48、花火
48
人は過去を抱えて生きて行く。4年も私より多く生きていればその量は必然的に私より多くもなる。
私みたいな子供は過去よりもまだ見ぬ未来の方が分量が多い。だからその分、過去の重さが大きいのかもしれない。
昨日の出来事は、私にとっては大きな大きな出来事だった。
枝本さんのバスケの練習試合の後、約束の花火大会があった。まだお盆には入っていなかったから、今度はちゃんと寮母さんに了承を得て花火大会に出掛けた。門限の19時を花火が終わって帰っても十分間に合う22時にしてもらった。今度こそ絶対に守ろうと心に決めた。
この前と似たような格好をして、いつもの待ち合わせ場所へ向かった。
でも、時間になっても枝本はやって来なかった。
しばらくバス停で枝本さんを待っていると、携帯にメッセージが来た。
『悪い。予定変更。1人で会場まで来られるか?』
え?ドタキャン?いやでも会場まで来いって……キャンセルではない?
枝本さんのメッセージを信じて会場へ向かった。
夕焼けの強い光が、電車の窓から差し込んでいた。そのオレンジの光が消える頃に、会場の最寄り駅に着いた。
電車を降りた時には、もうすっかり暗くなっていた。たくさんの桃燈の灯りが遠くに見えた。
会場の最寄り駅はかなり混んでいた。
『最寄り駅に到着しました。枝本さんはどこですか?』
枝本さんの返信がなかなか来ないから、人の流れに便乗して歩いた。人々は、電車の窓から見えた河川敷のある方へ向かっているようだった。しばらく歩くと、出店の出ている広場が見えて来た。私はその広場の人の多さに驚いた。
こんなに人がいたら、枝本さんを見つけるのになかなか苦労しそう。
『出店のある広場まで来ました』
そうメッセージを送ると、すぐに返信が来た。
『そのまま川辺の方に向かえ』
広場から川辺に向かったけど、これ以上先には進めなかった。『関係者以外立ち入り禁止』と書いた看板があったから。私は確実に関係者じゃない。
「新川!」
どこからか枝本さんの呼ぶ声が聞こえて来た。辺りは暗くてよく見えなくて、枝本さんの姿が確認できなかった。
「悪い!急に手伝う事になって……」
よく見ると、立ち入り禁止の看板の向こうから軍手を外しながら枝本さんがやって来た。
え?関係者?
「手伝うって……お祭りをですか?」
「違う。花火」
「花火?」
枝本さんは真っ黒な上下に法被を着ていた。
「俺、母親が亡くなる少し前、花火の工房に弟子入りしてたんだ」
そうなんだ!そういえば、未来ちゃんが法被を着た枝本さんを見かけたって言ってた。きっとその日も手伝いだったんだ。
「枝本さんの仕事って……」
「仕事ってほどの事じゃない。給料はもらって無いし、俺が手伝いたくてやってる事だ」
私達は河川敷から、広場に向かって歩いていた。
桃燈の灯りでようやく枝本さんの顔が見えた。枝本さんの顔は何だか嬉しそうだった。そして、その頬に黒い汚れがついていた。
「枝本さん、顔に黒い汚れついてます」
私はすぐにタオルハンカチを渡した。
「あ、悪い……」
全然拭けて無い。私は枝本さんからハンカチをもらうと、枝本さんの頬を拭いた。
「枝本さん、花火師だったんですか?」
「いや、まだまだ下働き。見習いだ」
何だか嬉しかった。枝本さんが自分から自分の事を話してくれたのは初めてだった。今まで、枝本さん本人から聞いた事は一度もなかった。
「お腹空きません?あ、焼きそば!あと、たこ焼き!じゃがバターも捨てがたい!」
「落ち着け落ち着け」
「チョコバナナとかき氷もありますよ?」
私のテンションに、枝本さんは笑っていた。
「本当に食うの好きだな」
「え?そうですか?まあ、好きと言えば好きな方ですけど、最近部活が無いせいか……」
「太ったな」
コラーーーーー!!
と、思ったら口にしていた。
「枝本さん相変わらずデリカシー無いですね」
「そうか?本当の事だろ?」
「女子には太ったは禁句ですよ!?」
そうだ…………私、枝本さんに女だってバレたんだ。
「あの……ありがとうございます」
「は?」
「女だってわかっても、変わらず接してくれて……」
女が虫と同じくらい嫌いな枝本さんが、私の側を離れてはいかなかった。
「あぁ、それは……何故かお前といると、お前が女だという事を忘れる」
「ちょっと、それどうゆう意味ですか!?」
え?待って?女とバレても女として見てないって事じゃ……
「別に悪い意味じゃない」
悪い意味で無いなら、一体どうゆう意味?
何?ペット?ペットに見えてるの私?だからすぐ餌付けしようとするの?
これじゃマトモに告白なんてできないよ!フラグ!失恋フラグ立ったから!
その後、屋台の様々な食べ物でやけ食いした。枝本さんに「よく食べるな」と言われたけど……
誰のせいだと思ってるんですか?!それに、枝本さんほどじゃないですよ!
こんなに食べる男子寮の調理室ってどうなってるんだろう?そんな事を考えた。




