作戦開始。
夕食はバーベキューだ。ここが一つのポイントになってくる。
祭りで偶然会うシチュエーションも考えたが、それよりは、ここで一緒に行く流れに持っていき、回る方が確実だ。
偶然会った奴と一緒に回るまでならまだしも、そこから二人きりになって告白なんて無理がある。
だったら、ある程度匂わせて、その気があることを察知させた方が、心の準備をさせて、話しを聞いてもらえる確率が高い。……気がする。
霧島は、奈良崎の気持ちをある程度は察知しているだろう。惚れ薬の情報が無い状態で、それに近い薬だと看破して見せた。誰が盛ったのかも。
改めて考えても、色々無理がある作戦だが、やるしかない。そして、霧島の性格上、俺達の作戦をわかっていても、乗って来る。気がする。
作戦だとわかった上で乗ってきて、楽しんで、危なそうだったら崩しに動く。そういうタイプだ。と思う。
「自信があるのか無いのか、はっきりしてください。先輩」
「人の気持ちの機微だからな。セッティングが出来ても、詰めは本人次第だからな」
「私たちには不向きな作戦ですよね。改めて考えても」
夕焼けに照らされたホテルの外の空き地。
とりあえず席に着くと、既に火が起こされている。赤々と燃える炭。見たらわかる美味しそうな肉。きちんと野菜も添えられている。
「史郎君」
顔を上げると、奈良崎を連れた奏が向かい側に座る。
よし、後は霧島。
ゆったりと文庫本を片手で開きながら歩く霧島を見つける。
「おい」
「あぁ。ではここに座らせていただこう」
ぱたんと本を閉じ、ちらりと座っているメンツを見渡す。
「……ほう」
ため息を一つ漏らし。芝居がかった仕草で腕を組み、足を組む。
「では、食そうか。僕が焼いても良いかな? それとも久遠さんかな?」
「奏だな」
「そうか」
「むしろ、奏にやらせたほうが良い」
「史郎君、私が奉行みたいなことを言わないでよ」
「違うのか?」
「僕も焼き方にはうるさい方だが、九重君がそう言うなら、頼もうか」
「霧島君、さりげなくプレッシャーかけないでよ……」
そう言いながら奏がトングを手に取る。
ここまで、奈良崎は一言も発さない。努めて霧島を見ないようにしている気がする。
肉の焼ける音、食欲をそそる匂いが遠くなる。
考えろ。ここで上手く立ち回れなければ、詰むぞ。
こうなれば、奈良崎が自分で動くことなど、期待できない。
俺から仕掛けるか……。
自分の皿に、焼けた肉が置かれる。顔を上げる。
奏が真っ直ぐに俺を見ている。ゆっくりと、首を横に振った。『まだ待て』そう言っている気がした。
だが、待ってどうする。
隣に机の結愛がイライラとこちらをちらちらと見ているし、志保なんか睨んできてる。
居心地の悪さが加速して行くぞ。
でも。奈良崎は信じていないが、俺は奏を信じている。
奏が待てと言うなら、待とう。
「あの、さ」
折角の肉だが、緊張で味が感じられない時間がしばらく。
不意に聞こえた声に少しだけ安堵。ようやく、奈良崎が動いた。
「二人は、お祭り、行くの?」
「あぁ。九重君に誘われてな」
霧島が答える。これはありがたい。わざわざ話を振る手間が省ける。
「そうなんだ。私たちも行く予定でね」
「ほう」
よし。『そうなんだ』で終わらせなかったのはポイントが高いぞ。
緊張を、烏龍茶を飲むことで落ち着け。肉を口に放り込むことで誤魔化す。
「どうせなら、一緒に行かない?」
言った。決意が決まれば速攻か。思わず唇が吊り上がるのがわかる。そういうのは、結構好きだ。
「ふむ……まあ、良いか。では、同行させていただこう」
あっさりと第一段階はクリア。
拍子抜けだ。霧島の狙いが読めない。いや、狙いなんて無いだろう。
考えられるとすれば、奈良崎があの時、何かしらの薬物を仕込んだことに気づいていることを、表向きでは隠しておきたい、といったところか。
何かのきっかけで、奈良崎が自棄になる可能性を、霧島も危惧しているとも考えられる。だからここは従う選択をした、とも言える。
駄目だな。見逃すと決めたのは俺なのに、裏を疑ってしまう。
ちらっと結愛を見ると、眼鏡をクイっと上げながら親指を立てている。
最初にして、一番の難関をクリアできて上機嫌である。
志保は、気にしてない素振りだが、こちらにちらちらと視線が向いている。
今更取り繕われてもな。さっきまで睨んでいたというのに。
「それじゃあ、飯終わったら荷物持って集合だな」
「うん。入り口で良いよね」
話がまとまったら一気に俺と奏で段取りを決めてしまう。
どこかで躊躇されてやっぱり無しになったら困るからな。
人混みが忌々しい……。
この町の住民を一か所に集めたのではと思わせる。
吐きたくなる。こんなの。
屋台が立ち並び、甚平や浴衣を着こんだ人たちが各々楽しんでいる。
「やらかしました」
コンビニの前、俺と同じく、隣で途方に暮れている後輩。
「一応、班目さんが、志保さんを見つけてくれました。奏さんと合流したみたいです。霧島さんの方は、奈良崎さんと一緒にいるみたいです。柿本さんが見つけてくれました」
「なるほどなぁ」
この人混みを利用して、はぐれたことにして、二人きりにする作戦だった。
結愛の方は、志保が下手に動かないよう、ホテルにちゃんと志保がいるか監視させていたのだが。トイレに行っている間に抜け出されたとのことで。
「一応、メッセージは送ったが、返信来ないな。どう合流したものかね」
ややこしい事になってしまった。志保は最優先で保護すべきだし。でも、霧島たちの様子も確認しなければいけない。
……仕方がない。
「……結愛は祭り来たことは?」
「ありませんけど」
「そっか」
歩きだす。
「それじゃあ、ゆっくり回りながら探すか」
「良いのですか?」
「焦っても仕方ない」
思い出す。
志保との夏祭りの思い出を。
この祭り程じゃないけど、それなりに人はいた。そんな中でもニコニコと、手を引いてくれた。あの時は苦じゃなかった。楽しかった。
「ほら、手」
「え?」
「はぐれたら困るだろ」
同じ失敗はしない。
「は、はい」
控えめに手が握られる。しっかりと握り直して、歩き出して。
いまいち深刻になりきれないのは、暑さのせいだ。そうに違いない。




