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失恋した俺の高校生活は、守りたい人が少し多い。  作者: 神無桂花
私が幸せにします。

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夏の逃避行。

 「夏はどこでも暑いんだな」

「ですね」


 少しの期待を込めてやって来た北の街は、蒸し暑かった。

 帰省客に紛れて駅を出る。夏はどこも明るくて暑くて、うんざりするのかもしれない。

 奮発して北海道まで飛べばよかっただろうか。

 いや、今考えるべきはそれでは無いな。

 既に俺達がここにいると、もうあちら側が知っていると考えて良いだろう。

 どうしたものかね……今ここで仕掛けてくることは無いと思うが。

 ちらりと相棒に目を向ける。

結愛の眼は冷めていた。いや、冷めているというより、何も無かった。何もかもがどうでも良い。そう考えているように見えた。


「どうした?」

「駅前の風景は、どこも大差無いですね」

「そういうもんかね。俺にはわからんけど」


 何となく上を見る。うんざりするくらい高くて青い空が広がっている。

 ここ、田舎だと聞いていたのだが、全然だな。普通にコンビニもあるし、ハンバーガーショップもある。コーヒーショップのチェーン店もある。

 もう田舎とは、わざわざ探しに行かなければ、見つからないのかもしれない。

 現実逃避はこのくらいにしておこう。


「とりあえず飯食うか」

「はい」


 一本に束ねた髪を揺らし、無造作に近づいてくる。何かと思ったら、そのままギュッと手を握って来た。


「良い、ですか?」

「あぁ、良いよ」


 不安なのだろう。不安になると、少しだけ甘え癖が出るの、変わっていないんだな。

 一応、室長にメールを送り、電話もかけてみたが応答が無い。

 二人で手を繋いで歩いていたら、初々しいカップルに見えるらしい。微笑ましそうにすれ違う人が見てきた。

 ただ、結愛の精神状態からして、こちらに視線を向けてくる。それだけで警戒対象。

 ちらりと見ると、結愛は、今にも倒れそうだった。


「結愛。落ち着け。大丈夫だから」

「すいません」


 今まで、結愛に与えられた明確な役割は、この組織での立場。

 これまでの人生のほとんどを捧げてきたはずだ。

 その中で、いきなりの敵扱いだ。大丈夫なはずがない。俺の言葉すら、ちゃんと届いているのかさえわからない。

 上辺だけの言葉でしか取り繕えない。いや、取り繕えていないだろう。状況は、明らかに絶望的なのだから。

 でも、俺が、大丈夫にしなければならない。

 少しだけ強めに結愛の手を握った。

 駅前のドーナツショップに入る。


「何が食べたい?」

「コーヒー、だけで良いです」

「苦手だろ、お前」

「……オレンジジュースでお願いします」

「はいよ。席取っててくれ」


 俺も、正直あまり食欲が無い。けれど、食っておかないと。食いたくなくても、口に入れて飲み込めば、エネルギーになってくれる。 

 いざという時動けない展開だけは、全力で避けなければならない。

 アイスコーヒーでドーナツを押し込む。


「食うか?」

「……いただきます」


 糖分を脳に注入して、カフェインで頭が冴えれば、少しはマシな考えが浮かぶかもしれない。……浮かびますように。




 親戚なんて会ったことが無い。祖父も祖母も、叔父も叔母もどこにいるかなんて知らない。

 だから、一時的に身を寄せられる知り合いなんて、いない。

 あんな、犯罪スレスレの怪しい仕事をしている人達なんて、親戚ならなおさら、関わりたくないだろう。

 田舎に帰るなんて体験、一度もしたことが無い。お年玉なんて寂しいものだった。

 組織からの給料のおかげで、他の同年代よりお金は持っていたと思うが。そもそも使わないから溜まりっぱなし。

 今使っているのは、まさにその使っていなかった金なわけで。


「結愛は、自分のおじいちゃんとかおばあちゃんの家は?」

「知りません。どこにあるかも。会ったことすらありません」

「だよなぁ」


 自分のことを知っている人が一切いない街で、俺達は途方に暮れる。

 いや、この状況で真っ先に頼るべきではない存在ではあるが、本格的に困った時の選択肢に欲しかっただけ。

 これなら、家で大人しく構えていた方が良かったのでは、なんて。

 いや、俺が迷ってどうする。結愛にこれ以上、余計な不安は与えられない。

 逃げようと提案した俺が、これからのことを考えるべきだ。

 とりあえず、なるべく一か所に留まらないようにしよう。


「そろそろ宿、決めるか」

「はい」


 ぼんやりと川を眺めていた結愛が、立ち上がる。

 手を差しだした。小さな手が、ギュッとしがみつく。


「行くぞ。明日にはまた移動するからな、パーっと少しお高めのところ行くか」

「普通、逆だと思います。発想」

「ははっ。違いない」


 無理矢理笑う。

 仮初の余裕を見せる。張りぼての自信。どうにかなると、結愛に信じさせて。あとは本当にどうにかしてしまえば、仮初も、張りぼても、結果的には本物になるんだ。


「明日、ですか」

「どうかしたか?」

「いえ、明日ですよね。丁度。あの事件の日」

「あぁ、そういえば、そうだな」

「それだけです。とりあえず駅前ですかね。ホテルは」

「そうだな」


 だが、世の中は甘くなかった。

 周辺のホテルを調べてみるが、なんだよ、保護者の同意書って。未成年に自由は無いのか。

 



 風呂は銭湯で済ませた。

 夏という季節。虫は大敵だ。野宿は選びたくない。

 だから夜行バスを当日予約して、移動することにした。この時期に当日予約できたのは運が良かったと思う。

 食料を買い込んで、一緒に買った総菜とおにぎりを口に押し込んで。

 どこで時間を潰そう。今もどこで見ているかわからない。予算も無限にあるわけでは無い。

 口座を差し止められていないことに、正直驚いている。

 定期的に結愛が室長のパソコンに侵入して変化が無いか探っているが、芳しくない。そもそも、結愛が今も侵入できているというのも、おかしい。

 駅前の公園、部活終わりの人や、仕事終わりの人が歩いて行き、それが済めば人が少なくなってくる。日も沈んでいく。


 夜の十時出発。あと三時間くらいか。

 次第に今度は、夜のウォーキングをしているご老人と、夏休みの夜にテンションが上がっている若者の集団。あとはカップル。が現れる。

 それでも、暗いことには変わりはない。

 夜の闇が普段よりも恐ろしい。

 緊張しているのかもしれない。確かに、こんな状況、経験が無い。

 俺も、結愛も、いつも追う立場だった。命令されるがまま、淡々と追い詰めていく立場だった。追われる立場とは、こんなにも苦しいものなのか。


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