おでかけの気配。
「やぁ、史郎」
「あぁ。どうした?」
「用は無いけど、声かけちゃ駄目かな?」
「いや、そういうわけじゃない」
放課後。奏は今、職員室に行っている。俺は俺で、宿泊体験学習の班決めの真っ最中だ。
とりあえず、志保と結愛と奏は一つにまとめる。俺は、監視の意味も込めて霧島と同じ班。ここまでは良い。
奈良崎と佐藤も同じ班に固めたいな。奈良崎は前科があるから、監視しておきたいが、俺が霧島を張っておけば、問題無いだろう。
あとは、料理とかレクリエーション時に、俺が志保達と一緒に動けるように調整して。
さらにこの仮案を発表した時、反対意見が出ないように、人員をなるべく仲良しグループが固まるように調整。
担任に確認して、人間関係はなるべく考慮に入れて欲しいという言質はしっかり取ってある。
面倒だが、クラス委員になっておくのは大事だな。やはり。
「宿泊体験学習、やはは。楽しみだなぁ」
「そうなのか?」
「うん。だって楽しいじゃん、日常から離れるって」
「そういうもんかね」
「そういうものだよ」
志保は朗らかに笑う。俺の好きな笑顔で笑う。
ノートを片付ける。あとで奏に目を通してもらおう。
どこか、考え込んでいるような視線を感じる。
「どうした?」
「んー。うん。よし……今度の休日、ちょっと買い物付き合ってよ」
「何の?」
「必要な荷物買いに」
「……なぜ?」
志保の家なら、それこそ、あの執事とやらに任せるのが手っ取り早いだろ。多分。
「んー、史郎と出かけたいから、かな?」
「俺に聞かれても」
「一緒に出掛けてくれる?」
クイっと首を傾げる。その動きに合わせて、髪が流れる。
どうする……。
断る理由は無い。
そして、俺は今、志保に誘われたことで、少しだけ気分が上がっている自分がいることに気づいた。
「……わかったよ」
「じゃあ、私も行くね」
「……ん?」
不意に聞こえた声は、丁度俺の向かい側から。
いつの間にか、奏が戻ってきていた。
「良いでしょ?」
「……俺は断る理由無いけど」
「私も良いよー。一緒に出掛けよう」
結愛は、どうしよう……。
「私は大丈夫です。三人で楽しんできてください」
「えー」
「えーって、先輩、そんなに私とお出かけしたいですかー?」
夜、夕飯を済ませた俺は、結愛の部屋にいた。窓から見える一軒家には、志保がいるのはわかっている。
「先輩から家に来てくれたから、何事かと思いましたけど、そんなことでしたか」
「そんなことってお前なぁ、護衛対象が出かけるんだぞ」
「別に、私は陰から見てますから」
「何でさ」
トンと、結愛は俺の目の前にマグカップを置く。
茶葉は知らないが、香りの良い紅茶は、少しだけ疲れた頭をスッキリさせてくれて、身体から余計な力を抜いてくれる感じがする。
風呂上りなのか、パジャマ姿でソファーに座る俺の隣に座る。
「先輩が他の女子と仲良くしているのを見ると、もやっとします」
「えぇ……」
「私、意外と独占欲強いので、ご注意ください」
「それ、注意のしようがあるか?」
「まぁ、無いですね」
平然とそう言う。
「まぁ、別に良いが」
「これを別に良いと流せる先輩、流石ですよ。ヤンデレ宣言ですよ」
「知らんがな」
好きの形は人それぞれ。誰かに迷惑をかけない限り縛る権利なんか、あるわけが無い。縛る気も無い。
現状、結愛とも、どういう関係かわからなくなってしまったけれど、それでも、俺達の間には、絶対に揺るがないものがある。
それは、奏も同じで。
結愛の場合、それは、俺達が、相棒であるということ。
最高のコンビであること。
恋なんかで、崩れて欲しくない関係。
いや、結愛は恋とかわからないって言っていたけど。多分恋とも言っていた気がするが。
「結愛がいれば、ありがたいのだが」
「とりあえず、三人で行ってきてくださいよ。休日まで四六時中引っ付いている方がおかしいですし。護衛は護衛と特定されない方が良い。それは、私の場合でも同じですから」
護衛がいる可能性がある。という抑止力と、護衛が護衛だと特定されて良いは、両立しないということか。
陰に徹して監視をする点で言うなら、結愛の方が向いているのは確かだし。
「結愛らしく、合理的な意見ではあるな」
「そういうわけなので、先輩。真面目な話になりますが。三人で行ってきてください。私は陰から見守る役に徹します」
「まぁ、それで良いよ。いてくれるならありがたいし」
正直、楽しくなりそうな休日を、結愛にも過ごしてほしかったが、無理強いするのも良くないか。
それじゃあ、とりあえず。どうしたものかね。
「奏が、コースは私に任せてって言ってたんだよなぁ」
「奏さんがですか?」
「あぁ。やけに張り切っていた」
奏のお出かけ企画に対する期待と、どうなる事やらという不安が入り混じる。
悪いことにはならないと思うが。
マグカップを傾けて、窓から見える志保の家を見る。
「先輩、悩んでますね」
「悩むさ」
俺達の関係は、これから確実に変化する。
その変化の先、何が待っているのか。俺はちゃんと、見極めなければならない。
優しい保留期間に、いつまでも甘えるわけにはいかないんだ。
俺は知ってしまった、告げられてしまった。
待たせ過ぎたとまで、言えるんだ。
だから、早く。俺は自分の中で決着を付けなければならない。
期限なんて設けられてない。でも。
胸を張って好きだと言ってもらえる。そんな人でありたいと、今は思う。




