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失恋した俺の高校生活は、守りたい人が少し多い。  作者: 神無桂花
私が幸せにします。

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37/223

勉強合宿の始まり。  

 出席番号順のバスの席。俺の隣は奏だから、まだ気が楽だ。


「史郎君。ほら、見えて来たよ。あれじゃない? 今日から泊まるホテル」

「あぁ……そういえば、花音ちゃんたちは大丈夫なのか?」

「うん。三食それぞれ三日分作って、レンジで温めれば食べられる状態にしてあるよ。夏だから、鍋に入れて放置とかできないのが辛いところだね。冷蔵庫ギリギリだったよ」

「頑張るな……」

「うん。あの二人なら自分でどうにかできそうだけど。それでもね。一応」


 親を頼れば良いのに。と思うけど言わない。

 多分、奏のお母さん辺りが、三日くらいならと帰って来ようとした筈だ。そういう人だ。

 でも、奏は多分、自分でどうにかすることを選んだのだろう。

 その是非を、俺が判断することはできない。

 ただ、折角頼っても大丈夫な親がいるのだから、なんて思ってしまうんだ。


「倒れるなよ」

「大丈夫。無理もしてないし。むしろ今の私、ここ数年で一番調子良いもん」

「そうなのか?」

「うん」


 心当たりはある。が、思い上がるなという声も聞こえる。


「……なぁ、奏」

「なぁに?」

「上手く言えないけど、その。俺のこと、その、えーっと、あれなら、もっと頼っても良いと思うんだ」

「んー。結構頼ってるつもりなんだけどなぁ。というか、バスの中で言うかなぁ、濁しているけどさ」


 そう言って苦笑いを浮かべる。

 確かに。自分がやった行動とは思えないくらい、思慮に欠けた発言だったと思う。


「悪い」

「何で謝るかな。嬉しかったよ。覚えておくね」

「そうしてくれ」

 



 ホテルの廊下。そこに設置されたふかふかのソファーに身を鎮める。

 目の前の自販機には、ちょっと抜け出してコンビニに行った方が安いと思える値段で、飲み物が売っている。買うけど。

 疲れたな。

 コーラの甘みが脳に染みていく気がする。

 勉強は別に嫌いじゃない。

 むしろ、普通にこうして勉強できていることに、感謝の念すら抱ける。

 ただ、疲れた。勉強以外許されないのが、疲れた。それだけ。

 飯食って勉強して。

 風呂の後の、ようやく許された自由時間。

 こうして、ホテルの設備を堪能するのだ。


「お疲れですね、史郎さん……誰もいませんね。先輩」

「あぁ。疲れたよ」


 お風呂上りの結愛。学校のジャージに着替え、しっとり濡れた髪を解き。少しだけ頬が上気している。

 いや、家に泊めた時見たことあるけど。なんか、新鮮な姿だなって思ってしまう。


「ここで何しているのですか?」

「暇してる」


 楽しみが無いのが辛い。

 地下にゲームコーナーがあるらしいが、そこにはもう、俺の席は無いだろう。金もかかるし。

 一階のマッサージチェアは埋まってたし、風呂は時間外には入れないし。だからこうして廊下のソファーで妥協している。

 でもまぁ、適度にこういう時間に緩めるから、勉強させるのが上手いと思う。

 不満を圧力で抑え込むのではなく、適度にガス抜きさせることで抱かせないか。


「志保は?」

「部屋で休んでいます」

「さいで」


 アイスの自販機で、二本購入。結愛に一本投げ渡す。


「ありがとうございます」


 ペコリと頭を下げ、食べ始める。

 俺が最初から奢る気だとわかっているから、素直に受け取ってくれる。


「しかし、本当に志保さんが狙いではないとわかった以上、どうしたものですかね」

「志保のお父さん、依頼解除しないんだろ。まぁ、実際、脅しが来てたのは本当だし。護衛をする理由としては十分だろ」

「そうなんですけど、最近、娘の友達だからというのが、メインの理由になっている気がするのですよね」

「わりと親馬鹿なのか……?」

「結構な額を請求されていると思いますけどね」

「どうだか」


 むしろ、安めに設定している。という方が、俺の親や、結愛の親のこれまでから考えやすい。

 室長としても、娘が同じ年頃の奴らと仲良くしていることは、嬉しい、はずだ。

 いや、そんな一個人の感傷で、組織一つ動かされても困るのだが。


「私も、今の生活は悪くないと思いますが」


 ちらりと、床に落としていた視線を上げる。


「楽しい、と思っているのですかね。私」

「さぁ。俺にはわからないけど」

「先輩、私、必要ですか?」

「当たり前だろ。お前がいらない場面とか思いつかねぇ」

「そう、ですか……」


 なんだよ。急に。





 トラブルは、その日の自由時間の終わり際に起こった。


「……好きなの!」

「え、えぇ?」


 切実な告白と、素っ頓狂な声が木霊する。

 騒ぎの方に目を向ける。一人の女子が立ち上がって、霧島を見下ろして告白していた。

 何だ、これは。


「えっ。なんで、どういうこと……ちょっと、霧島君が困ってるじゃん」

「好きなの! 答え、聞かせて……」

「へ?」 


 霧島が困り果て、普段の余裕が消え失せる。


「何なのよ! いきなり! ふざけないで!」


 TPOを考えない告白の瞬間は、すぐに女同士の争いに変化する。


「ふ、二人とも、落ち着いて」


 そこは、ホテルから提供された、本来は会議室。今は教室兼自習室。

 真面目に自習していた奏が、クラス委員としてすぐに止めに入る。

 霧島を二人の女子が取り合っている。という認識で良いのだろうか。

 何だ、これ。


「お、落ち着いて」

「邪魔をしないで!」

「うっ」


 告白した方の女子……佐藤が、奏を突き飛ばし、取っ組み合いが始まる。


「はぁ、結愛」

「仕方ありませんね」


 特に打ち合わせもせず、それぞれ一人ずつ取り押さえる。


「ここは自習室だろ。何を暴れてんだ」


 机に押さえつけて、告白していない方、奈良崎にとりあえず聞いてみる。


「あの女が……というか離してよ」

「セクハラとか言うなよ。暴れる奴が悪い。ここは自習用の部屋のはずだろ」

「史郎君、高圧的過ぎ。ねぇ、聞かせて。何があったの?」


 奏が傍らに膝をついて、落ち着いて語りかける。

 男子が女子を取り押さえている状況は、パッと見印象がかなり悪い。その状況を正当化するために来てくれたのだろう。助かる。

 奏の問いかけに答えず、奈良崎は佐藤を忌々し気に睨みつける。


「奈良崎さん。一回落ち着いて」


 この眼鏡をかけた、背が低くて髪の長い子、入学式の日に話しかけてきた人。擬態スタイルの結愛と大分ややこしい、地味で大人しい見た目。

 佐藤は真逆。普段は茶髪をサイドテールにし、スカートは階段で下の段に立てば見えるのでは? というくらいには短くしている印象。

 まぁ、お風呂上がりだから片鱗も無いが。メイクが落ちて、目の色も少し変わっているところから見るに、普段はカラコン入れているのだろう。

 そんな二人がなぜ霧島と一緒に? 結愛からもらった、このクラスの名簿を思い出す。

……あぁ。同じ中学で同じ部活で。そのまま高校でも同じ部活。テニス部に入ったのか。

夏休み。まだ人間関係に変動が起きてもおかしくない時期。

気質に微妙なズレがあっても、同じ中学で同じ部活に所属している奴の近くにいるのは、納得できる行動か。

 まぁとりあえず。これはクラスの中心グループで起きた騒動である。

 ちらりと結愛の方を見る。

 何故か霧島が手を振って来た。

 この状況の元凶……にしては戸惑っていたな。戸惑っていたのが演技なら話は変わってくるが。どちらとも言えるから、判断に迷う。


「あいつが、急に、霧島君のことが好きって」

「あぁ」

「でも、そんなはず、無いから。違う」

「うん?」


 拘束を解いて、一歩下がる。一旦奏に任せて。状況を確認する。

 霧島はクラスの中でも奏に続く優等生にしてテニス部に所属。新人戦でも、団体戦レギュラー入りは確実らしい。クラス内で思いを寄せている人がいてもおかしくは無い。

 だが、あまりにも突発的で、思慮に欠けた行動。こんな状況で告白しても、失敗するのは目に見えている。

 どうにも頭にちらついてしまうのは、まさに最近聞いてしまったワード、

 テーブルの上には、開きっぱなしの参考書とノート。ホテルからの厚意で出されたサンドイッチと、紙コップに注がれた麦茶が置かれている。

 ……いや、まさかな。

 突拍子の無い発想だ。

 だが、結愛も同じことを考えていたらしい。


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