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失恋した俺の高校生活は、守りたい人が少し多い。  作者: 神無桂花
悪い子になるね。

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テスト勉強。

「せーんぱいっ!」


 急ぎ足で駅に向かっていると、腕に絡みついてくる小柄な人影。制服の上からパーカーを羽織り、フードまで被っているが、暑くないのだろうか。

 五月の末。夏にはもう片足突っ込んでいる。

 人と人の間をすり抜け歩いている俺の腕を捕えるのは、流石という感じだが。


「何してるんだ。結愛。志保の護衛は?」

「それに関しては問題ありません。ほら」


 結愛が指さす先は公園の中。クレープを売るキッチンカーに並ぶ二人が見えた。


「志保さんが、奏さんの出す小テストで合格点を取ったので。ちょっとした息抜きが与えられています」

「あぁ。なるほどな」


 上手いことやっているようだ。奏はやはり凄い。


「先輩は、お二人の勉強会に参加されるのですか?」

「そのつもりだ」

「できるのですか?」


 その声は、やけに大きく聞こえた。心臓が跳ねた。

 本気で心配している。なんなら、できないと思われている。。

 でもそうだ。昨日、そう思わせるだけの醜態を晒した。先輩として、情けない。


「……やるさ」

「それでこそ先輩です」

「呼び方」

「ここは学校ではありませんから」

「腕に絡みつくのも勘弁してくれ」

「やってみたかったのですよね、制服デート」

「お前そういうの夢見るタイプだったか? 俺は勉強会に行くんだ」

「私だって今や女子高生。乙女ですよ。なのでまぁ、二人を尾行する。そう、尾行デートと洒落込みましょう」

「んなデート、あってたまるか」


 けれど目的地が一緒なら、別れる理由もない。

 仕方がないので一緒に行動することにする。

 ベンチに並んで座り、クレープを食べる二人を眺める。


 夕方の公園。学校が終わった小学生が、元気に駆け回っている。それを見守る母親らしき集団。写真展で

「平和」というテーマで募集したら一枚くらいは出てきそうな光景。


「なぁ、結愛」

「はいなんでしょう。先輩」

「普通に合流しても良い気がするが」

「どうですかね? 先輩が良ければそれでも良いのですが」

「……お前だけ行ってこい」

「それは嫌です。引っ込み思案な文学少女は疲れるのです」


 クイっと眼鏡を押し上げ、二つに結ったお下げを弄る。


「俺はあれだ、声優が合ってない吹替映画でも見ている気分なんだが」

「じゃあ、いつものに戻します?」


 髪を解きそれを一本にまとめ、眼鏡まで外す。


「どうですか?」

「あー、なんか年齢下がったな、お前」

「んなっ、地味スタイルの方が大人っぽいと言いますか?」

「へっ」

「なんかムカつきますね、先輩のそれ」

「……どっちにしても、お前は俺の大切な後輩だ」


「復帰しないのにですか? あーあーあーそんな顔しないでください。わかりました。ここは誤魔化されてあげます」


「俺、どんな顔してたんだよ」


 結愛はそれにウインクで答えた。


「ったく、はぁ」

「先輩も、誤魔化されてくださいね」

「はいはい」


 こうしてダラダラ会話して引き延ばしているが。


 正直、さっさと合流した方が良いと、冷静な俺が訴えている。

 決断できている。でも、心が足を引っ張っている。

 あべこべな命令に中途半端な体勢を強いられている。


「先輩、良いんじゃないですか? お二人が奏さんの家に入ったの確認したら、盗聴デートと洒落込むのも」


「お前が言うデートはなんで犯罪に片足突っ込んでるんだ」


 ったく。

 軽く頭を抱えた。マジで、どうしよう。

 自分の予想以上のポンコツっぷりにげんなりする。


「史郎、なんだか楽しそうだね」


 唐突に降ってきた声は、澄んだ、甘さを感じる声。

 見なくてもわかる。声の主。


「志保……。何してるんだ? 奏は?」

「ん? 久遠ちゃんならそこにいるよ」


 志保が指さした方向を見ると、奏が手を振っていた。


「ところで史郎、その子は誰?」


 結愛を指してきょとんと首を傾げる。長い髪がその動きに合わせてふわりと揺れる。

その仕草は、一番好きな仕草。多分、知っててやってる。

 さて、どうしたものか。

 結愛の擬態が割と上手くいっていることはここで証明された。あの控えめな印象と、今の活発な印象を結びつけなかったようだ。


「あぁ、この子か。この子は……」


「あー、もう忘れたのですか、史郎さん。さっき名乗ったじゃないですか。愛結ですよ。八重野愛結です。あなたの友達になりたくて話しかけた。可愛い元気っ子ですよ!」


「八重野ちゃん。は言い辛いなぁ、愛結ちゃんで良い?」

「はい! なんか美味しそうな名前ですが」

「それ、自分で言うのね」


 ほう、志保に呆れさせるとは。なかなかやるな。


「史郎さん! こちらの美人さんは?」

「朝倉志保。俺のクラスメイトだ」

「そうなんですね。あっ、すいません。迎えが来たので失礼します」 


 スマホを取り出して耳に当て、そのまま公園の外に走り去る。


「史郎、楽しそうだったね」

「それ、さっきも聞いたよ」


 ニヤニヤ笑いの志保。何を勘ぐっているのやら。


「今度ちゃんと紹介してよ」

「いや、なぜ?」

「駄目?」

「……機会があったらな」


 二人で奏のところへ。これで俺はもう逃げられない。

 追い込まれれば本気を出せるタイプと自負している俺としては、都合が良い。




「つーわけで。ほら、志保、説明してみろ」

「……ここが、その、こういう文法だから」

「でもここにコンマあるぜ」

「むっ。しくじったわ」


 奏は、講師役の交代をあっさりと了承したが、彼女自身が自分の勉強のために開いたのは、二年の範囲の参考書だった。

 ほれ見たことか霧島。これが真の優等生だ。

 しかも、今は俺たちのためにおやつと飲み物を準備しているぞ。


「はい、お茶で良いでしょ」

「サンキュ」

「スパルタだね、史郎君」

「そうか?」


 多分、志保はまだいける。恐らく今日は英語の気分だと思った。俺が参考書を並べた時、ちらりと英語の参考書に目が行っていたからだ。


 やっていることは、教えたことを解説させる。その時にこちらからどんどん質問する。

 理解する。それはつまり誰かに教えられるということ。

 高校の内容なら、中学生に理解させられるレベルで教えられれば上々だ。


「史郎にはお世話になった」

「さっさと自立しろよ」


 志保は黙って目を逸らす。まぁ、どうせあと三年くらいの話だが。


「数学は奏が教えたんだろ。奏の出したテストでも合格点取ったって聞いてるぞ」

「あれ? その話したっけ? 史郎君に」

「ん? 話してたぞ」

「そうだっけ? んー……ふーん」


 あっ、バレたな。結愛から聞いたことが。

 流石奏だ。生半可な嘘は通用しない。

 そして、後で嘘を吐いたことを軽く突っつかれるだろう。

 結愛と俺の事情を知ってるから、そこまで厳しくはならないだろうが。


「さて、そろそろやめるか」


 長時間やるのは効率が悪い。集中力が切れる。集中力が切れた状態でやったところで、頭には入らない。

 たまに半日ずっと勉強できるみたいな化け物もいるが。勿論、奏の事だ。

 志保は大体二時間やったら休憩、夕方なら終了だ。


「えっ?」


 けれど、顔を上げた志保は。不思議そうな顔をしていた。


「もうそんな時間?」


 志保はきょとんと首を傾げ、チラッと時計を見る。

もう夜の七時。家に帰した方が良い時間だろう。


「……気がつかなかったわ。でも確かに、少し疲れたかも」

「送っていく」

「大げさね」

「大げさじゃないから」

「朝倉さん、送ってもらった方が良いと思うよ」

「……わかった。そうする。お邪魔しました」




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