ただ、遊ぼう。高校生らしく。
「待たせたな」
「ううん。大丈夫。ドリアで良いんだよね?」
「あぁ」
ファミレスで、ドリンクバーとドリア。志保はミートソースのパスタ。あとは二人で食べるように、マルゲリータとポテトを頼んだ。
「昼飯食ったら、そうだな……志保ってビリヤードとかできるか?」
「できるよ」
「近くにそういうの色々できる奴がさ、春にできたらしくてな」
「……良いね」
春休み、志保と行きたかった場所の一つだ。
志保も行きたかった場所なのだろう。上機嫌に笑って、メロンソーダとコーラのブレンドをストローから吸い上げた。
「メーラ。覚えてたんだ」
「うん。なんか美味しい」
「だろ」
料理が届いて、手を合わせて。
あぁ、何だろう。楽しいな。
あったかもしれない夢を見ている気分になる。
志保に、別れ話を切り出されなくて、志保に、何も危ないことがなくて。そして、俺が、休職したままの。
でもこれは、確かに現実だ。
そして、俺は、今の状況を後悔は、していない。
奏も、結愛も、確かに大切な人だから。
あぁ、本当。
俺の高校生活は、守りたい人、少し多いな。
「ルールは?」
「ナインボールで」
「オッケー」
ルールを確認して、キューを手に取る。
「……史郎、構えおかしくない?」
「そうか?」
左手で持ち、右手の親指と人差し指の間で照準を定め、姿勢を低くして、突き出す。
重さが大分足りないが、そこは制御できる範囲。
後は、腰の捻りで威力を乗せる。
ブレイクショット。残念ながら一つも入らない。
「史郎って、そういえば左利きだったね」
「左の方が得意なのは確かだな」
右手も使える。仕事の都合上、片腕潰されたぐらいで、もう駄目だーってなったら話にならない。
「それじゃ、私の番だね」
慣れた様子でキューを構える。
「んっ」
一と手玉の間には二がある。
「って、曲げた」
手玉は二を躱しそのままカーブ、一に当て、そして転がる一は九番ボールに当たり、そのままポケットイン。
「あれ、これ、ナインボールで良いんだよね?」
「志保はそう言っていたな」
「じゃ、私の勝ち」
「ワンモア」
「良いよー。次は私からで」
「史郎、上手いね。どうやってるの?」
「余計な力を抜けって結愛からも言われてただろ」
志保のダーツは、的には刺さっているから、下手くそってわけでも無いだろう。
得点差が凄いけど。
しかし、真ん中に当てれば良いってわけじゃないんだな。志保に言われるまで知らなかった。
ド真ん中が五十で、それよりも高いのが二十のトリプルね。
ここに結愛がいたら、どっちが先にミスるかの勝負になって、負けるのは俺だろう。
「デート中に、他の女の子のことを考えるのかな? 史郎は」
「考えてない」
「やははっ」
「……精神攻撃やめい」
狙いが逸れて、刺さりすらしなかったダーツを拾いにいった。
「ふっ!」
「おぉ。上手いね、結愛ちゃん」
「奏さんも飲み込みが早いですね。いつまで経っても、漫画の真似した変な構えで、力任せな史郎先輩とは大違いです」
「あぁ……」
しかもその漫画のキャラが持っているのは、ビリヤードのキューではなく、日本刀だ。
「じゃあ、決めますね」
懐かしい。
組織の施設の中にある遊技場で、よく遊んだものだ。
正式なルールも、教えてくれる誰かもいなかったから、自分で覚えた。
史郎先輩は我流を貫き通して、いつも負けていたけど。
しかし、意外と楽しく遊べている。気まずくもない。
奏さんの人柄もあると思うが、組織とか無かったら、是非友達になりたい人物だ。
私が返答に困ると、丁度良いタイミングで、自然な流れで、別の話題をくれる。
今も、結構ボロ負けしたはずなのに、楽し気に笑ってくれている。
年下に教わるの、結構嫌がる人いるのに、素直に私が教えた通りの構えで、手玉を突いている。
「奏さん」
「んー?」
「そんなに大げさにキューを引かなくて良いですよ」
「うん」
ちらりと、ダーツコーナーの方を見る。
先輩、楽しめてるみたいだ。
複雑な気分だけど。
それを察してくれたから、奏さんは、私たちも遊ぼう。なんて言ってくれたのだろう。
実際、多少は気が晴れている。もやっとしたものはあるが、無視できる範囲だ。
「良い感じだね。自然に笑えてる」
奏さんが隣に立つ。
「もやもや、しないのですか?」
「んー。しない、かな。史郎君が前に進むために必要なこと、だと思うし」
……やっぱり。奏さんは凄い。
この間までの私は、史郎先輩が幸せになれればそれで良い。なんて思っていた筈なのに。
今は、傍に居て欲しいなんて、自分勝手な感情を抑えるのに、苦戦しているんだ。
「駄目ですね。私も」
「なんで?」
「史郎先輩に、幸せにします。って言ったんですよ。なのに、私が幸せになりたがっているんです。おかしいですよね。身勝手です」
あぁ、相談しちゃった。奏さんの優しい雰囲気に、身を任せてしまった。
きょとんと、奏さんは不思議そうに首を傾げる。
「何もおかしくないよ。自分が幸せにならないで、相手を幸せにできるわけないよ。自己犠牲は、尊くない。特に、史郎君の場合は。
史郎君は、一緒に幸せになることを望むよ。だから、全然おかしくない」
確かな確信と共に放たれた言葉。
あぁ、やっぱり、奏さんは凄い。
私は、こんな人に、挑んでいるのか。
でも、負けたくないな。
「……さて、終わらせましょう。あちらも移動するみたいですし」
放たれた手玉は、残っていた的玉を全てポケットに収めた。




