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失恋した俺の高校生活は、守りたい人が少し多い。  作者: 神無桂花
私を振って。

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怖がりな私たち。

 二人がいない学校は、どこか物足りない。

 志保さんは一人でずっと本を読んでいるし、クラスメイトとの会話も、あまり入れ込めない。

 結愛さんが何を仕掛けたのか、気になる。

 そう、史郎君がいなくなる理由なんて、結愛さんが何かを仕掛けたからだ、と予想している。

 予想外だった。先手を取られるなんて。

 いや、予想外なのは、私が仕掛けられなかったことだ。

 結愛さんが速攻をかけるのは、容易に予想がつくこと。

 なんで私は、攻めあぐねたのか。

 なんでだろう。

 授業中、窓の外を眺めながら考える。

 いつもより長くて、ぼんやりとした一日。

 じっくり悩む。悩む時間がある。

 私は、私と向き合う。

 どうしてだろう。

 でも、答えは出てこない。開き直れたはず、私は、私が感じ得る恐怖に対して、答え突き付けたはずなんだ。

 先生に史郎君の容態を聞かれた時は、明日には復帰できると伝えた。

 ようやく、放課後。


「一緒かーえろ」


 志保さんに、そう声をかけられて、二人で校舎を出た。





 「二人、何してるのかなぁ」

「わからない」


 駅前までの道。

 志保さんはいつもと様子は変わらない。

 私は、まだ、昨日の夜の会話を引きずっている。

 頭の中にちらつく、綺麗な笑顔。

 あぁ、そうだ。

 私はあの笑顔にやられた。

 あの笑顔は、志保さんが抱えている毒を、私に伝えた。

 前を向き続ける。脆い幸せを抱えて。ある種の決意。それを崩す道筋が見えなくて。

 あの綺麗な笑顔に、膝が震えた。

 志保さんのあの笑顔に挑むには、半端な覚悟では、駄目だ。


「結愛ちゃん、多分、史郎のところだよね」

「だと、思うよ」

「何してるのかな」


 きっと、今の状況を打開するのに必要なことだと思う。何て言えない。

 動け。動け。

 そう私に言い聞かせているのに、頭の中にちらつく笑顔。

 私に勝てるのか?

 いや、勝たなきゃいけないんだ。

 でも、勝ってどうするんだ?

 史郎君と付き合える。それは、志保さんとの関係を壊すリスクを負ってまで。

 あぁ、史郎君は、こんな恐怖を抱えていたんだ。

 志保さん。結愛さん。高校生になって、特に関係を深めた二人


「ねぇ、奏ちゃん」

「何?」

「負けないんだよね?」


 駅前、帰宅ラッシュの人混みに紛れて。

 雑踏の中、賑やかな街の音。

 その中でも、耳元に、やけにハッキリと響いた。

 志保さんの声。


「負けないからって、言ってたよね」


 志保さんの方を見る。

 あの、綺麗な笑顔だ。

 壊してはいけない。そう思わせてくる笑顔。

 私の価値観が、崩れてしまいそうになる。そんな。

 史郎君への気持ちも、志保さんと過ごしてきた時間も、本物だ。

 どちらも守りたいと思うのは、間違えているのか。

 片方しか、選べないのか。

 結愛さんのように、迷いなく進みたいのに。

 志保さんの綺麗な笑顔は変わらない。

 そこに込められている意味はわからない。

 ただ、志保さんの抱えている毒に蝕まれる。

 壊したくないと、思わされる。


「志保さんは、どうしたいの! わかんないよ!」


 叫んだ。人混みの中で。

 当然、視線が集まった。


「やはは……こっち」


 志保さんに手を引かれる。

 叫んでしまった。自分の行為に戸惑って、わけわからなくなって。

 私は、導かれるがまま、どこかのお店に入った。




 「豚とろと、カルビと、牛タン。あ、ミノも。奏ちゃんは何かある?」

「……塩キャベツ」

「おっと、忘れてたよ。それならサンチュもだね。冷麺も食べたいな」


 二時間の食べ放題コース。当たり前のように二人分、一番ランクの高い奴。

 慣れた様子でタブレットを操作して注文していく。まだ夕方の時間なだけに、お客さんも少ない。


「さあ、食べよう食べよう」


 志保さんは網に肉を並べていく。

 ……なんで、私は焼肉屋にいるんだ。

 来るとしても、家族と。友達となんて、考えたことなかった。

 頭の隅に、花音、音葉。史郎君の夕飯のことがちらついた。


「なんで、焼き肉?」

「んー。奏ちゃんが急に叫んで、とりあえず離れようと思って、目に入って、食べたくなったから」

「はぁ」

「あー大丈夫だよ。ちゃんと家でも夕飯食べるし」

「そんな生活で、よくその体形保てるね」

「運動、大事!」


 親指を立てて良い笑顔。それだけで保てるって凄い。

 焼き上がった肉が皿に並ぶ。

 思わずゴクリと喉が鳴った。

 美味しそうだ。でも。


「志保さん。私、志保さんがどうしたいか、わからないよ」

「そりゃ、私もわかってないもん」

「は?」

「その反応、史郎っぽいね」


 豚トロを口に放り込む。

 塩味が利いて、脂も美味しい。苦手な人、たまに見るが、私は好きだ。

 肉で誤魔化すのはここまでにしよう。


「わかってないって、どういう意味?」

「今の史郎との関係が居心地良いって話、したよね」

「うん」

「良くないのは、正直、わかっている。馬鹿でもわかる。私たちの今の関係に名前を付けられない、とても曖昧なもの」


 人は、よくわからないものに、名前を付けることで、少しの安心を得ることができた。

 奏ちゃんに、ちゃんと友達と言ったから、今こうして食事を囲めている。

 じゃあ、私と史郎はなんだ。

 曖昧だから、嫌になれば離れられる? 責任が伴わない?

 そんなわけが無い。


 史郎に思いを寄せている二人がいる。

 でも、史郎は、私との関係をはっきりさせない限り、史郎はそのどちらとも、向き合えない。

 史郎は優しいから、私に対しても、慎重になってくれる。


「私、史郎を傷つけた。これだけは絶対に変わらない。そして、私はまた馬鹿なことをした。また、史郎を悩ませている。また、史郎を傷つけるかもしれない」


 自分勝手な女だ。本当。嫌になる。私の方がしがみついている。振りほどかれないのを、良いことに。

 傷つけないように、今の関係をどうにかする。手詰まりだ、正直。

 お肉が美味しい。

 カルビはタレに限る。


「史郎に守ってもらって、でも、私、史郎に、何も返せてないどころか、余計なことばかり。嫌になるね」


 本当に、なんで。

 なんで、史郎は。

 そして、私が、史郎のためにできることは。

 目の前の皿に、焼き上がった肉が置かれる。


「まずは、食べよっか」


 ぽつりと、奏ちゃんはそう言った。




 外に出ると、日はすっかり沈んでいた。

 腹ごなしに歩く。

 会話は無い。

 志保さんは、ボーっとしている。ずっと。何かを、考えている。


「……やっぱり、痛みは、避けられないね」


 自分の口から出た言葉に驚く。

 史郎君や志保さんが探しているものに、はっきりとそんなものは無いと言ってしまっことに。


「私たち、違うもん。どこまでが許せて、どこまで耐えられてなんて、わからないもん。痛みのない前進なんて、あり得ない」


 けれどさ。


「史郎君も志保さんも、相手を傷つけない方法を探しているんだもん。優しいよ。二人とも。でも、無いんだもん。そんな方法」


 誰かの痛みに臆病で。

 その結果何が起きるのか怖がって。


「私、明日、史郎君と話してみるよ」

「どうして?」


 驚いたような目を向けて、志保さんは首を傾げる。

 ……いちいち仕草が様になるな、この人。


「下準備だよ。史郎君に大丈夫を伝える。志保さん。私は史郎君を信じている。史郎君はきっと、大丈夫」

「なんで?」

「史郎君は逃げないよ。志保さんが、ちゃんと向き合いたいと言えば。今が駄目だと思うなら、立ち向かって欲しいな。私、先に行ってるから」


 どうなるかなんてわからない。

 既に後れを取っている。

 それでも、やらないわけにはいかない。

 先が見えなくても進まなきゃいけないから、本当、残酷だなって思う。


「奏ちゃん」

「んー?」

「私のやりたいこと。そして、やるべきこと、少しだけ、わかったよ。ううん。本当は、ずっとわかっていた。怖がっていただけで」

「うん」


 奏ちゃんと結愛ちゃんと、ちゃんと向き合えるようにする方法。

 史郎に、やってもらわなくてはいけない方法。

 ……傷つけるの、これが最後になれば良いんだけど。私も、傷を負う。


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