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終末に架かる陽光  作者: べすらいむ
8/12

魔の森7


*****


時は遡り一刻程前


「さあ、観念なさい蟲共。この領域に入ってきた事を後悔させてやるわ。」

吐き捨てるようにこの森の主は告げると手にしている木製の剛弓を構え、不可避の一射を放つ。

地裂弾(アースド)(ワン)

地の精霊が放つ必殺の一撃。地の精霊は地脈(かんきょう)によって力が増幅する為、彼女のホームグラウンドであるこの森では絶大な威力を発揮する。漢数字は放った矢の本数。


この場にいた人間誰しもが死神に魅入られたようにその場を動くことが叶わなかったが、1人、真ん中に居たソイツは難なく《撃ち落とした》


「おや、おや…怖い怖い。精霊というのはもう少し臆病だと思ってましたが、どうやら随分と野蛮で好戦的、まるで魔族と同じではありませんか。」

先程の死の一射を何食わぬ顔で地に叩きつけ、やれやれと肩を竦める。


「へぇ、ただの人間の癖に舐めたマネしてくれるじゃない。そんなに死をお望みかしら?」

わなわなと身体を震わせながら呪詛のように呟くと、森が連動したかのように震え出す。大地が揺れ、木々がざわめく。


「これはっ…! 【(ゲート)】」

余裕に満ち溢れていた男の顔が崩れる。とてつもない力を感じ取ったのか空間移動魔法を唱え配下の人間共を退避させる。


「ふーん、森から逃げ出したのね。別に金輪際ここに危害を加えないって言うのなら貴方も見逃してあげてもいいわよ。」

言葉とは裏腹に彼女の闘志や森の怒りは収まっていない。とてもじゃないが五体満足で帰れる保証は無さそうだと悟る。


「いやはや、配下にかっこ悪いとこは見せたくなくてね。それにこれ以上こちら側も被害を増やしたくなくてね」


軽口を叩くが、その冷酷な眼は微塵も笑っていない。


「これでも勇者の教育係を任されていた事もあってね。精霊様とお手合わせするなんざ魔王討伐より心が踊ると思わないか? 精霊なんてのは過去の大戦で絶滅したと聞いていたし史実や文献といった記録も殆ど残っていない。まさに夢のような…おっと、つい長話をしてしまったね。これでも緊張しているんだよ、老いぼれとは言え精霊に会うのも闘うのも初めてなものでな。ついつい上機嫌になってしまったのだよ…ふふふふふ。隠居しようかと思った矢先に帝国からの極秘任務(シークレット)とはね。まだまだ人生捨てたもんじゃないものだね。」


嘘か誠か、この不気味な男の真意は読めない。しかしたった一つ確信した。コイツは生かしておくわけにはいかない。森の主は直感でそれを感じ取った。


「森に仇なすモノよ、地の精霊サフラが裁く。(そら)に悲哀、森に憐憫、大地に憤怒。地の怒りを此処に顕現せん…!」


地核変慟(ダイアストフィズム)


途端ー森が割れたー 比喩ではなく『割れた』周囲の木々1本1本が意志を持ったかの如く襲い掛かる。幹や枝、葉、根までもが刃となり四方八方から飛び交う。また、大地が泥濘になり男の足を封じる。避けることが出来ない状態からのオールレンジ攻撃。絶望的な現状で男は、嗤った。


「ッッ!? 土硬壁(ウォール)!」

咄嗟の判断でサフラは目の前に緻密な壁を形成する。圧倒的優勢であるにも関わらず防御しなくてはならない…そんな気がした。その危険予知は正解と同時に不正解であった。


「shoot」


男がそう呟く。パッと光が輝き、世界が時を止める。

「な、なに…よ、これ……」

森の動きが止まり困惑した反応を示す。刹那、激痛が精霊に襲い掛かる。ふと躰を見ると霊格(しんぞう)が『撃ち抜かれていた』


「そ……んな…」

消え入りそうな声で言の葉を紡ぐと地面に突っ伏した。


「いやはや、すまないね。精霊を生かして連れ帰れなんて命令だったんだがね。流石の私も手を抜いたら殺されてしまいそうだったものでつい…おや?まだ生きているみたいだねぇ。これはツイてる。しかし想定外だったよ。まさか霊格を砕いても死んでいないなんてね。文献の僅かな情報もアテにならないじゃないか。やはり人間と精霊との大きな差は…」


癖なのか流暢に1人で語り出す。この男が知る由もないが如何に強い精霊と言えど霊格(しんぞう)を失うと当然死に至る。しかし例外は幾つか存在する。地の精霊サフラもそれに該当する。彼女はこの土地の守護する契約をしており、その見返りとして絶大な恩恵(ギフト)が与えられている。


【森の守護神】

この土地一帯を守護する者。外敵から護り、土地の平和と安寧をもたらす者。莫大な森の生命エネルギーを得るが、森の状態に応じてダメージを受けてしまう。

霊格を砕かれて無事なのは、この森とサフラが擬似的に同調(シンクロ)状態にある為、森が消えない限り、彼女が死ぬことは無い。


深刻なダメージを受けているが、意識は辛うじて保てているサフラは、男の一人語りを耳に入れて思考を加速させる。

(アイツの目的は精霊の捕獲?今まで森を侵す蟲は駆除してきたけど、私を狙ってきた事は無かった。まさか他の守護精霊達も狙われている?早く伝えないと…)


「…おや、つい長々と考え込んでしまいました。続きはこの素体を持ち帰ってからと致しますか。」

お喋りな男がふと我に返り少女に向き直る。そして懐から禍々しい石を取り出す。

「では…術式展開・【封印】」

そう唱えると地の精霊は吸い込まれ、忽然と姿を消した。

(誰か…助けてッッ!!)

消える直前、彼女の脳裏に過ぎったのは先程少し顔を合わせた程度の魔族の顔だった。


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