モコとモコナのもこもこな話し
あるところに、「モコ」と「モコナ」という綿毛の妖精がいました。
春になると、タンポポの綿毛をせっせと作っては空へとばしてあそびます。夏が近づくと、ねこたちのぬけ毛で綿のようなかたまりをふわふわととばします。犬たちのぬけ毛はちょっともっさりとしていますが、それでもふんわりな綿の玉になるのでした。
そんなある日のこと。
「モコ、ちょっと来てよ」
モコナが呼びました。雨上がりの森の中です。モコとモコナは、ぬれることがきらいです。ぺしゃんこになってしまうからです。それでもなぜこんなところにいたのでしょうか。
「だめ。こっちもとってももこもこなんだから。」
そうです。モコナのそばの紫陽花の大きなしげみがいっせいに花ひらいているのです。
紫陽花は緑の濃い大きな葉に雨つぶをいっぱいにためていました。その葉と葉をおしのけるように、いちめんに雨いろの紫陽花の花が、もこもこと咲き広がっているのです。まるでそのあたりだけが雨にけむっているように見えるほどでした。
「こっちだって、すごいのよ。」
モコナのすぐそばでは大手まりの大木が、くもり空に広がるように枝を伸ばしています。その枝には、まるで緑の葉をかくすように大きなまっ白な花がもこもこと咲いていました。それはまるで、とくべつに空にささげる大ぶりの白い果物のようにも見えるのでした。その木の根元では小手まりの花が可愛らしくもこもこと咲いています。でも、そろそろ散り始めていることを、モコナはそのふんわりとした目で見つけました。
「いつまでも咲いていてほしいな。」
「そうね。でも、またきっと来年、大きく咲いてくれるから。」
ふたりは、しんみりと雨のふんいきが立ち込める森の中で花をみつめました。
「あ、あっちにも。」
つぎにモコが見つけたのは、芍薬です。真っ赤で大きな花は、ふんわりとしていてふわふわです。雨つぶがまるで泣き止んだあとの涙のようにもみえました。
ふたりを、とてもいい香りがよびました。
「とってもきれいよ。あなた。」
影に咲いていたのは、ヤマユリです。咲いたばかりのヤマユリは、まるでぼうっと光っているように白くつやめいています。大きく咲いた花は、すきとおる白いドレスのすそを広げているようにも見えました。
きせつは、もうすぐ雨の多いころに近づいています。それでも、ふたりは目をきらきらさせています。モコとモコナは、ふわふわ、もこもこがとっても大好きですけれど、きれいな花や虫や魚たちや鳥たちもまけないくらい大好きなのです。それは、もうぬれてしまうことをわすれるくらいでした。
たくさんの花が咲いています。たくさんの虫たちがめざめています。やがて美しい音色が森いちめんに響く夕ぐれがやってきます。冷たい水のきれいな川では、にじいろのイワナや、宝石のようなヤマメたちが、銀いろの鱗を煌めかせて飛沫を上げています。大空へとヒバリが昇っていきます。高く細くなきながら、遠くなっていくそのすがたを、モコとモコナはまぶしく見おくっています。
この夏のはじまりの空の下で、山は青く深く輝いています。海は真珠をばらまいたような、きらきらした波で満ちています。そして森の中のたくさんの生きものたちは、いちばん深く息を吸い込んで、ひときわ大きく飛び跳ねようとしています。
見上げる空の雲と雲のあいだから、薄い金色の光りがカーテンのように降りてきました。ふたりはもうすぐ陽の落ちる金色の空へと、ふわふわとかえっていきます。
「モコ。また、あした。」
「そう。きっと、あしたね。モコナ。」
ふたりは少しさみしいけれど、お別れのあいさつをしました。
カラスたちが甘く鳴きながら山へ帰っていきます。西の空は、ひときわ輝く茜です。細い月が見守っています。どうやら足もとで夜のこどもがはしりまわっているようです。そちらこちらの草むらでは、虫たちが小さな身体をいっぱいに震わせて、星を呼んでいます。
いちばん星です。
おわり
まだまだ暗い世相です。
雨も多くなってきますけれど、生き物たちは元気です。
美しい自然は生き物たちを育てています。
わたしたちもその仲間でありたいと思います。