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失恋した俺の高校生活は、守りたい人が少し多い。  作者: 神無桂花
私を振って。

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もしもの想定。

 もし、告白しなかったら。俺達は、今も普通に仲良くできていたのだろうか。

 もし、告白しなかったら、俺達の間にある、変な気まずさは、無かったのだろうか。

 友人から恋人になった途端、何で関係が脆くなってしまうのだろうか。

 なんでより上手な立ち回りを要求されるのか。 

 距離が近づいたデメリットが致命的過ぎる。


『史郎。ごめん。お待たせ』


 また聞こえた。

 志保との恋人っぽい会話が。

 見えてくる。

 待ち合わせに三分くらい遅刻してきて、照れたように笑う志保の幻覚が。

 頭を抑える。

 なんでまた……。

 振られた直後も、そんな感じだった気がする。

お花見に志保と行く妄想したり、一緒に花火見に行った時のことを思い出したり。

 なんとなく眺めた人混みの中に、居る気がしたり、スマホにメッセージが届くのを、少しだけ期待して居たり。


 結愛に告白されて一週間。

 そろそろ、学校が始まる。

 起きたら既に、部屋が高温になったのを検知したエアコンが、自動で家を過ごしやすい気温にするべく、起動してくれている。


「……十二時か」


 少し、だらけているな。

 気が抜けているのだろう。


「ったく」


 さて、どう過ごしたものか。

 いや、どうもこうも無い。


「筋トレかな。とりあえず」


 レッツトレーニング。

 技術も大事だ。だが、結局、その技術を支えるのは、基礎体力なのだから。

 父親が、俺が中学に入った頃に 置いてくれたトレーニング器具。普段も使ってはいたが、最近はより丁寧に、考えて使っている。

 そして、今日は恐らく、奏にとっては嬉しい日。だから、邪魔しないようにこっちにいよう。

 結愛からの定時連絡にも、特にこれと言って気になる点は無い。

 見事なまでの平和。だからまぁ、とりあえず。来るかもわからないその時のためにこうして筋肉を虐めるのである。

 

 



 「志保さん」

「なーに?」


 萩野ちゃんが珍しく、自分から私に話しかけてきた。

 私の部屋で、着替える私を萩野ちゃんは、それはもう、じっくりと眺めてくる。

 見られて恥ずかしい所なんて無いけど、かといって、別に、何も思わないわけじゃない。

 なんかこう、とても真剣モードだ。


「志保さんは、史郎さんの元カノ、ですよね?」

「うん」

「告白、どちらからですか?」

「史郎から」


 話題も珍しい。私たちの間では一度たりともなかった、恋バナ、って奴だ。


「急にどうしたの? 萩野ちゃん」

「好奇心です。私も女子高生ですから」

「なるほど」


 それなら仕方がない。なんて思うわけがない。


「ねぇ、もしかしてだけどさ」

「は、はい?」

「史郎のこと好きになった。もしくは、史郎にもうアタックしちゃった?」

「あ、あう」


 動揺している。

 目が泳いでる。

 萩野ちゃんが、いや、結愛ちゃんがここまで感情を顕わにしているのを見るの、初めてだ。


「可愛い……」

「へ?」


 次の瞬間。結愛ちゃんは私の腕の中に。


「なんでも聞いて良いよ。ただし、今夜は私と一緒の部屋。同じベッドね」

「え?」

「フフフ。結愛ちゃん」

「志保さん、名前で呼んでいましたっけ?」

「機会が無かったからねぇ。さて、私はそろそろ行くけど。どうする?」


 ドレスに着替え終えた私。これからパーティーだ。

 お父さんの取引先と聞いている。


「では私は、これから本部の方に、ちょっと事務仕事です」

「ふーん。いってらっしゃい」


 パーティーはそこまで好きじゃない。いてくれたらありがたいけど、でもまぁ、仕方ないか。


 


 

 「今答えなくても良いです。史郎先輩、奏さんにも告白されているようですし、志保さんのこともありますし。ちゃんと先輩の中で決着をつけた上で、答えて欲しいです」


 結愛はそう言っていた。

 正直、すぐに答えを求められなくて助かった。

 答えを求められていたら、俺は、頷いてしまっていたかもしれない。OKしてしまっていたかもしれない。

 でもそれは、奏を振ることと同義で。きっと、頷いた直後に、俺は気づいてしまう。

 俺に、誰かを振るなんて、とてもじゃないけど、できない。

 振られる痛みは、知っているんだ。


 告白する時、これまでの二人の時間の全てを賭けなきゃいけない。そんな仕組み。誰が定めたわけでも無い仕組み。オールオアナッシング。

 振られたら終了。別れたら終了。全没収。

 でも、そんな風にできるほど、俺が志保と、奏と。結愛と過ごした時間は安くない。

 中学時代の愚かな俺は、それに気づいていなかった。いや、一度失ってから、気づいた。

 だから、簡単に、答えを、出したくない。

 じゃあ。

 それなら。

 それならば、志保にとって、俺との時間は、なんだったのだろう。

 志保は、何で別れを、選べたのだろう。

 選んだ理由じゃない。選べた理由。

 俺にできないこと、志保にはできたこと。

 痛みを知らないから?  

 志保にとっては、取るに足らない時間だから?

 捨てても惜しくない幸せだった?

 いや。楽しかったと、聞いたじゃないか。

 だからこそ気になる。志保は、何で別れを選べたんだ。

 



 「史郎君? 来ないの? 焼き肉だって」

「折角の家族水入らずだろ。異物はこっちにいるよ。俺のことは気にするな」

「そんな言い方しないでよ……」


 夜。俺の部屋。

 起こしに来なかった時点で、何となく予想はついていた。奏の両親が帰ってきたという。なら俺が久遠家にいるわけにはいかないだろ。折角の貴重な休みだ。

 その貴重な休みを家族サービスに使う。良いことじゃないか。家族の仲がいいというのは。


「俺のことは気にするな。ほら、待たせてんだろ。行って来いよ」

「……もう」


 奏が家を出てすぐ、車が出る音がした。

 さて、どうしたものか。

 いや、どうしたものかなんて言っても。とりあえずいつも通り、適当に過ごすだけなのだが。

 その適当をどう過ごすか、それを適当に考えることが意外と難しい。


「あ?」


 鍵が開き、扉が開く音。奏では無いな。となると。


「結愛か?」

「はい。史郎先輩の後輩の結愛です」 


 玄関から当たり前のように結愛が入って来た。


「奏さんはいないようですね。やはり出かけられましたか。久々の家族の時間、と言ったところですかね」

「そんなところだ」

「では、早速。夕飯にしましょうか」

「おいこら。志保はどうした」


 この前、また何かあったら護衛から外される、なんて話をされたところなのに。

 キッチンで買い物袋から材料を取り出し、エプロンを付け始める。


「志保さんは今日、本宅の方でパーティーがありますから。組織の人を招いた」

「お前は参加しなくて良いのか?」

「私は良いです。志保さんからも許可を頂きました」

「そうか……」


 腑に落ちないこともあるが、組織の人が呼ばれているなら、万が一ということも無いだろう。

 あの組織に、弱い奴はいない。

 弱い奴も、強くする。でなければ、向いてるところに行く。そんな組織だ。

 だから、みんな強い。自分の仕事を割り切ってるか、誇りを持っているか。少なくとも、嫌々やっている奴なんて、いない。

 昔の俺も、少なからずそうだったと思う。

 結愛は、仕事と割り切っているパターンだ。その点において、結愛は俺よりも大人だと思う。

 慣れた手つきで、結愛は下ごしらえを進めていく。

 それは、まるで普段からやっているようで。


「お前、志保の家で何してるんだ?」

「そうですねぇ、渋谷さんという執事の方がいるのですが、その方に色々教わることがありまして。いやはや、学ぶとは素晴らしいですね」

「要するに結構暇なんだな」

「はい」


 まぁ、平和なのは良いことだが。


「それで、要件は?」

「今日はですねぇ、先輩の彼女候補として来ました」

「は?」

「彼女候補です」

「なんだそれは?」

「告白したからそうなんじゃないですか?」


 恋とかよくわからない……いや、でもなぁ。

 お互い好きなら、それだけで十分に一緒にいる理由になり得る。ただ、好きという気持ちに恋という名前が付いているだけだ。

 それが恋かどうかは、大して重要では無いのかもしれない。


「いや、違わないのか……」


 でも、俺が恋に夢や幻想を抱き過ぎている可能性がある。

 難しいな。中学生の頃の俺は、よくもまぁ大して考えずにいられたものだ。知らないって、幸せだ。

 でも、無知は罪だ。

 無知は人を傷つける。無知は選択を誤らせる。

 もう、間違えたくはない。


「さぁ、夕飯ですよ」

「あぁ。サンキュー」


 前より格段に美味くなった夕飯。結愛と一緒に食べるのは、楽しかった。

 あぁ、そうだな。結愛と一緒にいるのも、確かに楽しいだろうな。恋人という関係になるのも、楽しいだろうな。


「せんぱーい。どうですかー? 美味しいですかー?」

「あぁ。美味いよ」

「えへへっ。やった。奏さんのご飯を普段から食べている先輩の舌を唸らせる。目標一つ達成です」

「感想に嘘は無いよ」

「先輩は基本的に感想で嘘はつかないじゃないですか。とは言っても、先輩の好みを完璧に把握している奏さん。超えるべきハードルは高いものです」

「んな、そこまで頑張らんでも」


 本当、俺なんかで良いのか、なんて思うんだ。

 俺に費やす時間、それをもっと、別なことに費やせるはずじゃないか。

 俺と一緒にいることで、得られない幸せがあるのではないか。それを得た方が幸せでは無いか。なんて。

 それから、結愛が帰ってしばらく、隣の家に車が停まる音がした。

 家族か……。恋人の先、見えてくる一つの選択肢。

 俺は、家族愛というものを、抱けるのか、

 いや、今考えることじゃないな。

 目を閉じて、静かな夜を過ごした。

 静かすぎて、さっきまでの賑やかさが、頭の中で際立って、家がいつもより広く感じて。

 これは、どういう感情なのか、少しだけ悩んだ。


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