38、塩対応
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紗菜さんは、今日も落ち着いたピンク色のヒラヒラした服を着ていた。まるで蝶のよう。
蝶だって虫。だけどその美しい容姿は、人々の目を楽しませる。道行く稲高男子が一目で女だとわかり、その目を釘付けにした。
三人で本屋へ行くつもりが、当然のように赤城先輩もついて来て四人で行く事になった。
「なんでお前もついて来るんだよ」
「お前がこいつと別れたらついて行かねーし」
相変わらず紗菜さんは枝本さんにベッタリで、赤城先輩が私の隣にいた。
「ねぇ~何だか歩き疲れちゃった~」
「そうか。それならそこら辺で休んで来い」
塩!枝本さんの対応がめちゃくちゃ塩!
その塩に紗菜さんは全然へこたれない。
「一緒にスタバ行こ!」
「スタバなんかねーだろ」
「車である所まで行くの~!行こ~!」
逆に凄いな……そこまで押せるのって。
下界の本屋さんは小さく、参考書も中学生用が数冊しかなかった。
「やっぱりここには無いな」
「今日はもういいです。そろそろ帰りましょう」
「そうだな」
私と枝本さんは寮に。紗菜さんと赤城さんは自宅に。それぞれ帰るように枝本さんが言った。それについては、紗菜さんも渋々承諾した。
それは、駅前から稲高までの急な坂があるから。
あの坂を下って下界に向かっているときも、紗菜さんはずっと足が痛いだの、バスに乗れば良かっただの喚いていた。
紗菜さんは枝本さんについて行くために、わざわざあの坂を歩いて登る事はしなかった。私も別にそれを狙って下界に来た訳じゃない。
ただ、枝本さんが紗菜から離れたいんじゃないかと思って……でも、紗菜には悪い事をしたような気がして来た。
紗菜さんはヒールの高い靴を履いていて、踵が靴ずれをしていた。
「あの、もし良かったら……」
せめてもののお詫びに、紗菜さんに絆創膏を手渡した。
「…………ありがとう」
紗菜さんはその絆創膏を、怒りを抑えながら受け取った。そこは大人の対応で安心した。ここで罵倒されたらどうしようと少し心配だった。
「赤城先輩、紗菜さんの事1人にしないでください。できるだけ送ってください。お願いします」
「なんで俺!?」
「お願いします」
私は赤城先輩に頭を下げて、くれぐれも安全に帰れるようにお願いした。ここは紗菜さんのような愛らしい女の人が安全にいられる場所じゃない。
「行くぞ」
そう言って枝本さんは帰って行こうとした。
「あ、待ってください!」
私は赤城先輩と紗菜さんに一礼して、その後を追った。
しばらく黙ったまま坂を登った。二人の姿が完全に見えなくなった頃、枝本さんが珍しく小さな声で言った。
「え?今なんて?」
「悪かったな」
「いえ……こんな所まで連れ出してしまってすみません」
すると枝本さんは振り替えり、柔らかに微笑んで「助かった」と言った。
その笑顔は、確実に私の胸を掴んだ。少し茶化して言うと……
惚れてまうやろーーーーーーーー!!
ダメだ!冷静になれ、冷静に!
「私は枝本さんの虫避けですから」
悪まで私は虫避けの役割をしただけ。そう、役割を果たしただけ。
「本当に参考書いるか?」
「え?」
「今度の土曜、大きい本屋に行く」
それって、一緒に出掛けようって事?基本的に土日は殲滅委員会の当番は無い。
「あの、本当に参考書選んでもらえるんですか?」
「嫌ならいい」
「いえ!行きます!お願いします!」
嬉しい!枝本さんとデート!デートだと思ってるのは確実に私だけだけど!
その嬉しさのあまり、次の日教室で未来ちゃんに話した。
「本当!?じゃあ、バッチリ決めて行かないと!」
「でも女装禁止だし……」
「いや、一葉女なんだから女装じゃないし」
そもそも、枝本さんには女だとバレていた事が判明した。
「でも、枝本さんは男に見える女がいいって」
「それってブリブリした感じが嫌なんじゃない?」
未来ちゃんはヒラヒラした服を着るだけが女らしさじゃないと言ってくれた。
「あからさまに女らしい格好じゃなくても、女の子に見える格好もあると思うの」
「それって何?何なの?」
「何って何?何の話~?」
私達の話に荻野さんや姫島さんが入って来て、そこから女子のデートコーデ会議が始まった。
「雑誌とか参考にすれば?」
「ネットで検索!」
「まずはクローゼット見てからでしょ」
そして、散々ファッショントークをした結果……
「で、誰とデートするの?」
と誰かが訊いた。
「そうじゃん!誰!?どの推しと行くの!?」
あ、推し制度思い出したみたい。枝本さんの婚約者の話で持ちきりで、一時期BLダービーが忘れ去られていた。いや、私的にはそのままフェードアウトしてもらって構わなかったんだけど……
「えっと……その……枝本さんです」
「えぇええええええ!?そこ行く?」
「婚約者の話知ってるよね?知らない訳ないよね?」
知ってますとも。昨日もかなり高圧的な態度に牽制されてた。それでも、枝本さんの塩対応に私はどこか安心していた。安心してそのお誘いに受かれた。




