けれど、史郎君と同じくらい、面倒な人でもある。

 史郎君と同じことに縛られて、真逆な答えを出している。

 過去の気持ちと向き合い続けて、後ろを向き続ける史郎君。

 過去の気持ちを後ろに置いて、前を向き続ける志保さん。

 でも結局縛られて、立ち止まっている。終わりきっていない。


「はぁ」


 客観的に見るなら、志保さんが肩越しに振り返ってしまった、って言うべきなのかな。

 史郎君にとって、一番好きな人、って言ったところかな。


 あとは、可愛い後輩もいる。めんどくさいポイントその三だ。

 萩野結愛さん。

 私たちより一つ年下だけど、任務として高校生になった。

 背は私よりも低い。びっくりした。正直。

 正直、見事なまでの子ども体形。でも、肌綺麗だし、顔可愛いし。人懐っこい言動とか、正直、頭撫でたくなる。その分、時折漏れ出る冷めた部分が際立つわけだけど。

 史郎君は多分、一番信頼している。咄嗟の場面で頼るのは結愛さんだ。

 それだけの信頼を裏付ける能力もあるし。

 私を助けに来てくれた時の銃の扱いは、素人目で見ても、凄いのはわかった。

 正直、銃撃っている時も、夜中、家の前で戦っている時も、なんかカッコいいな、なんて思った。

 頭も良い。これまでのテスト、情報処理は仕方ないとして、数学とか物理とか、普通に負けた。忘れられてると思うけど、一応、私、前期は総合一位の成績。

 そういえば、家に来てもらった時、パソコン直してもらったな。

 もっと仲良くなりたいと、正直思う。

 史郎君に対する思いも行動も、ドストレート。

 最近、学校でも、隙あれば、軽めのスキンシップを取ろうとしていたし、手を握る程度の。でも、その程度でも、クラスメイトのみんなも、気持ちは気づいていると思う。

 眼鏡っ子の隠れ美少女ファンは、潜伏しているだけで、男女ともにいるのだ。ファンと言うか、見守る会か。

 本人には言わないけど。

 こんな二人に気持ちを寄せられても、彼の自己評価は低い。とても。


「さぁ、どうしたら良いでしょう」


 駅前を通り抜け、少しずつ、街の中心から外れていく。

 この道、最後に来たのは、大体半年前か。

 風を感じる。冷えた風だ。前に来た時、桜は既に散っていた。緑だった。今は、枯れている。

 枝が目立つ。地に落ちた葉は、どこに消えるのか。どこに消えるのか。


「なんでここ」

「んー。色々あるけどさ、落ち着いて話すなら、ここかなって」


 家で良いだろと思いはしても、出かけることを容認した以上。そして、俺も話があるといった以上、俺はこれ以上の文句を飲み込んだ。


「寒いな」

「そう?」


 そう言っている奏の手は震えている。

 何をやせ我慢しているのやら。話がしたくて、じっくり静かに話せる場所まで来て、予想外の障害があって、でも退くに退けない。

 そんなに話したかったのか。

 なぜ俺はここで、家で良いだろと改めて言わなかったのか。 

 考えてみたけどわからない。


「ねぇ、史郎君」

「うん」


 震える手、俺はその手に自分の手を重ねて、パーカーのポケットに突っ込んだ。流石に見てられない。

 それに少し驚いた素振りは見せたけど、思い直して奏は、言葉を続ける姿勢を見せる。


「史郎君は、史郎君は……!」


 声まで震えてきた。

 言葉を待つ。


「史郎君は……私は、史郎君を、ずっと見てきた」


 そう言って奏は、息を一つ吸って吐いた。肺の空気を、全部入れ替えるように。


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