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失恋した俺の高校生活は、守りたい人が少し多い。  作者: 神無桂花
私を振って。

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本気出してよ。

 手を繋いだ。

 ただそれだけ。

 どちらからというわけでもなく、自然と手が繋がれた。

 緊張は無い、変な力も入らない。今更焦らないし、緊張もしない。

 この間だって、奏と手を繋いでキャンプ場を下見したし、結愛とも手を繋いで街中を歩いた。

 別段、特別なことではない。

 手を繋いで歩くことに特別性は無い。 

 片手を相手に預けて、使用不能にする行為と言ってしまえば、無駄ですらある。

 恋人同士がする行為というイメージは否定しないし、好き同士が敢えて非合理的な行為に及ぶことを非難するつもりは無いが。

 むしろ、中学の頃の俺は、これだけで心躍らせ、満足感すらあった。


「史郎、こことかどうかな?」


 志保が立ち止まったのは、カラオケだった。


「行くか」

「良いの?」

「志保が行きたいんだろ」

「……むっ」

「? 行かないのか?」

「行く」 


 中学の時の通り、特にコースとかは決めずに、何となく歩いて、行きたいところがあったらそこに入る。

 そこに志保が不満気な顔を一瞬見せる。わからない。俺は、マズい事をしたのだろうか。

 とりあえず、一時間にした。

 レジのすぐ傍の部屋。ありがたい。


「……カップルってやっぱり、店員の目の届きやすいところに置きたいのかな?」

「さぁ。カップルとか関係なく、客が少ないなら、近くの部屋に置いた方が、物運ぶ時楽だろ」

「……私が悪かったです」

「謝られる理由がわからない」


 妙なことを言う志保にマイクとリモコンを渡す。

 志保の歌は上手い。また聞ける機会があるとは、ありがたいな。

 しばらく、俺は志保の歌声を聞いていた。


「史郎、歌わないの?」

「聞き専だ」

「またそういうこと言う~」


 そう言ってリモコンをポチポチと操作する。

 こういう時、志保はデュエット曲を入れる。

 マイクを手に取る。確か、最初は俺からだな。

 意外と覚えているもので、忘れそうなところも、歌詞をちらりと見れば、どうにかこうにか最後まで志保に全部投げずに済んだ。


「歌えてるじゃん。もっと歌いなよ」

「志保の歌は聞き心地良いから、聞いていたくなるんだよ」

「褒めても何も出ないよ」


 一時間はわりと短い。

 俺達はすぐにカラオケを出た。

 駄目だな。わからない。

 志保は、何を見極めたいんだ?

 俺は、志保に、何と切り出せば良いんだ? そもそも、俺は志保に何を切り出せば、答えを導き出せるんだ?

 目的はあっても、それに至る道筋が見えない。

 グルグルと考えて、中途半端な態度、言葉になる。

 俺は、どうしたら前に進めるんだ。




 「ふむ……」

「あの、奏さん。近いのですが」


 パソコンに映る監視カメラの映像をじーっと眺める奏さんの視線は鋭い。


「うん」


 なんて頷きつつも、退く気は無いみたいだ。


「二人とも、距離感、いつもとあんまり変わって無いんだよね」

「確かに」


 二人きりになれば、近づくと思っていたけど、普段私たちの前にいる時と、そんなに変わらない。

 何となくお互いがお互いをわかっているようで、でも、探り探り。

 お互い、本音を零さないよう、上手く立ち回っている。と、表情から判断できる限りだが、そう見える。

 たまに志保さんが仕掛けようとするが、それをやんわりと躱したり制したり。当たり障りが無いように。史郎君は無意識だろうが、踏み込むのを躊躇っているように見える。


「本気で行ってね、って言ったのに」

「本気で?」

「うん」


 史郎先輩に、本気で志保さんを落としに行け……?


「それで、奏さんは良いのですか?」

「何が?」

「敵に塩を送るようなこと、ですよね?」

「もし、志保さんが敵ならね」

「……そういうことですか、お二人が見極めたいことって」


 なるほど。本人すらわかっていないとは、面倒な。


「そう。志保さんが、史郎のことを、好きなのは間違いない。でも、それが恋なのか。付き合いたいの好きなのか確かめるには、史郎君に本気で行ってもらわないと、困るんだ」


 そう言った奏さんは、スマホを操作する。


「また背中を蹴らなきゃいけないのかぁ」


 なんてぼやきながら。




 昼食。一旦トイレに入る。スマホにメッセージが入ったから。

 俺のスマホにメッセージを送る奴は少ない。そして、大体必要な話題だ。


『史郎君、本気で行って、って言ったよね?』

「……奏、どこかで見てるのか?」


 気づかなかった。ということは、結愛と一緒か。


『どういう意味だ?』

『そのまんまの意味だよ。本気でデートしてよ。初デートの時みたいに』

『初デート?』

『あの時は、史郎君も、楽しんでたじゃん。決着をつけようとか思って、デートに臨んでると思うけど、私たちに答えを出さなきゃとか、護衛とか、そういうこと、一旦忘れてよ。


 目の前の女の子と、楽しく休日過ごしてきてよ』


『初心に帰れ、ってか?』

『そういう理解で良いよ』


 初心、か。

 前に進むために、今までの足跡を眺める。

 奏も、確かめたいことのために、俺達の初デートのコースを再現した。

 それに習うなら、確かに、奏の言うことも、一理ある。


『結愛に伝えてくれ。今日一日休職するって』

『うん。任せて』


 できるだろ、九重史郎。

 目を閉じて、開けた。

 去年の今頃の自分は、どんな風に笑っていただろうか。

 一昨年の俺は、どんな風に、志保に気持ちを伝えただろうか。

 思い出せない。だから、今の俺なりに、素直になろう。余計なことを、考えないようにしよう。

 意識的にするのは難しい。けれど、そうだな。

 志保と行きたい場所、やりたいことは、まだまだあったことを、思い出した。


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