失敗できない対談。
というわけで。
「何の用ですか?」
警戒されるのは避けられないので、とりあえず、クラス委員である俺と奏で呼び出す。
「いやさ」
いきなりあなたの恋を手伝います。というのは流石に怪しまれる。警戒されて、さらにコンタクトを取るのが難しくなるのは目に見えている。
このファーストコンタクトは絶対に失敗できない。
「この間のことで、何か不都合無いかなって?」
「別に無いですよ。わざわざそんなこと気にしなきゃいけないって、大変ですね、クラス委員」
奈良崎は最初からまともに取り合う気は無い様子。
志保との会話のせいだろう。警戒心が増している。
普段から志保とよく話す俺達だから、そうなるのも当然か。
……これは強気で一歩踏み込んだ方が良いかもしれない。
「霧島のこと好きなのか?」
「うん。悪い?」
思いのほかあっさりと帰って来た返答。
だが、ここで戸惑っては駄目だ。
相手にペースを握らせてはいけない。情報を引き出すのだ。そして、有効な説得を考え出す。
「あいつの良いところって何だろうなって。わりと話すことあるから、逆に疑問でな」
「確かに……霧島君、九重君に結構話しかけるよね。彼、自分からあまり話しかけに行くことしないから。正直嫉妬してる」
「あぁ。んで?」
睨んでくる視線を受け流す。少し、めんどくさくなってきた。
「霧島君、カッコいいじゃん」
「は?」
「えっ?」
「史郎君」
奏から脇腹を抓られる。
「いや、すまん」
俺達の間にあった出来事は一旦置いておかなければな。落ち着け。……よし、落ち着いた。
「それなら、なぁ、お前はどうしたい?」
「どうしたいって?」
「付き合いたいか?」
「……それ、答える必要、ある?」
「もう答えているようなものだろ。そうだな……告白の場のセッティングくらいはできるぞ」
「いらない、もう、終わった恋。もう負けた。私は」
まぁ、霧島に気づかれたことくらいわかるよな。自分が何か仕込んだって。
そんな奴に好意を向けられることを想像して、その答えがどんなものになるか。
考えるまでもない。
でも。だからって、ここで引くわけにはいかない。
「そこをどうにかするために、俺達が出てくるんだよ」
「どういう意味?」
訝し気な表情をする奈良崎。
眼鏡の奥の眼は、眠たげに細められ、早く帰りたいとばかりに、うんざりとした表情だ。
でも、それでも、僅かでも興味を引けた。でなければもう帰っている筈。
さて、ここからが本番だ。
俺達の有用性を認めさせる。
「奈良崎さんが彼にちょっとマイナスな印象を与えたのは、恐らく確かでしょ。でも、私たちが間に立つことで、とりあえず話は聞いてもらえるじゃん」
「……それ、二人にはどんな得があるの?」
「点数稼ぎ。お前が今回の件でクラスから、揉め事を起こした一人だと認識されるのは確かだろ。佐藤さんもだ。あっちにもフォロー入れて、二人が無事、クラスで気まずい立場にならなければ。ついでに、お前と佐藤さんの間も取り持てれば」
「それに尽力した私たちが、クラス委員としての評価が上がる。内申点ゲット、というわけ」
こういう時、狙いが汚い方が効果的だ。
高尚な理由なんて、余計なお世話にしかならない。
「そう……」
奈良崎の迷う素振り。
そうだ。ここでクラスでの立場を守り、しっかり仲直りするのが必要なのは、彼女も重々承知の筈。
ここは一応進学校。大学に行くことを重視する高校。
故に、生徒もリスクを負うことを嫌う。バレたら面倒だから、いじめも起きにくい。
だが同時に、トラブルの因子に近づくのを嫌う。だから、一度ミスれば、取り返すのは難しい。村八分まっしぐらだ。
だからこそ、差し伸べられる手は、貴重なのだ。
恐らく、手を取ってくれるはず。
だから、後は、奈良崎に告白する気を。正面からぶつかる勇気を、持ってもらわなければならない。
成功率は低い方だ。僅かにあるかもしれない程度。
でも、そのわずかな可能性に賭ける気にさせなければならない。どうする……。下手を打てば、折角取ってもらった手を、振りほどかれてしまう。
もう一手必要か。でも、どんな手だ。どうしたら良い。
「……私さ、告白したんだよね。ある人に」
奏はぽつりと、そう言った。
奈良崎の眼が、確かに奏に向いた。
「その人に告白するまで、私、どれくらいかかったかな、もう数えてないや」
「そんなに……」
「そう。勇気が出なくてさ。そうやって、迷っている間に、別の人に取られちゃったり、折角近くまで戻ってきてくれたと思ったら、また遠くに行きそうになったり」
ぽつりぽつりと。奏は、零す。
「だからね、ぶつけたの。このまま伝えないと、後悔する。そう思ったから」
「……結果は?」
「まだもらってない。彼の席には、まだ別の人、座ってるから、今挑戦中なの。彼の一番を私にする」
奏がこんなこと語った狙いはわからない。
そもそも、本人の横で話すか、そんなこと。
けれど、奈良崎は本気で悩み始めている。前向き寄りに。
ちらりと、奏は一瞬だけ俺を見た。悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「私は胸を張って言える。彼のことが好きだって」
なんの躊躇いもなく放たれた言葉に、心が揺らされた。
「ちなみに、その彼って、誰?」
「九重史郎君。今私の隣にいる彼」
ノータイムでの回答。俺が止める間も無く。
「……九重君。罪な人。久遠さんも、鬼畜」
「ありゃりゃ」
「ありゃりゃじゃねぇよ」
顔が熱い。真っ直ぐな好意に晒されるのは、未だに慣れない。
「ずるい。ずるいよ」
少しだけ泣きそうな。何かを振り切ろうとしているような、そんな声。
「そこまで打ち明けられたら、何もできませんなんて、言えない」
俯いて、絞り出すように。
奏が静かに頷いた。
「もしかしたら、上手くいったかもしれない。そんな可能性を残したまま、終わりたくないでしょ?」
「うん」
よし。
あとは。……はぁ。
ここまで揃えても、霧島がどう答えるかわからない。
こっぴどい振り方して、さらにあの薬に頼ろうとする。そんな可能性だって考えられるんだ。
賭け要素が大きすぎる。
けれど、これより穏便なやり方が、浮かばないのだ。だから、成功させるしかない。
「あっちはある意味、こちらに弱い所をさらけ出した状態だったわけじゃん。だから私たちも、さらけ出した方が良いかなって」
「あぁ、まぁ」
対等になる。って奴か。なるほど。
やっぱり、奏は凄い。




