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失恋した俺の高校生活は、守りたい人が少し多い。  作者: 神無桂花
私が幸せにします。

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夏の夜の出来事。

 「楽しかった」

「それは良かったです」 


 車に揺られる。

 萩野ちゃんは、どこかスッキリした顔をしていた。

 最近、どこか思い悩んでいるように見えたから。

 私より一つ下で、危険な仕事に就いていて、私なんかではその悩みを推し量ることはできないけど。


「……はぁ」


 どうしてか、ため息が漏れた。

 対等に、なりたい、か。

 こんなので、どうやって、私にそんなことが望めるか。


「はぁ」 


 窓の外に流れる景色、カラフルだが、それでも、どこか遠いものに見えた。

 

 



 プールから帰って、奏の家から寝るために帰って来た俺の部屋のベッド、結愛は我が物顔でくつろいでいた。


「先輩。志保さん、ずっとため息吐いているのですよ」

「ため息何て誰だって吐くだろ」


 わりと楽しく遊んだはずなのだが、と考えると、確かに気になりはするが。


「あ、安心してください。シャワーは浴びてあるので。どうです先輩? 味見でも?」

「奏の家で夕飯は済ませた」

「そういうことじゃないのですが……」

「冗談でも、そういう煽り方はやめとけ」

「意味わかっているじゃないですか!」


 ったく。俺が本気にして何かしでかしたら、どうするつもりなのか。


「んで。志保の話だ」

「はーい」


 身体を起こして、姿勢を正して。

 どうやら真剣モードでの話になるらしい。


「聞きたいのですが。先輩は、奏さんのこと、好きなのですか?」

「……スゥ」

「寝ないでください! 誤魔化しましたね。好きなんですね!」

「お前、本当にその話好きだな。答えは、わからない。だ」

「そんな、この感情、恋なのかな……とか言っても、可愛くないですよ!」


 頬を膨らませお怒りモードの結愛。

 けれど、実際そうなのだから。どうしようもない。


「頭の中、ごちゃごちゃのぐちゃぐちゃなんだよ」

「……聞きますから、話してみてください」


 なんだろう。

 その言葉を聞いて、少しずつ、整理されていく気がした。

 奏にも、志保にも相談できないこと。そうだ、結愛には、できることかもしれない。

 結愛なら、きっと、合理的な意見をくれる気がする。

 いつもそうだった。俺が判断に迷った時、結愛が一つの道筋を示してくれる。


 息を一つ吐いた。一旦、俺が悩んでいることに、他の人の意見を貰って、俯瞰して見れるようにしたかった。そのために頼る人として、結愛以上の人はいない。

 後輩を利用するのか? なんて声が聞こえた。無視した。

 このままみっともなくずるずる引きずるくらいなら、軽蔑される覚悟をしてでも、結愛に打ち明けたいと思った。


「俺さ、怖い、っていうのかな」

「はい」

「振られた感触が、まだ残っててさ」


 ただ、別れただけ。移り気で多感な中学生らしく、ちょっとした思い出程度。傍から見ればよくあること。


「割り切れてないというのかな。奏は見抜いていた。その通りだよ。俺の中にはまだ志保が残っているんだよ」


 簡単に諦められたら恋じゃない。でも、みっともなくて、諦めが悪くて。


「あの時、別れを切り出された時、何も言えなかった。ただ、受け入れてしまった」


 表向きは潔く身を引いたようで。奏に甘えてどうにか今の形に持って来れて。でも、まだ納得できていない。

 だというのに、振られる感触を怖がって、立ち止まっている。

 恋なんかもう無理だと、諦めている……というポーズを取っている。

 それなのに、奏に惹かれている。

 口に出してしまえばそれだけ。情けない。

 結愛は、そんな俺に、どんな意見を、結愛なりの答えをくれるのだろう。

 厳しい言葉を予感して、数秒。


「先輩、幸せになれる選択をしてください」


 一言そう言った。俺のたどたどしい、みっともない自白に。結愛は、厳しくて難しくて、けれど優しい言葉をくれた。


「先輩のことをとても大切にしてくれる人。先輩は選ぶことのできる人です。だから、きっと、幸せになれます」


 幸せ、か。 

 志保と一緒にいた時間は、確かに楽しかった。幸せだった。

 奏と付き合えば、きっと楽しいし、幸せだろうな、なんてぼんやりと考えてはいた。


「ありがとう」

「どういたしまして」

「……志保がため息か」

「話戻しますか?」

「うん」

「わかりました。どうして先輩に奏さんが好きかと聞いたのかと言いますと。一応、先輩が誰に気持ちが傾いているのか、確認しておきたかったのです」

「あぁ」


 俺の気持ちは、結局宙ぶらりんの中途半端。情けない話だ。


「志保さんの様子がおかしい。そこで、私としては、また四人でお出かけをしたいと考えています」

「なぜ?」

「本当は奏さんを除いた三人で行きたいところですが、後が怖いので」

「そっちじゃない」


 舌を出しても誤魔化されないぞ。


「なぜ出かけるのか聞いている」

「えーっ、友人同士出かけるのに、何か不自然なことありますかー。先輩のようなお出かけ嫌いばかりじゃないのですよ、世の中」


 俺達がいるというだけで、くそ暑い中プールまで来るような朝倉志保がいるしな。


「その理屈は間違ってはいないが、それを理由とするには弱いな」

「むっ……」

「んで? 何が狙いだ」

「えーっと、その……」


 歯切れが悪い。

 結愛の場合、何かしらの狙いがあって動くものだ。

 プールに来た時だってそうだろう。刺激が足りないとか、俺に会いたいとか、結愛がそんな適当な理由で動くはずがない。


「実は……」


 躊躇いがちに、重々しく結愛は口を開く。


「実は……」


 ごくりと、喉が鳴った。


「志保さんが『遊ばないと宿題したくなーい』とか言っていましてごめんなさい! 夏休み中の勉強の手伝いも、社長さんからお願いされていまして、どうにかしないといけないのです!」

「あぁ、そういうこと」

「そういうわけなので。よろしくお願いします」


 そう言って、結愛は窓からぴょんと飛び降りた。見送ろうと思って外を見る。


「ったく……結愛!」


 俺も続いて飛び降りる。 

 結愛が襲撃された。




 塀に背中を預け、座り込む結愛を背に立つ。

 襲撃者は俺よりも背は低い。街灯を避けて立ち、黒のキャップ帽を被り、サングラスまで付け、顔が見えない。 

 靴とアスファルトが擦れる音が聞こえた次の瞬間、腕に鋭い衝撃。反射的に前に構えた腕が、相手の右拳を防いでいた。

 こいつ、俺よりも強い。マズいな……。

 速さ、威力、読みの鋭さ、どれを取っても敵わない。

 時間にして三十秒の戦闘で、それを悟った。

 次の三十秒、俺は立っていられるだろうか。

 目を、耳を、勘を全力で働かせ、どうにか拮抗しているように見せかけているが。

 一瞬でも集中力を切らしたら、終わりだ。

 夜とはいえ、ここは公共の道路。

 必死に引き延ばせば、誰かしらが見つけてくれて、撤退してくれる可能性がある。

 一旦の勝ち筋は、そこか。

 くそっ、武器は全部部屋だ。失敗したなぁ。


「史郎君!」


 守りに徹しようとしたところに聞こえた声は聞き慣れたもので、ここでは聞こえてはいけな

いもの。

 ちらりと、そいつは奏に顔を向けた。


「やらせるか」


 伸ばした手は躱される。蹴り上げた足は腕で防がれる。だが、攻撃の手を少し止めさせたのは確か。

 そして、俺は一人ではない。

 黒ずくめの後ろから、立ち上がった結愛が、スタンガンを手に突っ込んでくる。


「チッ」


 帽子の陰から漏れる舌打ち。

 結愛を躱せば塀が背になり、逃げ場を捨てることになる。かと言って防ぐために立ち止まれば、今度は俺の攻撃を躱せない。結愛の一手により、俺にこいつを仕留める勝ち筋が生まれた。

 閃光が、俺達を襲った。

 視界が白く染まる。咄嗟に腕で目を庇った。

 視界が回復した頃には、襲撃者の姿は無く、いつも通りの家の前の道。撤退したのか。

しかし、あの動き、そして、閃光で一瞬だけ見えた顔。


「……班目さん、だな」

「えっ、先輩、あの人、班目さん、ですか?」

「あぁ」


 そして、あの閃光を絶妙なタイミングで投げ込んだのは。


「班目さんのバディ。柿本さん、ですか。なぜ、あの二人が」

「わからん。室長に確認しないと」

「はい」


 結愛がスマホを取り出す。

 さて。


「奏、大丈夫か?」

「う。うん。びっくりしたけど」

「どうして出てきた?」

「萩野さんから連絡が来て。それで」


 なるほどな。

 ちらっと結愛を見ると、真っ青だった。


「い、いや。結愛、怒ってはいないから。今回はそうしないと負けてたから」


 奏を危険に晒したのはそうだが、それでも、必要なリスクなのはわかるし、結愛ならそういう手段を取ることがあるのも理解しているつもりだ。


「私……指名手配、されてます」

「は?」

「今、父さんのパソコン侵入したのですが、私、なんで……」

「……結愛! おい!」



 

 「悪いな、奏」

『ううん。正直、行って欲しくないけど。でも、引き留めたら、私、酷い人みたいだから』

「あぁ。悪い」


 昨日、ショックからか気を失った結愛が、目覚めてすぐに、一旦姿を隠すことを提案した。結愛はそれを受け入れた。

 班目さんを攻撃した以上、俺も手配対象に入っていてもおかしくは無い。

 奏も連れて行くか迷ったが、恐らく大丈夫だと判断した。

監視はされるだろうが、こちらから接触しない限り、組織も手を出さないだろう。秘匿組織だ、無闇に一般人に手を出すような真似はしたくないはず。

 それなら、連れて行く方が、リスクが大きい。

 通話を切って、結愛に向き直る。


「本当に、一緒に行くのですか?」

「当たり前だ」


 そろそろ始発が出る時間帯。結愛が早めに目覚めてくれて助かった。

 敢えて公共交通機関を使う。

 警察まで動いているなら、家にもう来ているはず。

 夜中に仕掛けてこなかったのは、あの閃光で、騒ぎになっているのを警戒したから。それなら、多くの人が使う公共交通機関を使えば、あちらが取る手を絞れる。


 とりあえず。逃げるチャンスは今しかない。

 恐らく、組織内でも一部しか知らない、極秘の手配。マル秘と呼んでいる形式。あるとは聞いたことがあるが、任務に就いた経験は無い。


 特務分室の中でも、ベテラン中のベテランのみに下される任務。何か問題を起こした者に対して、組織へ強制連行するもの。場合によっては、その場で消されるとも聞く。

 総監と各部署の室長とで構成された、『ブレイン』と受けたペア、そして担当する回収部隊にしか知らされない任務だから、全貌はわからない。


 こちらから本部に出向くことも考えた。だが、この場合逆効果だろう。

 結愛が何か問題を起こしたとは考えにくい。何かの陰謀、間違いの可能性が高い。間違いならそれで良いが。

 もし陰謀なら、こちらから出向いた場合、首謀者の思うつぼになる。ならば、逃げる。悪手かもしれない。だが、取れる手も少ない。


「行くぞ」

「は、はい」


 結愛の手を引いて家を出る。  


「大丈夫だ。どうにかする」

「……はい」


 さて、どこに行こうか。

 とりあえず北に行こう。暑いから。


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