18、下界
18
下界へ降り立った私は、予定通り図書館へ……
そう簡単に行けるはずも無く。
「あっち、名物の饅頭あるぞ」
「知ってます」
「こっちにボロい駄菓子屋あるんだぜ~」
赤城先輩はあちこちに誘って私を図書館へ行く事を阻害する。完全に阻害。それは何となくわかる。
「確かこの道を真っ直ぐ行けば図書館があるはず……」
「おい、こっちだ。こっちが近道」
直接距離に近道なんかあるはずがない。
「先輩、私日が暮れる前に図書館へ行って帰りたいんです。一緒に図書館へ行くのが嫌なら先に帰ってください」
そうハッキリ言うと、赤城先輩は少し足を止めた。私はその姿を残して先に進んだ。これでもうついて来ないかな。そう思ったら、後ろからついて来た。
ついて来る!!
図書館に着くと、絵本のコーナーでポップな絵の虫の絵本を探した。赤城先輩は居心地悪そうにしていた。まぁ、確かにあの赤髪には似つかわしくない場所ではある。
ちゃんと内容も確認して……と思い何冊か読んでいると、肩を叩かれた。
「ん?」
「これなんかどうだ?」
後ろを見ると、赤城先輩が一冊の絵本を持って来た。私はそのタイトルを読んだ。
「おしりかじり虫ものがたり?」
これも一応虫?私は思わず笑えた。
「あははははは!これも虫ですね。ありがとうございます」
私が笑っていると、赤城先輩は嬉しそうに顔をしわくちゃにして微笑んだ。
この人、こんな風に笑うんだ……笑った所、見た事無かった。そういえば、生徒会長の笑顔も可愛いかった。これで、少しは笑顔になってくれるといいな。
絵本を数冊借りて、寮に戻る事にした。
「先輩、今日はありがとうございました。私、寮に帰りますね」
「いや、まだ明るいだろ?もう少しゆっくりして行こうぜ」
「いえ、帰りは上り坂なので時間かかるのでこの辺で。お疲れさまでした」
私は深々と頭を下げて、稲高へ向かう道を歩いた。
「明日!明日は暇か?」
「明日は殲滅委員会です!」
そう言うと、赤城先輩も帰って行った。それでも、一緒に絵本を探してくれた。今度何かお礼をしよう。
そんな事を考えながら坂を上り始めると、一台の車が私の横についた。白いワゴン車だ。すると、その車の窓が開いて、男の人が話しかけて来た。
「君、稲高の子?」
「え?あ、はい……」
「これから稲高行くの?この坂上るの大変でしょ?乗ってきなよ」
は……?乗ってく?この車に?
後部座席にも男の人が二人乗っていた。これは絶対に乗ってはいけない。瞬時にそう思った。さすがの私にもわかる。いや、こんなの小学生でもわかる。
「いえ、大丈夫です」
「遠慮とかいいから!ほら乗って乗って!」
「いいです。歩きたいんです!」
そう言うと後ろのドアが開いて、引き込まれそうになった。
その時、名前を呼ばれた、
「一葉ちゃん?」
名前を呼んだのは寮母さんだった。
「あら、一葉ちゃんじゃない。その人達は?お知り合い?」
「いえ、違います」
私はその手を振りほどいて寮母さんの方へ逃げた。すると、すぐにドアが閉まり車はどこかへ行ってしまった。
「良かった~!助かりました。ありがとうございます!」
「もしかして一葉ちゃん1人?」
「え?あ、はい」
帰りは寮母さんのかわいらしい軽自動車に乗せてもらって寮へ帰った。
「危なかったわね~寮に帰ったら通報しなきゃ。連れ込まれてたら大変な事になってたわね。一葉ちゃんはずっと1人で駅前に来てたの?女の子1人じゃ危ないわよ?」
「いえ、途中までは二人だったんですけど……」
稲高で男として生活してるせいか、自分が女だという自覚が足りていなかった。結構ボーイッシュな格好してると思うし……それでも、さすがにわかる人にはわかるか。
「お友達は女の子?それならバス……は無いから仕方がないわね」
稲高行きのバスは朝と夕方に3本づつ運行している。でも、夕方に稲高行きは無い。
「もし男の子なら今度からはちゃんと稲高まで送ってもらってね」
もしかして……赤城先輩が一緒について来たのって……
その時始めて、赤城先輩の気遣いを知った。ただの空気の読めないうざったい先輩じゃ無かった。
赤城先輩の笑顔を思い出しながら、部屋で図書館で借りた絵本を開いた。おしりかじり虫……懐かしい。私はおしりかじり虫の歌を口ずさみながら、夕食を食べに食堂へ行った。
「それ懐かしい~!」
私の口ずさむ歌を聞いて、千恵さんがくいついた。すると、美奈恵さんが耳をふさいだ。
「一葉ちゃん止めて~!そんなの聞いたらまた頭から離れなくなるから!」
「美奈恵さんはすぐ頭に残りますよね~!この前もむっしっし~!むっしっし~!ってCMの曲ずっと歌ってましたよね~?」
「あははははは!美奈恵さん可愛い!」
みんなの顔を見てなんだかホッとした。冒険というほどのものじゃないけど、いつもと違う事をしたら何だか疲れた。
そして、今日あった事をみんなに話したら、案の定優理さんに怒られた。
「基本二人一組!誰かと行動!」
「一葉ちゃんはちゃんと女の子なんだからね?」
美奈恵さんにそう念押しされて、何だかぐっと胸に来るものがあった。そして反省した。




