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失恋した俺の高校生活は、守りたい人が少し多い。  作者: 神無桂花
悪い子になるね。

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それじゃあ、誰が教えますか?

 駅までの道を歩く。

 自販機で買ったコーラで喉を潤す。


「史郎君。この間までは普通に話せてたじゃん。一緒に遊びにも出かけてたし」

「そうなんだけどさ。うん。わかっている、おかしいのは俺だって」


 そう。おかしいのは俺だ。

 今話せない俺がおかしいのか、この間まで話せていた俺がおかしいのか。

 いや、この間までは、志保に危機が迫っていると思っていたから、切り替えられていた、私情を切り離して考えられていた。


 でも、今俺は、傷を感じている。認識している。痛んでいる。

 そして、頭にちらついてしまった。


『一度振ったけど、でも、史郎君がまだ仲良くしてくれる素振りを見せてくれるなら、都合の良い男として、愛想良くしておこう。みたいな!』


 奏の言葉が、一つの可能性として、頭の中に。

 いや、奏のせいにするつもりは、一切無いけど。


「あの、何でそんなに私を見るの?」


「春休み。お前いなかったらもっと拗ねて、拗れてたんだろうなと思うと。今はまだ、ましな状況だろうなぁと」


「そんな、絶対あり得ない状況を想定されても」

「あり得ないか?」

「あり得ないよ。私が史郎君を放っておくなんて。ふふっ」

「マジで?」

「マジで。例え放っておいてくれと言っても、私は傍にいる。厄介な子が隣に、長年住んでいると思ってね」


 恥ずかし気に髪を弄って、後ろから来た人に道を譲った。俺もそれに習う。

 目の前を、制服姿で手を繋いで歩くカップルが通り過ぎる。

 あの仲睦まじさは、あとどれくらい続くのだろうと、嫌なことを考えてしまう。

 そうだ。おかしいのは俺だ。合理的じゃない。でも。


「志保が、凄いんだよ」

「ん?」

「恋人と友人の間を、反復横跳びできる」


 だけど、それがきっと、正しい。


「振ったのは、朝倉さんだよ。ダメージが大きいのは当然史郎君じゃん」

「……奏。戻れると思うか?」

「史郎君が、戻りたいと思うなら」


 振られたことで主導権を渡された、と。

 志保は、少なくとも歩み寄ろうとしてくれている。

 それは、普通ならきっと、どの面下げてとか、言われるようなこと。 


 でも、俺だって、仲良くしていたのに、少しすれ違って、そこからグダグダと、少しずつ崩れてそのまま、嫌ってないのに、関係が終わってしまう。

 そんなのは、嫌だ。


 無かったことにはならない。けれど、一つの関係が崩れたからって、終わってしまう、そんな決まりは無いのだから。


「まぁ、とりあえず。朝倉さんの勉強は、私が見るよ。私も、不用意なこと、言っちゃったし」

「お前は悪くない。けど、頼む。苦労すると思うが」


 奏なら、どうにか上手い事やってくれる、とは思うけど、どうなるだろうか。


「なぁ、奏」

「なに?」

「……ごめん。何でもない」


 今、何を言おうとしても、甘えたこと言いそうだ。それは嫌だ。

 飲み干したペットボトルをゴミ箱に突っ込んで、振り返る。


「一つだけ確信しているのは、奏は大切な人だ。ってことだよ」

「嬉しいけど、会話の流れが良くわからないことになってるよ」

「さぁな。それよりも気になるのだが、一体何があった?」

「何が?」

「俺しかいないって、奏、勉強教えるの上手いだろ」

「あー。その話か。簡単なことだよ」


 奏は指を一本立てる。


「史郎君は、久遠さんの受験勉強を見てたんだよね」

「あぁ」

「んー。そのね、志保ちゃん、何というか、すぐに集中力、切れちゃうんだ」

「なるほど……でもなぁ」


 これに関してはアドバイスできない。

 志保の機嫌や、気分を予想して、問題の量とか休憩のタイミングとかを調整する。これができるようになるのに、俺はどれくらいかかっただろうか。





 「九重君。君は結構成績は良い方だろ」


 そう言いながら、テニス部のユニフォームを着た霧島が目の前に座った。

 どうやら、活動自粛期間は終わったらしい。すぐにテスト前だけど。


「まだ定期試験一回もやっていないのに、何を言っているんだ。お前は」

 

 明日でテスト一週間前。あとは確認すれば平均以上は取れる。そんな確信を持った放課後。

 一緒に帰るのは気まずいから、今日の授業のノートに目を通しながら、奏と志保が教室を出て行くのを待っていた。


「小テストの結果を見る限り。君は順位表に乗る程度の点数は取れるだろ」

「それがどうした」

「うむ、実は、僕は入試成績が二位なんだ」

「あぁ。それで?」


 なんだ、こいつ。自慢しに来たのか?


「僕はね、久遠さんに勝ちたいんだ」

「はぁ」

「中学三年間、点数九割を下回ったことが無い僕に勝った彼女を、今度は下したいんだ」

「協力しろと? 勉強の邪魔とか、かなり嫌なんだが」


「そんなことは求めていない。君にお願いしたいことは一つ。久遠さんが万全の態勢で臨めるようにして欲しい、ということだ」


「は?」

「久遠さん、朝倉さんの勉強を見ているそうじゃないか」

「あぁ、それが? というか、ここ一週間、そんな感じだと思うぞ」

「僕は、万全の彼女と戦いたい」


 わけがわからん。敵の戦力が削がれるとか万々歳だろ。俺ならそこを容赦なく突くね。

 卑怯? 知るかバーカ。高所からの狙撃、喜んで! 背後からの奇襲。基本の基だね。


「勝利とは、万全の敵を正面から打ち破り、初めて勝利という」

「共感しかねるな。有利な状況を積み重ねて、その上で一方的に叩きのめすものだろ」


「とにかく! 君なら、朝倉さんの勉強を見れるだろ。代わってあげてくれ。君、朝倉さんとも仲良いじゃないか」


 ふーん。奏の実力を認めている割に、随分と低く見積もっているな、こいつ。

 ついでに俺と志保が、仲が良いか……。


「一つ、奏なら、一年の範囲なんてとっくに勉強し終えてる。二つ、教えることも勉強だ」

「馬鹿な! 勉強とは、己と向き合い、孤独の中で行うものだろ!」

「そういうもんかね」


 ふと、今日最後の授業のノートに目が落ちる。

 ……はぁ。何でだろうか。全く……。


「まぁ良いや。奏には世話になってるし。それくらいの負担を背負うのはやぶさかではない」

「本当か!」

「お前のためじゃないぞ。そこを履き違えるな」


 ノートをイラつきに任せて鞄に突っ込んで立ち上がる。


「九重君、スマホ忘れてるぞ」

「えっ、すまん」

「どうした? ツンデレっぽい立ち去り方が決まらなかったって顔をしているぞ、安心しろ、僕は気にしない」

「こ、このやろ!」


 机に入れっぱなしにしてたら忘れてた。

 くそっ、確か、奏の家でやるとか言っていたかな。

 なんで俺のノート。志保が躓きそうなところ、強調して書いてるんだよ。




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