#11
「逃亡したパイロットやスパイを一網打尽にしただけでなく、貴重な操縦パターンも蓄積できて……」
「俺の方は『ハルト』がほとんど操縦したけどな。あ、袈裟固めのパターンは俺な!」
「戦場じゃ使わんだろ」
「こふっ」
「でも、基地が半壊しちゃいましたね。フェザーズも、メインエンジンをいくつか壊してしまいましたし……」
「なに、そのあたりは既存技術で作れるからな。むしろ、フェザーズの無効化戦術の方が有用だ」
もともと承知していたことだが、対ヒューム委員会は、フェザーズを量産化して国土奪還に投入する気はなく、あくまで既存兵器の発展型によるフェザーズ迎撃を模索していた。理由は、旧国家群まで『結晶体』の誘惑に囚われないようにするため。ミイラ取りがミイラになっては本末転倒である。
「じゃあ、フェザーズ動かせるのは、もうこれっきりなのか……」
「どうかしら? 今回のような攻撃については、接収したフェザーズを使わざるを得なくなるから。あまり、あなた達を戦わせたくないのだけれども」
「本官は本望であります!」
「だから、私たちは軍人じゃないっての」
「じゃあ、『ハルト』はどうなるんだよ? まさか、あの時フェザーズの半分を無効化したのがあいつだったとはなあ」
「至高にして究極」
「言ってろ」
成瀬くんも、パイロット達と同じ牢屋に入れてもらうよ? 思う存分、寝技を試してみなさいな。
なお、私と成瀬くんとの会話からおわかりのように、『ヒューム』侵攻に伴うハルトの活躍と現在の立ち位置は、成瀬くんやみこちん、井上くんにも、森坂さんの方から語られた。もちろん、私にも。
「ところで、博……ミーアさん、ヒューム・グランザイア……あなたのお婆さんって、本当に『ヒューム』総帥なんでしょうか?」
「本当も何も、名前が一致し過ぎているからな。それに、『結晶体』の組成は、明らかに私が発案したものだ。ただ……その先は全くもって不明だが。お前たちの『同調』を含めてもな」
「うーん……」
うーん。下手に隠すと、逆に面倒なことになりそうだよね。よし。
「えっと、私、『ヒューム・グランザイア』さんに、会ったことがあるんだけど。日本で」
「「「えええっ!?」」」
◇
数日後。私は、ミーアさん、森坂さんと共に、地元の市役所と警察、そして、病院を回った。ヒュームさんが私に発見されてから亡くなるまでの記録を、ミーアさんが直接確認するためだ。
「……そうか、遺留品は、これだけか」
「はい。他にもUSBメモリや宝石みたいなのがあったんですけど、処分されたみたいで」
「宝石みたいなのは『結晶体』だったのだろうな。まあ、同じものはフェザーズ機体にもあるが、USBメモリは惜しいな……いや、不謹慎か」
そういう意味では、隠蔽している私が一番不謹慎だろう。USBメモリのファイルはとうの昔にバックアップ済みだが、私が数年間持っていたとなると、あれこれと疑われる。無論、私のような女子高生が相応の技術を確立しているのでは……などと想像することは稀であるが。ただ、私が『ハルト』の熱狂的なファンであること、フェザーズを難なく操縦できてしまったことは既に知られてしまったから、余計な詮索をされないに越したことはない。
「婆ちゃんは、最期は静かに過ごせたんだな」
「だと……思います。私も、それほど頻繁に話ができたわけではなかったんですが」
「そうか。爺ちゃんを早くに亡くして、ひとりで子育てをしながら研究活動に邁進していたっていうパワフルな人だったからな。正直、パワフル過ぎて何考えてるかわからないところもあったが、祖国ではいつも忙しくしていたよ」
そうだったんだ……。私が会った時は記憶喪失に近い状態だったせいか、むしろ大人しいイメージがあったのだけれども。
「しかしそうすると、婆ちゃんが、カスミやこの街に何か仕掛けたって考えるのは厳しいか」
「ですねー。あと、私の『ハルト』好きも偶然じゃないかなと」
「偶然というには妙に関わりがあるが……これ以上は何も出てこないだろうな」
そうそう、とりあえずは偶然ということにしておいて下さいな。いつか……話せればいいけど。
「しかしだとすると、『ヒューム』総帥を名乗っていた彼女は誰なんだ……?」
「博士……ミーアさんが、グランザイア教授について前身の研究組織に問い合わせた時に、ボイス通話で返答した人でしょうか?」
「ああ。『お前はこの組織にふさわしくない』とか言われてな……」
うーん、やっぱり謎が増えたままだ。このあたりがはっきりして『ヒューム』解体の見込みが出るまで、やはり『ハルト』の正体を明かすことはできそうにない。というか、こうして私の本来の立ち位置……『ヒューム・グランザイアの継承者』を隠し続けながらアプローチすることで、より早い解決が期待できるかもしれない。なにしろ、『ヒューム総帥』とやらが、そのヒュームさん本人を名乗っているのだから。
というわけで、私がこれからやることはただひとつ!
「さてと、それじゃあ、早く基地に戻りましょう。ネット環境が復旧したって聞きましたよ!」
「なあ、カスミ、あれって本当に必要なのか? 確かに、あのアバターは爺ちゃんに似てなくもないが」
「何言ってるんですか! ヒューム総帥以前に、『ハルト』の正体もわからないんでしょう? なら、小粋なトークから振付まで、じっくり学ぶべし!」
「『彼』も不思議なのよねえ。こんな事態になっても、VTuberの活動を続けてるなんて……」
そりゃあ、ハルトは私の『理想の彼氏』ですから! たぶん、ヒュームさんにとってもね!
この回で第二章終了です。『設定まとめ』ののち、第三章となります……が、章単位で更新するつもりのため、書き終わり次第まとめ投下する予定です。