ねぇ、殿下。婚約破棄したら相手が悲しむとか、本当にお思いで?
息抜き短編です!
「アクトリア!今この時をもってお前との婚約を破棄させてもらおうか!」
金色の髪の毛をなびかせて、
カフシニア王国、第一王子、マルクス・ファン・ブリセトが言う。
それに私は――
「はいっ!よろこんで!」
さいっこうの笑顔を送って答えた。
~~~~
私はガントブ侯爵令嬢、アクトリア・ガントブ・ダルク。
私はよく氷の青薔薇と呼ばれています。皆様が言うには、私が笑わないからだとか。
まぁ、ソレは置いておいて。
実は私には婚約者がいる。
誰かって?
この国――カフシニア王国、第一王子、マルクス・ファン・ブリセト様です。
王子様っていったら皆様こう思いませんか?
『王子様は何でもできて、かっこいい!やさしくて、弱者に優しい!』
そう、わたしも最初はこう思っていたのです。
だから私は婚約を二つ返事で承諾いたしました。
ですが、まったくのお門違いだったようです。
成績下の下。性格最悪、短気、ナルシスト、婚約者がいるにもかかわらず他の女生徒と逢引、自分に逆らう者はいいところでは爵位剥奪、最悪の場合、死罪。しかも思い込みが激しい。
唯一いいところがあるとすれば、まぁ、イケメンというところかしら?
いくらイケメンといっても中身がマジでくそなんですわよね。
はぁ。早く婚約破棄したい...こんなやつだとは思いもしなったわ。
幸い、今あいつやろう様には『いいひと』がいるそうではないですか。
相手のかたも妄想癖が凄いそうですし、私にいじめられたとか言ってあいつ野郎様に取り入ってはくれないでしょうか...
はぁぁあぁぁ...
数日後
「アクトリア様ぁ!マル様に寵愛をもらえないからって私をいじめるのはよくないですわぁ!」
「.........ええと、どちら様でしょうか?」
知らない女生徒に声をかけられました。
ピンク色の髪の毛を揺らし、ぶりぶり、と効果音が出てしまうような態度の方です。
「アクトリア様...ひどいですぅ!ブルセリド男爵令嬢、クーロディアですぅ!マル様に寵愛をいただいているぅ!」
「あぁ...それで?どこから言えばよろしいのかしら...ああ、そうね。まず、私とあなたって会ったことございますか?」
「そんなぁ!いつも私のこといじめてるくせにぃっ!いまさら知らない振りだなんてっ!」
「はぁ...」
いや、マジで知らないよ?
いじめてないし...
ぷりぷりしていて、自分の体格を主張してくる。
(うわぁ...きもちわるっ)
「あ!またそうやって私のこと意地悪な目で見てくる!次は私に何をするつもりですかぁ!」
「は?」
どうやら無意識のうちに軽蔑のまなざしを向けてしまったみたい。
いや、だって軽蔑するしか無くない?
気持ち悪すぎる...
「おいっ!お前!アクトリア!クローディアにナニをしている!」
おっと。遠くからよく響くうるさい声が。
そう考えている間にくそ...マルクス殿下がぶり...クローディア様を庇うようにたちました。
クローディア様はおとなしく...殿下に庇われて、
「マル様ぁ...こわかったですぅ...」
「おお、そうか。もう大丈夫だぞ。私がいる。」
「はぁい!マル様すてきですぅ!」
そうほめられたで...くそ野郎...まちがえた。殿下はまんざらでもないようで、顔がニヤニヤしています。
「おいっ!アクトリアっ!次期光の巫女のクローディアにこのような態度!許されたものではないぞ!」
正式に言えば”候補”です。ソレを言うなら私も候補なのですが。しかも最有力の。
あと、殿下。声がとてもうるさいです。
私たちの横を通る人たちが
『なんだなんだ、修羅場か?』
とかいっているのでやめてもらえませんかね。
「ま、マル様。お気持ちはこのクローディア、とてもとてもうれしいですぅ。ですが、マル様、アクトリア様がこれでは見世物のようでかわいそうですぅ。」
いや、ソレを言うならあなたたちも見世物よ。なに自分たちは違うって顔してるのよ。
「おお、クローディアはとてもやさしいな。よし、クローディアに免じて今日のところは許してやる。クローディアに感謝するのだな。」
そういい残して二人の世界に入っていった。
うっわ。超上から目線。
はぁぁぁぁああ...早く婚約破棄してくれないかなぁ。
というか、この前私が思っていたことになって面白いんですけど。
まぁ、この調子で、頑張ってね。ぶりっこちゃん。
あ、そういえば、光の巫女について話していませんでした。
光の巫女というのはですね。16~18歳の乙女から選ばれる、”先読み”まぁ、予知の能力を授けられ、祈りをささげ、国中に結界を張り魔物が侵入するのを防ぐことができるようになるひとのことです。現れるのは100年単位ですけどね。
この能力は生まれ持った先天性のもので、魔力が開花すると使えるようになります。魔力が開花するのは16~18歳の時ですので、ちょうど今の私たちがソレです。
ちなみに私が最有力候補。前の光の巫女が亡くなられてから、今がちょうど100年だそう。だから今の16~18歳の乙女たちはある学校に集められ、そこで勉強をします。あ、そうそう。光の巫女にはナイトがいまして。そのナイト候補たちもこの学校に集められます。まぁ、一応、く...殿下もその一人ですわ。
で、ここまでは別にいいのです。もしも自分が光の巫女になったときに最悪だと思うのは、光の巫女は王太子か、ナイトとしか結婚してはならないという決まりごとです。はぁ...
つまるところですね。あいつ...殿下と結婚しなければならなくなるということです。高確率で。
あ、でもですね。このナイト候補は他国の王族も入ることが許可されています。ので、ナイトさん、あいつ以外で頑張って。
もしも私が光の巫女となったとき、あいつと結婚させないで。
「ここで何をしているのですか?」
「え?」
後ろから声がしたので振り返ってみる。
...見たことある美形...誰だっけ。
.........あ!思い出した!
「あ...えっと。失礼いたしました。少しボーっとしていたようです。申し訳ありません。クルスト王国、アレクサンド王子」
王妃になるために練習してきたカーテシーをする。
カフシニア王国よりももっと強国、クルスト王国の、王太子...なんでこんなところに?
...あら?そもそも、わたし、今どこにいるの?
目を動かし、辺りを見回す
...ここどこ...
あ、中庭?かしら?
「いえ。こんなところまで来るご令嬢はなかなかいないので。...お名前をお伺いしても?」
「あ...すみません。わたしはガントブ侯爵令嬢、アクトリア・ガントブ・ダルクと申します。」
こ、これが王子!普通の!オーラがまず違いすぎる!!
なんであの野郎様とこんなに振る舞いが違いのかしら...
「...?ガントブ侯爵令嬢?大丈夫ですか?」
「......あ、はい。」
いつの間にか遠い目をしていたみたい。気をつけなきゃ。
「...ここは、いいですね。初めて知りました。こんなところがあるなんて。」
「ええ。そうでしょうね。ここは私専用の中庭ですから。」
「は?」
専用?そんなのあり?
というか、私そんなところにさらっと来ちゃってるの?
令嬢がなかなか来ないって言っていたけど、当たり前じゃない。
早く退出しなければまずいのでは?
...だよね
「しっ失礼いたしました!すぐに失礼させていただきます!」
「ああ、いいです。話し相手がほしかったところでしたから。さ、すわって。」
「あ、いや、でも...」
半ば無理やり座らされた。
用意された紅茶を一口口に含む。
「...また、ここに来ていただけますか?」
「えっ...よ、よろしいのですか?」
「はい。ぜひ。」
「あ、ありがとうございます!...あと、お願いなのですが、敬語をはずしてもらえませんでしょうか?私のほうが身分が下なのに敬語を使われるのは...」
「...わかった。これでいいかい?」
「はい。ありがとうございます」
「......名前で呼んでもいい?」
「えっ...」
「おねがい、聞いただろう?」
「あ...だい、じょうぶです。」
「アクトリア嬢、これからよろしく。」
「はいぃ...」
名前を呼ばれたことと、とろけるような笑顔に、私の顔は今赤いに違いないと思った。
それから何度か中庭に行ってお茶をした。
私達はおたがいをアレク アリア、と呼ぶ仲になった。
私はアレクと会話をしていくうちに彼のことをどんどん知っていって、アレクのことをもっと知りたい、一緒にいたいと思い始めていた。
でも、きっと婚約破棄されるとはいえ、く...殿下の婚約者の私はそういう気持ちを待ってはいけない。
~~~~~
部屋
『アクトリア!今この時をもってお前との婚約を破棄させてもらおうか!』
その言葉を境に、私は目を覚ました。
下を見ると、今日着ていた洋服。
(あら...寝てしまっていたみたい。このところあの人たちのせいで疲れが...。...ソレより、さっきの夢はナニ?私婚約破棄されていたのだけれど...)
今すぐしたいという気持ちが夢を見させてしまったのかしらね。
はぁ、本当に今すぐなってくれたらいいのに。……都合のいい夢を見すぎたわ。
「ふぁ...。」
まだ眠い...寝ましょうか。
できれば先ほどの夢の続きがみた...い...
そうしてわたしは再び深い海の中落ちていった。
その日見た夢は続きではなく、この学校の誰かがナイトと光の巫女の魔力を開花させた、という知らせが、卒業パーティーの日にもたらされたことだった――
数日後
「ん~」
気持ちのいい朝を迎えた私は思いっきり背伸びした。
令嬢としてはとてもはしたないことだけど。
さぁて、準備をしますかぁ。
今日は卒業パーティー。
さっさと準備を終えて、パーティー会場に向かう。
卒業生は19歳、または明日が誕生日、と言う方のみ。私はちなみに明日が誕生日。く...殿下たちも、アレクも卒業生。
さぁて、いきますか。
パーティー会場についた私。
ああ、もうクローディア様に体当たりされることもないのね!うれしい...
「きゃっ!」
まぁ、そんなことにはならないわけで。
「...アクトリア様...どうしてこんなことっ!卒業パーティーなのに!」
「おいアクトリア!お前...!」
あ~はじまりましたわ~
毎日恒例行事。もう耳がたこになりそうですわ。
まだやるのですね。はぁ。
それで...そろそろかな。
「ああ!マル様!おかわいそう!こんな方が婚約者だなんて!」
「その通りだ!まったく、私はクローディアと先に出会っていたかった...」
「まぁ、そんな悲しいことおっしゃらないで。時間は戻せないのですわ...」
とまあ、こんなかんじで。愛のささやき(笑)が始まります。
そして私は素通りします。こうなったらもう何も聞こえないので。
「残念だったな!アクトリア!今日!私とクローディアはナイトと光の巫女の魔力を開花させた!もうお前の居場所はない!」
「え?」
私が驚いた顔をしてくそ野郎はしてやったり、と言う顔をした。
「光の巫女をいじめていたお前は一生牢獄の中で過ごすのだ!」
「は?」
なにをいっているのだこのあほは。
「そして――」
まだ続くのか。
「アクトリア!今この時をもってお前との婚約を破棄させてもらおうか!」
「...」
なんか...見たことあるような...
...あ、そうだわ。このシーン。夢で見たのよね。
一言一句同じ...どういうこと?
「ふっ声も出せないほどこの俺と婚約破棄するのが衝撃だったか!」
いいえ。そこではないです。
でも、これって...婚約破棄って...
「悲しいか?まぁ、この俺と婚約できていたことを誇りに思うがいいさ!婚約破棄だ!さっさと出ていけ!」
「はいっ!喜んで!!!」
「は?」
私が首を長くして待っていたことじゃない!!!
私が珍しく満面の笑みで答えるからく...じゃないな、いまはいいやつだから...殿下でいっか。
殿下は顔を赤くして固まった。
「いやぁ!長かった!成績は下の下。性格最悪、短気、ナルシスト、婚約者がいるにもかかわらず他の女生徒と逢引、自分に逆らう者はいいところでは爵位剥奪、最悪の場合、死罪。しかも思い込みが激しい、唯一いいところがあるとするのならば顔がいいってところだけ!長かった!く...殿下!ありがとうございます!そこのうそつき被害者面ぶりっこちゃんと末永くお幸せに!!」
殿下、フリーズ。
周りの人たちが笑いをこらえているのが分かる。なかには我慢できていない人も。
「は...」
「それと、殿下!あなたと婚約していたことは私たちの一族の中で一番の汚点でございます!なので誇りはことばがちがいますね。誇りではなく埃ならまだ許せますがあまり自分の醜態をさらすのはいかがなものかと!」
満面の笑みで今までの鬱憤を述べる。殿下とぶりっ子ちゃんは顔が赤いのやら青いのやら何やら。
「では、失礼いたします。」
「あ、ま、待て...!」
「アクア。待って。」
聞きなれた声。思わず振り返る。
...アレク。
「初めまして。クルスト王国、アレクサンドル王子。どうかなさいましたでしょうか?」
今の私は、アレクと話していい立場ではない。
アレクはすこし傷ついた顔をして、私の前に跪いた。
え、なんで?
「侯爵令嬢、アクトリア様。ずっとあなたに惹かれていました。どうかこの私と、婚約をしていただけませんか?」
「......は?」
こ、ここ、婚約?!ひ、惹かれてたって...
顔が赤くなるのを感じる。
アレクの顔はいたずらをしてる顔だけど、瞳はとろけるようで、そして不安の色が見える。
「で、でも、私はいま婚約を破棄されたばかりです...」
ちょっと!なに言ってるの!私!アレクと婚約したくて、婚約破棄してもらえるのを楽しみにしていたのに!
「...そんなのは関係ない。私があなたとともにいたいんだ。」
「...!」
「それでも、と言うのならば、言い方を変えようか。アクア。私はナイトだ。」
「...?」
え?ナイトだったの?でも、ソレとこれとは話が違う...
「アクア、気づいていないのかい?」
「えっと...なにを?」
「君は光の巫女だ。」
「え?でもクローディア様が光の巫女では...?」
「違う、君だ。そして、覚えているかい?光の巫女はナイトか王太子としか結婚できない。この意味、分かるよね?」
「・・・!」
「君は、私と結婚するしかないんだよ。アクア。」
「アレク...!」
抱き合う私達。
周りから拍手が聞こえてくる。
「ま、まてっ!」
おっと?ここで野次を入れるのかい?
「光の巫女はクローディアだぞ!でたらめを言うな!」
「だまれ。これで私たちは退出させてもらう。本物の光の巫女を手放したこと、後悔するなよ?」
こわい笑顔よ。アレク。
ソレからはもうナニが何やら。結局、本当に私とアレクがナイトと光の巫女だったし。
ちなみに、私を失ったカフシニア王国は、私を陥れた天罰なのか何なのか、どんどん衰退して行って、今ではもうクルスト王国の傘下に入った。
「ねぇ、アレク。ほんとうにアレクは私なんかでよかったの?」
そういうとアレクは不機嫌な顔をして、私にキスの雨を降らせた。手首、二の腕、鎖骨、耳の後ろ、おでこ...の後に口。
「ん...」
自分の声も合わさり、余計に熱くなる。
もうこれをやられるだけで顔が熱くなるのに。
「アクア。もうそんなこと言わせないよ?私が選んだのはアクア、君だけだよ。」
「アレク...」
私とアレクは見つめあい、そして――
私は、この幸せを放すことはない。これから先。けんかをしたり、挫折したり、いろいろなことが起きるのかもしれない。だけど、私はこの力を使って、国民や、最愛の人を助けていくのだ。
これからが、楽しみで仕方がない。
アレク、ありがとう。これからも、よろしくね。
お読みくださり、ありがとうございました!